第154話

「にしても、これから数日間大変だな、暁斗」

「ねー。同じクラスのいがみ合ってる2人が『運命の赤い糸』で繋がってて、あんな大胆な宣伝したら、そりゃあ話題の中心になるよねぃ」



 龍也と寧夏がしみじみ言う。

 確かに、こんなに話題になるだなんて思ってもみなかった。

 有名企業の宣伝モデルをちょろっとやっただけなんだけどなぁ……。


 事態の収集に努めている梨蘭、ひより、そして諏訪部さんを見ていると、不意に校内放送が流れた。



『えー、1年5組の真田暁斗くん、久遠寺梨蘭さん。職員室、三千院のところまで来てください。繰り返します。1年5組の真田暁斗くん、久遠寺梨蘭さん。職員室、三千院のところまで来てください』



 ……オゥ、まさかの呼び出し……。



「暁斗君、何かやらかした?」

「わかってて聞くなんて性格悪いな、璃音は」

「失礼ね。これが私よ」

「自信満々に言うな」



 ったく、仕方ない。行くか。



「梨蘭、行くぞ」

「は、はいっ」



 なんとか人混みから抜け出してきた梨蘭。

 揉みくちゃにされて、所々髪の毛が跳ねてるけど。



「聞いたっ? 聞いたっ?」

「行くぞ(キリッ)、だって〜!」

「かっこいー!」

「旦那力高い〜!」

「梨蘭、行くぞ(キリッ)」

「は、はいっ(ポッ)」

「「「キャーーーーーッッッ!!!!」」」



 やめて! それ以上俺と梨蘭を煽るのはやめて! 恥ずかしいからっ、恥ずかしすぎるから!

 ほら、梨蘭も羞恥でぷるぷる震えてるじゃん!



「だ、旦那……旦那っ……暁斗、旦那……!」



 あ、違う。パニクって思考が混乱してるだけだ。

 とにかく三千院先生のところに行かないと。あの人、呼び出ししてから遅いとちょっと不機嫌になるんだよな。


 はぁ……よしっ。また噂になるだろうけど、しょうがないよな。


 梨蘭の腕を取ると、かしましいクラスの輪を抜けるように廊下に出た。

 後ろから喧しい歓声が聞こえるが、今は無視。



「おい梨蘭。そろそろ戻ってこいよ」

「旦那……だん、旦那……つまり私が妻、奥さん、暁斗の奥さん……」



 ダメだこりゃ。

 まあ、足取りはしっかりしてるし、自力で歩いてはいるから問題ないか。


 梨蘭の腕を掴んだまま、職員室に向かう。

 階段も何度かコケそうになったけど、その度に俺が支えてなんとか降りきることができた。


 あの、いい加減にしてくれませんかね?


 無事(?)に職員室にたどり着き、ノックを数回。



「し、失礼します。三千院先生、いらっしゃいますか?」

「あ、真田くん。こっちです」



 職員室横にある面会スペースみたいな場所から、三千院先生が顔を出した。

 まだトリップから戻ってこない梨蘭を連れて、面会スペースに入る。



「お待ちしてましたよ、お2人とも。……久遠寺さん、大丈夫ですか? なんかぼーっとしてません?」

「ああ、大丈夫です。ちょっと頭のネジが吹っ飛んだだけで」

「それ大丈夫と言わないような……?」



 三千院先生は心配そうに首を傾げた。

 まあ、たまにあることなので大丈夫大丈夫。


 まだトリップしている梨蘭をソファーに座らせ、俺もその隣に座った。



「それで、三千院先生。用と言うのは……」

「はい。こちらについてです」



 差し出されたのはスマートフォン。

 例のウェディング会社の公式ホームページで、そのトップに俺と梨蘭の写真が使われていた。


 まあ、SNSの公式アカウントで使われてるくらいだ。ホームページでも使われてるだろう。



「あ……もしかしてこれ、ちょっとまずいですか? 学校の許可とか……」

「はい。本来は、学校の許可を取ってからこういうことをするべきでしたね」



 ああ、やっぱり……。



「と、言いたいところですが。実はこちらの会社を通じて許可取りはされているので、問題はありません」

「え、そうなんですか? じゃあなんで俺達呼ばれて……」

「実は──」

「私が呼んだのだよ」



 ここにはいない、第三者の声が聞こえてきた。

 そして柔和な笑みを浮かべて面会スペースに入ってきた、1人の初老の男性。

 立派な髭を蓄えたこの人は……あっ。



「こ、校長先生っ。お、おはようございます……!」

「おはよう。いや、楽にしてくれ。今日は君と彼女に、お願いがあって呼んだんだ」



 え、お願い?


 校長先生は俺と梨蘭(未だ放心中)の前に、1枚の紙を置いた。

 その紙に書かれている内容とは。



「えっと……銀杏高校のパンフレットモデル?」

「ああ。ちょうど来年のパンフレットから一新しようとしていてね。君達にお願いしたいんだ」

「えっ!?」



 まさかまさかの提案だ。

 銀杏高校は、全国でも可愛い、カッコイイと言われるほど制服に力を入れている。

 そんな高校のパンフレットモデルに選ばれるのは、数年に一度のタイミングに在籍している生徒のみだ。


 しかも高確率で、顔のいい生徒が選ばれる。


 それもそうだ。これから数年に渡って、学校の顔になる訳だからな。

 でも、それが俺と梨蘭って……。



「梨蘭はともかくとして、俺には荷が重いと思いますが」

「……私はね、これでも人を見る目はあると思っている。そしてこのウェディング広告の君達を見た時、ビビッと来た。それこそ、ビビビッと!」

「はぁ。ビビビッと……?」

「次のパンフレットモデルは君達しかいない! そう私は確信しているのだ!」



 何このおっさん、熱量高すぎて引くわ。



「どうかねっ、真田くん!」

「真田くん。校長もこう言っていることですから……」



 三千院先生、あなたも苦労していますね。

 でも……うーん、そうだなぁ……。


 チラッと梨蘭を見る。

 梨蘭はこの学校でもトップレベルの美少女だ。今はトリップしてヨダレを垂らしてるとはいえ。


 勿論名誉なことだし、嬉しい気持ちもあるが。



「えっと、その……」

「どうかね!?」



 …………。







「保留ということで」

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