第180話

 借り物競争の列に並ぶ。

 この競技は1年生限定だから、周りを見渡しても見たことあるやつしかいないから楽だ。



「真田、期待してるぞ」

「お前なら何かやってくれる」

「俺らはわかってるから、な?」

「喧しいわ」



 訂正。全く楽じゃない。


 因みにこの競技は男女別じゃない。スピードや体力勝負じゃないからな。みんなでワイワイが、この競技のコンセプトらしい。


 さて、俺はどんなものを借りることになるのか……。


 その時、グラウンドに放送が流れた。



『それではこれより、一年生借り物競争を始めます。借り物の内容は、このグラウンド内にあるもの限定となっておりますので、皆さん頑張ってください』



 へぇ、グラウンド内限定なら、変なものには当たらないか。



『数は100種類ほどあります。中には「借り物を使って一発芸」「特定の人物と即興漫才」などあります。それができないとゴールにはなりませんので、当たった方はご覚悟を!』



 そんな覚悟しなきゃいけないものまでいれるんじゃない!



『因みにこちらは薬師寺生徒会長からの無茶振りです』

『うむ! 気張れよ、後輩共!』

「「「「女帝がッッッ!!!!」」」」



 想像以上に変な人すぎるだろ!

 即興漫才とか絶対できないから!



『えー、1年生にひとつアドバイスをすると、この人と1年も一緒にいたら慣れます。がんばって』

「「「「ふざけんな!?」」」」



 放送係の人、諦めてる感がヒシヒシと伝わってくるんだけど!?



『それでは1グループ目から順次行っていきましょう。準備のほど、よろしくお願いします』



 おい、まさかこれ、1番ハズレの競技じゃないだろうな……。


 最初のグループが列に並び、合図と共に走る。

 距離は100メートルで、50メートルのところに箱がある。そこから紙を1枚引くらしい。


 が。



「あ、よかった。青組の鉢巻か」

「はぁ!? ラガーマンを担いで走る!?」

「三千院先生と一緒に即興漫才!?」

「えっ、私何も聞いてませんが!?」

「私は飴か、よかったぁ。……え、どこにあんの?」

「この中にお医者様の息子さんはいらっしゃいませんかー!?」

「私の持つ聖剣エクスカリバーって、こんなのクソ女帝しか書かねーだろ!? なんだエクスカリバーって!」



 思った以上に阿鼻叫喚。


 普通のもあるみたいだけど、普通じゃないものもある。

 あと、マジで聖剣エクスカリバーってなんのことだ。


 ギャーギャーワーワー。第1グループから酷い有様だ。



『ははははは! いいぞ、後輩共! やっぱりイベントは楽しんでこそだ!』



 無茶振りすぎんだよ!!


 5分ほどでようやく第1グループは全員ゴール。

 三千院先生と男子生徒の即興漫才は大スベリだった。



「薬師寺美織ィ!!」

『ふはははは! 三千院先生、面白かったぞ!』



 あんな怒ってる三千院先生、初めて見た。


 そうこうしてる間に第2グループ、第3グループと進んでいき、ついに俺のいるグループの番になった。



「へいへいへーい! 暁斗、やったれー!」

「アッキー、がんば〜」

「暁斗君、面白いの期待してるわよ」

「サナたん、ゴーゴー!」

「あ、暁斗っ! がんばれー!」



 龍也、寧夏、璃音、ひより、梨蘭の順に声援が聞こえてくる。

 まあ、やるからには頑張るが……なんで体育祭の競技でこんな緊張しなきゃならないんだ。


 あんまり悪いのは出て来ませんように。


 グループ全員が並び、構える。

 そして。



「位置について、よーい……」



 パンッ──!!


 スタートした。

 スピードで言えば俺が2番。1番の奴、確か陸上部の短距離選手だったはずだ。

 こんな所に出てくんじゃねぇ。徒競走行けや。



「よし、1番! ……って、相撲部と二人三脚ぅぅううう!?」



 こいつは終わったな。


 2番目に着いた俺。

 鬼が出るか蛇が出るか……いざ!


 ぴろ。



「…………」

「おい見ろ! 暁斗が見たことないほど渋い顔してんぞ!」

「写真撮るぜぃ! けひひひひひ!」



 いや、渋くもなるわ。

 はぁ……しょうがない。行くか。


 俺は赤い糸を辿り、真っ直ぐに梨蘭の元に向かっていく。

 梨蘭もなんとなく察してたようで、応援席を区切っている紐を潜ってグラウンドに出て来た。



「やっぱりね。暁斗のことだから、私に関連するものだと思ったわ。さ、行きましょう」

「…………」

「……暁斗? どうしたの?」

「あー……すまん、梨蘭。ちょっとの間我慢してくれ」

「え? ちょっ、キャッ!?」



 梨蘭の肩と膝裏に手を回し、そっと抱きかかえる。


 そう──お姫様抱っこである。



「ああああああっ、暁斗……!?」

「これが条件なんだ。その……ごにょごにょ……」

「え? 何?」



 う、ぐうぅ……!






「がっ、がっ……学校で、1番かわいい人をお姫様抱っこで連れてくる、て……」

「────」






 俺と梨蘭、共に顔が真っ赤。

 それを見た生徒たちは、自前のスマホでめっちゃ写真を撮ってくる。


 こ、ここにいたらいい晒し者だ……!



「な、なるべく揺らさないようにして行くからっ」

「よっ、よっ……よろしく、お願いします……♡」



 キュッ、と俺の胸元を摘む梨蘭。

 あーもう! クソ可愛いなあ!!


 周りからの暖かい視線や声援を背に、梨蘭と共にゴールへ向かう。

 最終的に、俺らはそのグループ1位でゴールし、大歓声を貰ったのだった。



『あっはっはっはっは! 真田君、いい引きしてるなぁ君は!』



 あのクソ会長、後で覚えてやがれ……!

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