第172話
「はぁ、疲れた……」
結局弁明に2時間も掛かった。
そのせいで、もう夜の22時だ。
2人の後に俺と梨蘭が風呂に入り終え、寝室でまったりとした時間を過ごしていた。
あ、もちろん別々だぞ? さすがにまだ2人で風呂はハードルが高すぎる。
まあ、いつかはとは思うけど……って、これじゃあまたむっつりって言われちまう!
ベッドの縁に座った梨蘭は、まだ恥ずかしそうにモジモジしている。
「ま、全く。これも全部、暁斗のせいね」
「いや、どう考えても梨蘭だろ」
「あんなにすることないじゃないっ。すごくくすぐったかったのよ」
むすー、と頬を膨らませる梨蘭。可愛い。
けど謝らん。あれは梨蘭が悪い。俺、悪くない。
「あ、そういや2人に呼ばれてんだろ? 行かないのか?」
「そろそろ行くわ。多分今日は向こうで寝ちゃうかもしれないから、寝ちゃってていいからね」
「おー」
梨蘭は自分の枕を持って部屋を出ていくと。
ひょこ、と顔だけ覗かせた。
「どうした?」
「……おやすみやさい」
とてててて……。
……それだけ言うために、わざわざ顔覗かせたのか?
律儀というかなんというか。
梨蘭が早足で廊下を歩く音を聞きながら、ベッドに横たわる。
…………。
「いや可愛すぎかよ」
最近の梨蘭、本当にあざとくなってきてる。
あれが梨蘭の素の姿……くそ、心臓が持たないんだけど。
◆梨蘭◆
うぅ。暁斗のばーか……!
あのくすぐりから、恥ずかしくてアイツの顔も満足に見れないじゃないっ。ばーか、あーほ。
……まあ、うん。久々に暁斗と触れ合えて嬉しかったのは事実だし、むしろ気持ちよかったというか、すごく感じちゃったというか……。
そういえば聞いたことがある。くすぐりが弱い人は、体がすごく敏感らしい。
…………。
「〜〜〜〜ッッッ!!」
ドンドンドンッ! 無意識のうちに地団駄を踏んでしまう。
でもわかってほしい、この気持ち。
でも、私ってこんなにくすぐり弱かったかしら?
お姉ちゃんにくすぐられた時も、こんなに弱くなかったはずだけど。
うーん……?
「梨蘭たん、さっきから部屋の前でどうしたの?」
「ひゃっ!? あ……こほん。な、なんでもないわ」
いけない、部屋の前で随分と考え込んじゃってたみたい。変な声も出しちゃったし。
「ほら梨蘭たんっ、早く入って入って!」
「え、ええ」
琴乃ちゃんに引っ張られて部屋に入る。
と、ベッドの上にバスタオルが敷かれ、その上に沢山のお菓子が並んでいた。
「姐さん、待ってました!」
「さあさあ梨蘭たん、ジュース持って!」
「え? あ、ありがとう」
予め買い込んでいたのか、冷蔵庫には缶のジュースやお茶が沢山入っている。
チラッと見えたけど、コンビニのスイーツとかも入ってるみたいだ。
「それじゃあ、第一回女子会を祝して! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「か、かんぱーい……って、この時間にお菓子とジュースって、太っちゃうわよ?」
「ちっちっち。姐さん、女子会はそんなこと気にしちゃ負けなのです! カロリーなんて気にしない!」
ぐいーっ。巷で噂の高カロリーフルーツジュースを煽る乃亜ちゃん。
た、確かに、この時間に飲むジュースと高カロリーお菓子……たまらないわっ!
ごく、ごく、ごくっ……!
「ぷはぁー! うまぁい……!」
「んーっ、この時間に食べるマカロン、悪魔的うまさ……!」
「私、しょっぱい系貰いますっ」
背徳感が合わさって、脳がビリビリと痺れるぅ〜……!
マカロンを頬張る琴乃ちゃんがニヤリと笑い、「それにしても」と口を開いた。
「梨蘭たんもお兄も、あんな場所でおっ始めるだなんてね〜」
「だ、だからあれは違うんだって。ちょっと悪ふざけというか、くすぐりあってたというか……」
「ホントーですかぁー? 姐さん、くすぐり弱いんですねっ!」
「キャッ!」
ちょっ、乃亜ちゃんっ! くすぐっ……あれ?
「……くすぐったくない?」
「え? そんなバカな……だってセンパイにくすぐられてた時、あんなトロ顔してたんですよ?」
「トロ顔言わないで」
「じゃあアヘ──」
「言わせないわよ」
でもおかしいわね。確かに暁斗にくすぐられた時は、めちゃめちゃくすぐったかったのに。
「あ、もしかして……梨蘭たん、お兄限定でくすぐったいとか?」
「えぇ。琴乃、それは考えすぎじゃない? 人によって変わるなんてことある?」
「でも実際くすぐったくない訳だしさ」
2人が首を傾げて私を見る。
うーん……。
「考えられるわね」
「えっ、そんなことあります?」
「ええ。私と暁斗、濃緋色の糸で繋がってるから」
「「こきひーろ?」」
あ……そういえば2人にはまだ説明してなかったっけ。
……ここまで来ちゃったし、説明してもいいかな。どうせいつかはバレることだし。
「私と暁斗を繋いでる糸は、赤い糸の中でも超稀少な色をしていてね──」
桃色の糸と朱色の糸のいい所を兼ね備えた緋色の糸。
それの何十倍も相性のいいのが濃緋色の糸だってことを説明すると、2人はものすご〜く納得いった顔をして頷いた。
「なるほどですね。こりゃあ、私の入る余地なんてどこにもありませんよ」
「2人の距離感が独特なのって、そういった理由もあるからなんだね。確かにずっとくっ付いてたら、センシティブな内容になっちゃうし」
「ニヤニヤした顔やめて」
まあ、琴乃ちゃんの言う通りなんだけどさ。
センシティブな内容……うん、今は考えないようにしよう。
「あれれ〜? 梨蘭たん、顔真っ赤だよ〜?」
「なんでですかぁ〜? なんでですかぁ〜〜?」
……考えないもん(ぷい)。
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