第202話

 翌日も、その翌日も。

 龍也は体調不良で学校を休んだ。



「おい寧夏、答えろ」



 昼休み、寧夏を校舎裏に呼び出し壁ドン。

 当然逃げられないように両方から。



「ひぇっ。アッキー、お顔怖いよぉ……ほ、ほらぁ、笑って笑って。にこっ☆」

「あ?」

「ごめんちゃい」

「ま、まあまあ暁斗、落ち着いて……!」



 梨蘭に引き剥がされて、我に返った。

 ついイラッとしちまった……最低だな、俺。

 落ち着け俺。クール、クール暁斗だ。



「……悪い。ちょっと情緒不安定で……」

「んーん。アッキーの気持ち、よくわかるよ。でもりゅーやの気持ちもわかってくれると嬉しいな」

「ああ。それでも……」



 だからって、こんな避けられるようなことされると、逆に気になるというか……。


 気まずくなって黙っていると、寧夏が気まずそうに目を逸らした。



「……ハッキリ言うと、りゅーやの精神は今はすり減ってる。まだ前を向けてないの」

「俺は許してるのにか?」

「心情の問題だよ。どれだけアッキーが許したとしても、りゅーや自身の心は許しきれてないの。アッキーならわかるでしょ?」



 まあ……そう、かもな。

 龍也はああ見えて、かなり繊細なやつだ。

 特に友人関係のことになると、中学の頃からこうなることが多かった。



「それでも数日でケロッとしてたはずだけど、今回はかなり重症だな」

「それは、アッキーが相手だからだよ」

「俺が?」

「りゅーやにとって、アッキーは親友だもの。自分のせいで親友があんなことになったら、塞ぎ込むなって方が無理じゃない?」



 ……何も言い返せない。その通りすぎる。



「でも、このままなんて嫌だぞ、俺」

「わかってる。りゅーやも、家でそう言ってるから。だからもう少し。もう少しだけ待ってあげて」

「……わかった」



 寧夏が言うなら、寧夏に任せよう。

 寧夏は申し訳なさそうに頭を下げると、校舎裏から立ち去った。



「暁斗、大丈夫……?」

「……梨蘭、こっち来て」

「何? キャッ……!」



 梨蘭を抱き寄せ、首元に顔を埋めた。

 強く抱き締めて、梨蘭の存在を全身で感じる。

 急に抱き締めたからか、梨蘭の体温が上昇し体か硬直した。



「あああああ暁斗とととととっ!? ど、どうし……!?」

「ごめん、梨蘭。もう少しこのままでいさせてくれ……」



 そうでもしないと、寂しくてどうにかなっちまいそうだ。

 梨蘭もそれを察してくれたのか、深く息を吐いてゆっくりと俺の背中に腕を回した。



「よしよし。大丈夫、大丈夫よ」

「……ん」

「アンタら、すごく仲いいじゃない。こんなことじゃ、アンタらの友情は切れないわよ」

「……ん」



 そう言ってくれると、心が軽くなる。

 こんなことで龍也との関係が切れるのは嫌だ。

 どうにかして、また前みたいに話したい。また前みたいに馬鹿なことをしたい。また前みたいに遊びたい。



「どうしたらいいかな、俺……」

「んー……正直、わかんないわね」

「そりゃそうか」

「ええ。なんでアンタが、こんなことでうじうじ悩んでるのか。それがわからない」

「……え?」



 顔を上げると、まるで聖母のような微笑みを浮かべる梨蘭がいた。

 俺の頬をそっと撫で、触れる程度のキスをする。

 慈しむように、包み込むように。


 不意打ちのキスに今度は俺が硬直していると、今度は梨蘭が俺の胸に擦り寄って来た。



「アンタは誰?」

「え……?」

「だーれ?」

「……暁斗……真田暁斗」

「そう。アンタは真田暁斗よ。アンタは今まで、こういう時どうしてきたんだっけ?」



 今まで……俺は今まで、こういう時……。



「……ぶつかる。真正面から」

「そうよっ。アンタはいつもそうやって、色んなことを解決してきたじゃない。今回も期待してるわよ」

「……ああ」



 そうだ。こんなことでうじうじしてるのは俺じゃない。

 ちゃんと龍也と話し合う。そして前に進む。


 それが俺だ。


 梨蘭は俺から離れ、念を押すように俺の胸をつついた。



「あ、でも落ち着いたらにしなさいよ。今のままじゃ喧嘩になりそうだし」

「ああ、わかってる。じゃ、今から龍也んとこ行くから早退するな」

「話聞いてた!?」

「おう。喧嘩しなきゃいいんだろ? わかってる、わかってる。三千院先生にはうまく伝えといてくれ」

「ちょ、暁斗ー!」



 梨蘭に手を振り、校舎裏のフェンスをよじ登って脱出。

 龍也の家まで走って向かった。

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