第155話
◆
「つっかれた……」
「さすがに今日は私も疲れたわね……」
結局、放課後まで騒ぎは収まることはなく。
学校を出る頃には、俺も梨蘭もくったくたの状態になっていた。
その上、校長先生からはパンフレットモデルの話まで来てるし……もう何が何やら。
梨蘭と肩を並べてイチョウ通りを歩く。
もう俺らの関係もバレてるんだし、今更隠すこともないからな。堂々と一緒に帰らせてもらっている。
「とりあえず状況を整理しよう。まず、次の土曜日には同棲が始まる」
「そ、そうね。同棲……ふ、ふふ。同棲……」
「ていっ!」
脳天チョップ!
「にゃっ!? にゃにすんのよっ!」
「お前がまたトリップしそうになってたのが悪い。いいから今は意識を保っててくれ」
「むぅ……でも、チョップしなくてもいいじゃない」
こうでもしないと、お前戻ってこないだろ。
「とにかくだ。土曜日には同棲が始まる。で、今月末には体育祭もある。それはいいな?」
「ええ、わかってるわ」
「それに加えて、パンフレットモデルの話も来てる。一応これは強制じゃないし、来月まで猶予がある」
「ふむふむ」
パンフレットモデルについては、梨蘭が復活した時に説明済みだ。
まあそれでも、かなり驚かれたけど。
「今のところはこれくらいか。可能性として、ひよりの運命の人……ウェディング会社の御曹司と会うかもしれないが、確定じゃないから考えないようにする」
「そ、そうね。そこまで考えると、頭がパンクするわ……」
ひよりから少し話を聞いたけど、御曹司はどうも同い歳らしい。
既に会社の手伝いもしてるらしいし、忙しい身ではあるらしいけど……どうも俺と梨蘭に会いたがってるのだとか。
俺の周りの奴ら、ハイパースペック多すぎ問題。
これも濃緋色の効果なのかもな……。
「今日からこれを、人脈チートと名付けよう」
「何頭悪いこと言ってるの? 大丈夫、頭?」
「そんな憐れむような目で見ないで」
いいじゃん、人脈チート。強いよ、最強だよ。
男心をくすぐるんだよ、こういうのは。
「ま、何にせよだ。現状をまとめると考えやすくなったな」
「直近の問題はパンフレットモデルよね。どうする? 受ける?」
んー……正直、受けてもいいとは思ってる。
ウェディング会社の広告モデルもやったし、今更世間に顔出しするのが怖いとは思わない。
それに、梨蘭とならなんとかなる。
そんな気がする。
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、梨蘭はふんっと胸の前で小さくガッツポーズをした。
「そうねっ。頑張りましょ、暁斗!」
「やるとは言ってないぞ」
「やらないの!?」
「いや、やるけど」
「いじわるしないで!」
ごめん、なんか可愛くてつい。
って、ポカポカ殴ってくんな、痛いから。
梨蘭は「全くもうっ」とそっぽを向いてしまった。
ただ、本当に俺でいいのかと思う。
先にも言ったが、梨蘭は誰もが振り向く美少女。
対して俺は、そんな梨蘭と釣り合うのかわからないほどのフツメン。
ウェディング広告の時は、プロのメイクリストさんにメイクをしてもらった。
けど、今回はいつも通りの俺だ。
そんな俺が、梨蘭と並んでパンフレットモデルになる……不安しかない。
校長先生はビビビッと来たと言ってたけど、本当かな……?
そんな不安を感じていると。
俺の手を、梨蘭がそっと握ってきた。
「大丈夫よ、暁斗」
「そう……かな……」
「ええ。私達は『運命の赤い糸』で結ばれてるもの。しかも世界でも数例しかない濃緋色の糸。誰がどう見ても、お似合いの2人なんだから!」
自信満々に笑顔を浮かばせる梨蘭。
そうか……そうだよな。絶世の美少女の梨蘭だけど、卑屈になることはない。
大丈夫、大丈夫だ。
そんな思いを込めて、梨蘭の手を握り返す。
梨蘭は一瞬体を硬直させたが、ゆっくりと緊張を解いて手を絡ませてきた。
「いい雰囲気のところ申し訳ありません」
「「ギャーーーーーーーッッッ!?!?」」
だ、だ、誰だ!?
思わず手を解いて振り返る。
そこにいたのは、気まずそうな顔をしている諏訪部さんだった。
「あははぁ。どうも〜」
「どうも〜、じゃないわ! 心臓止まるかと思ったわ!」
「す、すみません。ずっと付いてきていたのですが、お声掛けするタイミングを逸してしまい……」
「ずっと付いてきてたの!? 待って待って、恥ずかしいんだけど!」
梨蘭もだいぶ恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてうずくまってしまった。
と、とりあえず、付いてきてたってことは俺らに用事があったんだよな。話を進めないと……。
「それで諏訪部さん。一体どうしたんだ?」
「ああっ、そうでした!」
諏訪部さんはパンッと手を叩くと、にこやかに告げた。
「お2人の愛の巣……ご新居を押さえたので、これから案内しようかと。お時間ありますか?」
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