第205話

 と、その時。教室の扉が勢いよく開いて三千院先生が出て来た。



「校長先生、お静かに!」

「あ。す、すみません……」



 て、なんでそこに三千院先生が?



「あれー? 真綾ちゃん、なんで教室いんの?」

「倉敷君、三千院先生ですよ。今日は補習がありましてね。ほら」



 教室を見る。と、そこにはひよりがいた。



「みんなやっほー」

「やっほーて……休日まで補習って、大変だな」

「まー、ひより頭悪いからねー。でもみんな楽しそーで羨ましいー」



 相当疲れてるのか、ひよりはぐでーっと机に突っ伏した。

 大変な思いをしてるのに、俺らだけではしゃいでて申し訳ないな……あ。



「なら、授業風景ってことで写真撮れませんかね?」

「おお! さすが真田くん、ナイスアイデアだ! 三千院先生も勿論参加だぞ!」

「わ、私もですか!? ちょ、待ってくださいっ、今日お化粧も適当で……! す、すぐ直してくるので、待ってください!」



 あ、行っちゃった。

 まあ確かに、三千院先生めちゃめちゃ美人だから写真映えするだろうな。

 なんの気もない提案で、こんなことになるとは。



「へいへい! そんなら、撮影っぽく机の配置変えようぜ!」

「おけおけー。ウチも手伝うー」

「私もやるわ。カメラマンさん、指示をお願いします」



 龍也、寧夏、璃音がカメラマン指示の元机を動かした。

 俺もぼーっとしてる暇があったら、手伝うか。


 みんなの所に行こうとすると、隣にいたひよりが「ねえ、サナたん」と話しかけてきた。



「もしかして、ひよりが羨ましいって言ったから提案してくれたのー?」

「いや。何となくその方が盛り上がるかなって」

「……ぬへへ。優しーんだ」



 ほにゃっとした笑顔で頬をつついて、みんなの所に向かった。


 微妙に気まづくなり顔を逸らす。

 が、隣に立っていた梨蘭もにこやかな笑みで俺を見ていた。



「な、なんだよ」

「別に? やっぱり私の暁斗は優しいなって思って」

「だから、そんなんじゃないって」

「わかってる、わかってる。暁斗はそういう子よね」



 まるで母親のように頭を撫でてくる。

 気恥ずかしくなり、つい払い除けてしまった。



「やめろって。こんな所で」

「あら。じゃあ2人きりならいいの?」

「……まあ」

「素直じゃない暁斗も好きよ」



 うるへぇ。

 顔を逸らして頬を掻く。

 するとその時──パシャリ。



「え?」

「あっ。す、すみません、いい光景だったので、つい撮ってしまって」



 撮った写真を見せてくれた。


 ……確かにいい写真だ。

 にこやかに笑う梨蘭に、照れくさそうにしている俺。

 まさに高校生活の一部を切り取ったような感じに、みんなも感嘆の声を漏らした。



「おおっ、まさにお似合いって感じだな」

「完全に2人だけの空間って感じだねぃ。つよつよカップルだ」

「あの梨蘭ちゃんがこんなに素直に……なんだか、娘が遠くに行っちゃった気分だわ」

「むー。あの2人可愛すぎないー? ずるだー、反則だー」



 横から覗き込むみんなが、好き放題言う。

 やめろやめろ、見るんじゃねぇ!



「ふむ……決めた!」

「校長先生。何を決めたんですか?」



 突然声を上げた校長に、梨蘭が質問した。



「これをパンフレットの表紙とする!」

「「えっ」」



 そんな『ここをキャンプ地とする』みたいなノリで言われても。



「そ、そんな勝手に決めていいんですか?」

「うむ、何せ私は校長だからな!」



 職権乱用だ!



「真田君、よく考えてみたまえ。そもそも君らに頼んだのは、君と久遠寺さんが『運命の赤い糸』で結ばれているからだ。君ら2人を表紙にするのになんの問題もないだろう?」

「そ、それはそうですが……」

「まあまあ、いいじゃない暁斗。そもそもプロモーション会社のモデルにもなったんだし、今更よ」



 ……確かに。もう俺らのこと、世界中に発信されてるからなぁ……うん、今更か。



「はぁ……わかりました」

「そう言ってくれると思ったよ! さすが真田君! 話がわかる男は好きだ!」

「初老の男性に好かれる趣味はないんで」

「ははははは! それもそうか!」



 なんと言うか、豪気な人だな。

 揺らぎがないというか、芯を持ってるというか。

 と、丁度その時三千院先生が戻ってきた。



「お、お待たせしましたっ。……あれ、どうかしました?」

「いやいや、素晴らしい青春を見せてもらっていたばかりだよ」

「また真田君と久遠寺さんですか」



 おいコラ。またってどういう意味だ。



「さあ諸君! パパッと終わらせてお疲れ会と洒落こもうじゃないか! 勿論私からの奢りだぞ! と言っても、ジュースとお菓子くらいしか用意してないがな! ははははは!」

「マジすか!? ヒューッ、さすがこーちょー先生! 一生ついて行くッス!」

「ウチもー!」

「ひより、お菓子好きー」

「君ら現金だな! 現金な若者も悪くない! 大いに先人の後ろをついてきたまえ!」



 訂正。豪気というより、龍也や寧夏と似たタイプだ、この人。

 だから憎めないんだな、俺も。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る