第203話

 走って20分。ようやく龍也の住むマンションに着いた。

 マンションの玄関で部屋番号を押すと、通話ベルが鳴った。

 待つこと数秒。


 ブツッ──。


 あいつ、切りやがった……!

 再度ベルを鳴らす。

 ブツッ──。

 また鳴らす。

 ブツッ──。

 諦めずに鳴らす。

 ブツッ──。

 しつこく鳴らす。



『しつけぇ!』

「お、出た」



 なんだ、元気そうじゃん。



「開けろ。話をしに来た」

『嫌だ』

「このまま永遠に嫌がらせのチャイムをし続けるぞ」

『不審者ってことで警察呼ぶから』

「ならスマホで電話しまくる」

『ブロックする』

「じゃあマンションよじ登る」

『不法侵入だぞ!?』

「知ったことか! いいからさっさと面ァ見せやがれ! 俺とテメーの話だろうが!」



 いい加減ブチ切れるぞゴルァ!



『…………』

「……おい、無言はやめろ? これじゃあ本当に不審者だろ、俺」

『…………』

「おいコラ、泣くぞ。泣きわめくぞ」

『それはガチ迷惑だからやめろ』



 よかった。切れてなかった。

 と、ようやくオートロックの扉が開いた。



『はぁ……上がれよ』

「おう」



 扉が閉まる前に急いで入り、龍也の部屋まで階段を駆け登る。

 あーくそっ。体力落ちてやがる。マジでリハビリしないとな、こりゃ。


 駆け登り、なんとか到着した。

 心臓が早鐘を打つように高鳴る。

 おえ、吐きそう。気持ち悪い。



「全く……今学校だろ。なんでここいんだよ、お前」

「ぜぇ、はぁ。おぇっ……り、りゅうや……」



 龍也は観念したのか、苦笑いを浮かべて玄関先に立っていた。

 見るからに元気そう。やっぱり体調不良というのは嘘らしい。



「も、もう逃がさね……ぞっ……ぜぇっ、はぁっ……お、大人しく……!」

「逃げねーよ。……まずは上がれ」



 龍也に促され、部屋に上がる。

 部屋には冷房が掛かってるのか、熱くなった体が冷えて丁度いい。


 椅子に座ると、目の前に麦茶の入ったコップが置かれた。

 そいつを1杯、2杯、3杯飲み、ようやく息が整った。



「ふぅー……さて、龍也」

「ああ、わかってる。さっきネイからメッセが来たからな……話し合──」

「まずは殴らせろ」

「ステイ!!」



 おん? なんだ、命乞いか?



「命乞いなら聞かんぞ」

「聞けよ! 話し合いに来たんじゃねーのかよ!?」

「そのつもりだったけど、顔みたらなんかイラッと来て」

「うおおおおお! 死んでたまるかあああああ!!」



 俺の手を握り、押し返そうとしてくる龍也。

 身長は龍也の方が高いが、力は俺の方が上。全力で手を握ると、簡単に跪いた。



「おうおう。握力90キロ舐めんなよ」

「うぎゃああああああ! 鬼! 悪魔! ゴリラぁ!」

「誰がゴリラだコラ」



 ったく……しょうがない。泣きわめく龍也が見れたし、これくらいで許してやろう。


 龍也から手を離し、改めて椅子に座る。

 が、龍也は痛がって半べそ状態だ。



「何してんだよ。話し合うんだから座れ」

「テメェこの野郎……いつか泣かす……!」

「はんっ、お前に泣かされるほど落ちぶれちゃいねーわ」



 …………。



「「ぷっ。あははははははっ!」」



 あー、くそ。普通に笑っちまった。



「なんだ。いつも通りじゃん、お前」

「言ってんだろ、いつも通りだって。ただまあ、気持ちの整理がついてないだけだ」

「気持ちの整理?」



 龍也は対面に座ると、気まずそうにそっぽを向いた。



「ほら、偶然の事故とは言え、あんなことあったろ。責任感じるというか……暁斗が許すって言っても、俺が俺を許せないというか……」

「アホか? いや、アホだったなお前は」

「んなっ! 真面目に反省してんだぞこっちは!」

「それがアホだって言ってんの。お前、そんな殊勝なやつか?」



 はぁー、なんだ。そんなことか。



「自分で自分を許せないとか、自分に酔ったこと言ってるだけじゃん」

「おま……逆に聞くが、暁斗はなんとも思わないのかよ。俺のせいで大変な目にあったんだぞ」

「別に」

「別にて!」



 え、もしかしてお気づきでない?



「俺と梨蘭の人生、お前と寧夏のいざこざのせいで半強制的に決められたんだけど。後悔はしてないけど、それと比べたら些細なことだろ」

「その節は本当に申し訳ございませんでした」



 おお、龍也のガチ土下座。こいつはレアだ。写真撮っとこ。



「それに俺と龍也の関係って、どっちかが大人しくするなんて馬鹿らしいだろ。俺らは2人揃ってはしゃいで、笑って、龍也がアホなこと言ったら俺がツッコむ。そんな関係が丁度いいんだよ」

「俺がアホなことを言うのは確定なのか」

「言わない自信あるか?」

「……ないな」

「だろ」



 こいつは自分のこと全くわかってねーな。



「何度も言うぞ。お前が気にすることは一切ない。以上」

「……はぁ……」

「なんだよ、ため息なんてついて」

「いや、一気に力が抜けた」

「そりゃよかったな。変に考えすぎだ、お前は」



 軽く龍也の頭を叩く。

 疲労が一気に来たのか、机に突っ伏してまるでスライムのように溶けた。


 直後。



「コラァ! アッキー!」

「あ、寧夏」

「おー、ネイ」



 俺を追ってきた寧夏が突入してきた。

 部屋に入って、俺と龍也を交互に睨みつける。

 と、急に困惑した顔になった。



「あ、あれ? 流血沙汰は? 殴り合いは?」

「「しとらんしとらん」」

「な、なんだぁ……リラが切羽詰まってたから、ウチてっきり……」



 うちの梨蘭が勘違いさせてすんません。



「……その様子だと、話し合いは済んだ?」

「へいへい! もうバッチリだぜ!」

「悪いな、寧夏。心配かけて」

「……う、うえぇ〜んっ! ばかばかばかぁ! 本当に心配したんだから2人とも〜!」

「ちょ、寧夏さんガチ殴りやめへぶっ!?」

「ね、ネイ落ち着ぷげらっ!?」



 俺と龍也、寧夏の前にノックアウト。


 せっかく殴り合わずに済んだのにッ!

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