第171話

   ◆



「ぷっはー! 姐さんの料理、最高でしたーっ」

「ホント! お兄、こんなの毎日食べられるなんて羨ましい!」

「そんな、大袈裟よ。まだ料理を覚えて数日だもの」



 いやいや、大袈裟じゃなく美味いのは本当だ。

 実際数日でこんなに美味くなるって、相当料理の才能があると思う。



「うまかった。ご馳走様でした」

「「ご馳走様でした!」」

「ふふ、お粗末さまでした」



 夕飯を食べ終え、みんなで手を合わせる。


 因みに今日の夕飯はオール中華。

 麻婆茄子にエビチリに酢豚と、かなり豪勢なメニューだった。



「梨蘭、ありがとうな。疲れたろ、お茶とお菓子出すから、ゆっくり休んでな」

「うん。それじゃあお言葉に甘えさせて」



 ここ数日で俺と梨蘭の役割分担はだいぶ出来てきた。


 食事の準備は梨蘭。食後のお菓子を出したり、洗い物は俺。

 洗濯はドラム式洗濯機に入れ、洗いから乾燥まで全自動。できたら2人で畳む。

 掃除は土日に2人で。あとは気付いたらこまめにって感じ。


 これのおかげで、ストレスなく生活できている。



「おおっ。あの自堕落なセンパイが仕事してる……!」

「お兄、成長してるんだね。寂しいような嬉しいような……およよ」

「お前ら失礼なこと言ってる自覚ある?」



 俺だって梨蘭1人に任せるような真似はしないっての。


 茶葉から紅茶を入れ、2人の持ってきてくれた茶菓子を皿に盛る。

 クッキーやマドレーヌが入った、パーティーセットみたいな奴だ。梨蘭も喜びそうだな。


 きゃいきゃいと騒ぐ3人を見ると、なんか親子というより三姉妹に見える。

 美少女三姉妹。絵になるなぁ。



「ほい、お待たせ」

「ありがと、暁斗」

「センパイ、紅茶入れられたんっすね! あざっすー!」

「お兄が入れてくれた紅茶……あれ、おかしいな。涙が出てくるよ」



 だからお前ら失礼なこと言ってる自覚ある?



「ったく……」

「でも暁斗、最近では自堕落じゃなくなってきたわよね。中学の頃は、もっとぐーたらしてたけど」

「それは……あれ、確かにそうだな」



 別に意識してたわけじゃないけど、高校に上がってからかなり自主的になってる気がする。


 まさか、『運命の赤い糸』が見えるようになったからか?


 そういや、最初の頃に三千院先生も言ってたっけ。自分の運命の人を悲しませたくないから、いじめや自殺、犯罪が激減してるって。


 つまり、俺も無意識のうちに梨蘭を悲しませたり、愛想をつかされないように行動していたのかも。


 ……うん、ありえるな。恐るべし、『運命の赤い糸』。



「うわぁ。お兄、梨蘭たんのこと好きすぎじゃない?」

「なんかすっごく複雑な気持ちです。センパイ、責任取ってください」



 ジトーッとした目で見られた。解せぬ。



「わかってないな、お前ら。赤い糸が現れたらこうなんの。来年の今頃、お前らもこうなってるから」

「つーん。私は変わらないもーん」

「私だって今と変わらないですー」



 いや、変わってくれないと俺が困るんだけど。



「暁斗、相変わらずモテモテね。なんか腹立たしいわ」

「梨蘭まで何言ってんの?」



 って、痛い痛い。机の下から蹴ってこないで。



「全くもう……んっ」

「ぅっ……!?」

「? お兄、どうしたの?」

「い、いや、なんでもない」

「???」



 ちょっ、梨蘭っ……机の下で脚絡ませてくんなっ……!

 ひぃっ!? そ、そんな器用に……!?


 隣の梨蘭を見る。と、ぷいっとそっぽを向いた。けど、僅かに見える口の端が上がっている。


 こ、こいつ、今イタズラモードに入ってんな……って、うぅっ!? そ、そんなっ、つつつーって! つつつーやめろっ……!



「ふ、2人ともっ、先に風呂入ってきていいぞ。ふ、風呂も広いからなっ。2人で入れるぞっ……!」

「あ、そうだね。乃亜、行こ!」

「だね! じゃあセンパイ、姐さん! お先でーす!」



 2人は手を繋いでリビングを出ていった。

 なんか日に日に仲良くなってるな、2人とも。



「……で、梨蘭?」

「…………(ぷい)」

「おいこっち見ろ」

「…………(ぷぷい)」

「…………」



 こちょこちょこちょこちょ。



「んにゃぁっ!? ひ、ひぅっ! あひゃっ、ひっ! ら、めえ……!」

「先に手を出して来たのはお前だからな。こうなる覚悟はできてるんだろう?」

「あひゃひゃひゃひゃ! ひーっ、ひーっ! くしゅぐったいっ、やんっ! えっち、どこ触って……ひゃあぁぁっ!」

「脇しか触っとらんわ」



 このいたずらっ子め。たっぷりくすぐって──。



「お兄、バスタオルって使って……あ」

「琴乃ー? どうし……あ」

「あ」

「…………(ビクッ、ビクッ)」



 リビングに戻ってきた琴乃と乃亜。

 梨蘭の脇に手を突っ込んでる俺。

 痙攣し、ぐったりしてる梨蘭。


 間違いなく誤解を招く現場ですね、ありがとうございます。



「……ちゃうねん」

「いや、どう見てもアウトですよ、センパイ」



 ですよね、知ってます。



「お兄。いくら梨蘭たんと赤い糸で結ばれてるからって、私達がいる時にはちょっと……」

「これじゃあむっつりじゃなくてオープンですね」

「いや、だから違うって。あの、後ずさりしないで話を聞いてくれ!」

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