第158話

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   ◆



「これで準備はオーケー、と」



 金曜日の夜、全ての荷造りが終わった。

 布団だけはここに置いておくとして、あとの荷物はダンボールに詰め込んだ。


 ラノベや漫画が大半で、結構な量になったな。服も必要最小限しか持ってないし。


 ベッドの縁に座り、広くなった部屋を見渡す。

 ……この部屋、こんなに広かったんだな。


 なんとなく、寂しい気持ちになる。

 月に何度か帰ってくるとはいえ、明日からはもう別の家で生活が始まるんだもんな……。


 ボーッと天井を見上げる。

 昔はこの部屋で琴乃と一緒に寝てたんだっけ。

 で、俺が小3の時に部屋を分けたんだ。

 あの時の琴乃、この部屋でギャン泣きしてたっけなぁ。懐かしい。


 そんな俺がもう家を出て、運命の人と同棲を始める、か。

 時が経つのは早いな。


 なんだか寝付けず、色んなことを考えていると。

 部屋の扉が数回、ノックされた。誰だ?



「はい?」

「……お兄、今いい?」



 なんだ、琴乃か。



「ああ、いいぞ」



 俺の返事を待って琴乃が扉を開けると、部屋の中をぐるりと見渡した。



「おぉー、ほとんど荷物ないね」

「ああ。家の中も広いし、一応全部持って行こうかと思ってな」

「そっかぁ……お兄、本当に行っちゃうんだね」



 ぽふっとベッドにダイブする琴乃。

 どことなく、寂しげな顔をしてるのは気のせいだろうか。



「寂しいのか?」

「そんな訳ないじゃん。学校までのアッシー君がいなくなって不便なだけだよ」

「アッシー君言うな」



 なんだよ、俺の嬉しい気持ちを返せ。

 俺は寂しいのになぁ。まあ、琴乃らしいっちゃ琴乃らしいけど。


 なんとなく琴乃の頭をわしゃわしゃ撫でる。

 琴乃は「うあぁ〜〜……!」と変な声を出していたが、悪い気はしていないみたいだ。


 琴乃の頭を撫でることしばし。

 不意に琴乃から、聞き取れないくらいの小声が聞こえてきた。



「(冗談だよ、ばーか。寂しいに決まってんじゃん)」

「え、なんて?」

「難聴主人公死ね」

「琴乃ちゃん辛辣すぎない!?」



 俺の妹がこんなに辛辣なわけかない。


 うぅ、いつからこんな風に育ってしまったのか……お兄ちゃん、琴乃ちゃんの将来が心配よ。


 さめざめと泣いていると、琴乃がぴょんっとベッドから立ち上がった。



「ねえお兄。お兄が家を出るってことは、この部屋空くんだよね?」

「まあな。月に何回か帰ってくるから、完全に空くってわけじゃないけど」

「じゃさ、この部屋私にちょうだい? 最近荷物を置くスペースがなくなって困ってたんだよねぇ」



 んー……ま、別にいいか。特に迷惑になるわけでもないし。



「ああ、いいぞ」

「やったー! お兄大好き!」

「はいはい、俺も大好きだぞ」

「うわ、妹に大好きとか引く」

「兄に大好きとか言っちゃう中3も相当ヤバいぞ」

「私のはほら、リップサービスだから」

「くっ。リップサービスでも嬉しいと思ってしまう自分が恨めしい……!」



 だってしょうがないじゃん。可愛い妹から大好きなんて言われたら、そりゃ嬉しくもなるよ。



「まあまあ。私より梨蘭たんに言ってあげなって。喜ぶよ、きっと」

「琴乃に言われんでもわかってるわい」



 デコピンくらえ。



「うにゅっ!? 何すんのさ!」

「お兄ちゃんをからかった罰です」

「ぐぬぬっ。……しっぺ!」

「硬化!」

「にゃっ!? 筋肉かったい!」



 ふはは、琴乃程度の力でダメージを与えられると思うなよ。

 琴乃は悔しいのか、ぺちぺちと何度もしっぺをしてくる。ちょ、くすぐったいんですけど。



「このこのっ」

「やめい。頭わしゃわしゃしてやる」

「キャー♪」



 琴乃はキャッキャとはしゃぎ、頭わしゃわしゃを楽しそうに受け入れる。


 もしかしたら、本当に寂しかったからこうして俺の部屋に来たのかもな。



「安心しろ、琴乃。お兄ちゃんはいつまでも、琴乃のお兄ちゃんだ」

「っ……なんだ、気付いてたんじゃん。ばーか、あーほ」

「ま、なんとなくだけどな。だけど俺、結構鈍感な自信があるから、言いたいことはハッキリ言ってくれた方が嬉しい」

「自信満々に言うな」

「言ったろ、鈍感さには自信があるって」

「……こりゃ、梨蘭たんが苦労するわけだ」



 そのやれやれ、みたいな顔はやめなさい。


 琴乃はベッドから立ち上がると、ぐいっと俺の腕を引っ張った。



「ならお兄、一緒にアイス食べよっ」

「こんな時間にか? 太るぞ?」

「いいのいいの。お兄と食べたいって思ったから食べる! はい、言いたいこと言いました!」



 琴乃は恥ずかしそうに胸を張った。

 可愛い妹の頼みだ、仕方ない。



「じゃあ食うか。でも冷凍庫にアイスあったかな?」

「アイスがなかったら買いに行けばいいじゃない」

「仰せのままに、マリー琴乃ワネット様」

「語呂悪い、やり直し」

「厳しいなおい」



 部屋を出る琴乃と一緒に、俺も部屋を出た。


 で、結局冷凍庫にアイスはなく、コンビニで1番高いアイスを買わされたのは、別のお話である。

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