第184話

   ◆



 どこだろう、ここは。

 ふわふわした感覚。夢の中にいるみたいだ。

 綿菓子に包まれてるのか、甘いような香りもする。


 ゆっくりした時間が流れる……暖かい。


 とにかく体を動かそう。

 と思ったけど……動かそうにも動かせない。

 まるで縛られているような感じ……金縛り? それとも違う……のしかかられているような、そんな感じだ。



『……ッ……あ……と……!』



 ……泣いてる……誰だ……? 誰が泣いてるんだ……?

 くそ……動かない。起きなきゃ……起きなきゃ……起きなきゃ──。



   ◆



「…………っ」



 ……眩し。

 どこだ、ここ……。


 白い天井。ふかふかのベッド。窓。陽の光。消毒液の匂い。

 保健室? いや、違う……病院、か?



「ひぐっ、えぐっ……あぎどぉ……あぎどぉ……!」

「梨蘭ちゃん、落ち着いて。ね?」

「アッキー……」



 この声、は……?



「誰だ……誰か、そこにいるの、か……?」

「ッ!? あきと……!」

「ぁ……な、ナースコール!」

「アッキー!」

「サナたん……!」



 目の前に1人1人、心配そうに見つめる顔が見える。

 みんなのことをボーッとした視界で見つめながら、俺は何も考えることができずにいた。


 なんでこんなに泣いてるんだ?

 何をそんなに心配そうな顔をしてるんだ?


 俺は……どうしちまったんだ……?






 医者が来て、簡単にだが諸々の話をされた。

 どうやら俺は、体育祭中に騎馬の上から落ち、頭を打ったらしい。

 更にその上から複数人が雪崩のように落ちてきて、押し潰されたんだとか。


 …………。



「全然覚えてねぇ」



 てか、体育祭をやってたことすら覚えてない。

 頭を強く打って、記憶が飛んでるのか……?



「無理もありません。後ほど精密検査を行いますので、今日はこのまま入院です。今ご家族に連絡致しますので」



 げ。まあ仕方ないか。


 医者が出ていったのを見送り、俺は疑問に思ってたことをみんなに聞いた。



「で、龍也はなんで顔面腫らして正座してんの?」

「この馬鹿の無茶な作戦のせいだよ。ホント、うちの馬鹿がごめんね、アッキー」



 ああ、なるほどそういう……。



暁斗あひほマジでごめんまひへほへん

「何言ってんのかわかんねーけど……ま、気にすんな」



 後でなんか奢らそう。



「事故があってから、どのくらい経った?」

「2日よ。その間あなた、全く起きなかったんだから」



 2日……そんなに経ったのか。

 通りで、体の節々が痛い。関節が固まってる。

 退院したら、しっかり解さないとな。



「暁斗!」

「えっ、うわっ!?」



 ちょ、近っ……!?



「暁斗、頭は大丈夫? 痛くない? 痛み止め、貰ってきましょうか?」

「だ、大丈夫。大丈夫だからっ」

「こらこら、リラたん。サナたんを驚かせないの」



 近かった顔が引き剥がされる。

 た、助かった……。



「ありがとう、土御門、、、

「ううん。気にしない……で?」



 ぽかーんとする土御門。

 いや、土御門だけじゃない。他のみんなもぽかーんとしている。


 ど、どうしたんだ? 俺、何か変なこと言ったか?



「えっと……ごめんアッキー。ウチのこと呼んでみて?」

「ん? 寧夏だろ?」

「そこの馬鹿は?」

「龍也だ」



 何言ってんの、こいつ。



「じゃあ暁斗君。私のことは?」

「……竜宮院、、、だ。おいおい、いつから俺のことを暁斗君って呼ぶようになったんだよ」



 俺らってそんな仲良かったっけ。そんな記憶はないけど。



「これ……まさか……?」



 みんなが神妙な面持ちになる。

 ちょ、怖い怖い。そんな顔で俺を見ないで。



「あ、あ……あき、暁斗……わ、私は……? 私は、わかる……?」



 わかるって……わかるも何も。






「お前、久遠寺、、、だろ。なんでお前が俺の心配してんの?」






 ────。

 空気が、死んだ。

 え? え?? え????



「いや、だってお前、俺のこと嫌いだろ。それを暁斗って呼び捨てで……どういう風の吹き回しだ」

「なんてこと……」

「うわぁ、リアルである? そんなこと……」



 竜宮院と寧夏が頭を抱える。

 土御門と龍也は未だにぽかーんとし。


 久遠寺は、絶望した顔で大粒の涙を流した。

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