第181話

「疲れた……精神的に疲れた」

「私も、こんなに注目されるとは思わなかったわ……」



 競技が終わり、梨蘭と一緒に応援席に戻る。

 さすがの梨蘭もゲンナリしてる。

 いやまあ、あんなの引いた俺の責任なんだけどさ。

 ……ん? いや、『運命の赤い糸』のせいなら、俺だけじゃなくて梨蘭のせいでもあるよな。うんうん、そうだ。


 そんなこと言ったら、梨蘭がむくれちゃうから言わないけど。


 ……いや違うな。これも全て、あんなくじを用意した薬師寺先輩のせいだ。後で文句言ってやる。


 と、ひよりと寧夏がニヤニヤしながら近付いてきた。



「サナたん、リラたん、おつかれー! 2人の勇姿はばっちり写真に撮ったよ!」

「動画ももちろん撮ったぜぃ。にしし」

「ていっ」



 チョップだコノヤロウ。



「「あぅっ!?」」



 目を『><』にして頭頂部を擦る。

 全く、人を弄るのも大概にしなさい。



「うぅ、アッキーひどい」

「なんでひよりまで」

「ごめん、ノリ」

「わーん! リラたん、サナたんがいじめるーっ!」

「リラ、アッキーを叱ってよ〜」

「よしよし。こら暁斗、めっ」



 寧夏とひよりが梨蘭に抱きつき、俺が責められる。何故俺が怒られてるんだ? 解せぬ。


 と、今度は璃音が近付いてきた。



「お疲れ様、暁斗君。かっこよかったわよ」

「お前までからかわないでくれ」

「心外ね。反応が面白くて弄ってるだけよ」

「同じじゃねーか」



 精神的に疲れてるんだから、今はそっとしておいて欲しい。切実に。



「じゃ、俺は青組に戻る。またな」

「ええ。また後でね、暁斗」



 梨蘭達に手を振り、自陣へと戻る。

 まあ道中はめっちゃ見られるんだけどね。

 この好奇の視線、慣れないなぁ。


 俺が戻ってきたことに気付いた龍也が、手を上げて出迎えた。



「へいへい暁斗、おつおつー」

「マジで疲れた。まさか体育祭の競技でこんな疲れるとは思わなかったわ」

「ようやくあの女帝の恐ろしさがわかったか」

「ああ。恐ろしいというか発想がヤバいというか」



 バカと天才は紙一重って言うけど、あれはかなりギリギリだ。

 バカなのか、天才なのか。


 なるべく関わりたくないなぁ、あの人には。



「むしろ1年のこの時期まで、あの鬼女に目をつけられなかった方が凄いぜ」

「俺はいい意味でも悪い意味でも学校に貢献してないからな。地味に目立たず生きてたら、目を付けられる方が稀だろ」

「そうかぁ? 俺らなんて入学3週間くらいで目を付けられたけど」



 それは全面的に、やらかしたお前らが悪い。


 ま、何にしても俺が出る競技は終わった。

 後の競技は、観戦するだけだな。


 がんばれー、みんなー。



   ◆



「おいコラ龍也。こっち向け」

「い、いやぁ。ホントごめんて」



 ごめんで済むか、ごめんで。


 なんで……なんでっ……!



「なんで大将馬の騎手が熱中症で倒れて、その代役が俺なんだよ……!」

「ワォ、完璧な説明。さすが暁斗サンっす!」

「は?」

「ごめんなさい」



 直角お辞儀で謝罪する龍也。

 ったくこいつは……。


 龍也の無茶ぶりに頭痛を覚えてると、他の大将馬の騎馬2人も頭を下げた。



「真田、申し訳ない」

「真田君も疲れてるだろうけど、協力して欲しいな……」



 身長180センチオーバー2人から見下ろされると、自分が小さくなった感覚になるな。



「まあ、熱中症で倒れたなら仕方ないけどよ……なんで俺なわけ?」

「こんな事、突発的に頼めるの暁斗しかいないべ? 暁斗、こういうの断らないし」



 チッ。中学からの仲だからか、俺のこと知り尽くしてやがる。

 なんか腹立つから認めたくないけど。



「ラーメン3日で手を打とう。もちろん、龍也の奢りだ」

「マジ!? へへ、サンキュー暁斗!」



 引っ付くな、暑苦しい。


 他の2人からも改めて謝罪と感謝をされ、いよいよ引くに引けなくなった。



「はぁ。それで、作戦とかあんの?」

「それは任せろ! 誰にも負けない完璧な作戦があるぜ!」

「へぇ、聞かせてもらおうか」



 円陣を組み、龍也発案の作戦を聞く。



「──って感じだ。どうだ?」

「それ、真田に負担を掛けないか?」

「そ、そうだよ。助っ人の真田君に任せ切りなのは……」



 ふむ……。



「いや、大丈夫だ。ここまで来たんだ。どうせならとことんやってやろう」

「おおっ、いいね暁斗! そう来なくちゃ!」

「調子に乗んな」

「いでっ」



 はぁ……どうしてこうなった。

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