第153話

 週が明けて月曜日になった。

 特に代わり映えのない日常……のはずだった。


 チラ、チラ。ヒソヒソヒソ。


 ……なんか、見られてるような?

 先週までは何も感じてなかったのに、今日はよく見られる。なんなんだ、一体?



「アッキー、ちすちすー」

「おっす暁斗。相変わらずしけた顔してんな」

「やかましい」



 こいつらはいつも通り、一緒に登校してきたな。

 なんだかんだ、夏休みを過ぎても同棲を続けてるみたいだ。両親にも許可を貰ったって言ってたし。


 そんな2人が、スマホを取り出してニヤニヤとこっちを見てきた。



「な、なんだよ」

「へいへいへーい。なんだよとは連れねーな、暁斗」

「みんな遠慮して遠巻きにしか見てないけど、ウチらは違うぜぃ。これを見よ!」



 見よ、って……あっ、これ!



「あの広告か……!」

「そう! アッキーとリラがモデルになった広告が話題になってるんだよ!」

「なんだよお前ら。もう隠す気ないんじゃん」

「ま、まあ、色々あってな」



 いつまでも隠し通せるものじゃないし、いつかはバレることが早まった。それだけだ。


 つまりこういうことか。先週はその広告のことを知らなかったから、視線にも気づかなかった。だけど今はその広告を知ったから、なんとなく視線に敏感になってたってことか。


 まあ、これだけ大々的に宣伝されてるんだ。いくら諏訪部さんが口止めしてるとは言え、人の口に戸は立てられないってことだな。


 教室の前に座っている諏訪部さんを見ると、てへっという顔をしていた。

 もしかして、週明けにはこうなることを予測していて、土曜日に話し合いの席を設けたな、あの人。



「こっちも大ニュースだが、俺とネイにはもう1つ聞きたいことがあるぞ、暁斗」

「聞きたいこと?」

「アッキー、誤魔化しても無駄だぜぃ? 夏休み中、イインチョからインタビューされたんだから」



 あ……あれか。

 龍也が俺の肩に手を回し、小声で話し掛けてきた。



「同棲がどうのこうのってやつ……あれ、暁斗と久遠寺のことだろ?」

「というか、それしかないよねぃ。アッキー、ゲロッちまえよ~」

「……まあ、そういうことになる、な」

「「やっぱり!」」



 ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ。

 いやニヤニヤしすぎだ。



「そっかそっか~。お前らもついにか~」

「応援してるぜ、アッキー。遊びに行くからねぃ」

「ま、落ち着いたらな」



 しばらくは引っ越しとかでバタバタするだろうし。

 どんな家を用意してくれるんだろう。マンションか、一軒家か。どちらにしろ、大切に住んでいかなきゃな。


 2人からの祝福とからかいを適当に流すことしばし。

 誰かが入って来たのか、教室かにわかにザワついた。

 どうした? 何かあったのか?


 みんながザワついている元凶を見るため振り返る。と、そこにいたのは。



「あ。なんだ、梨蘭か」

「なんだとは何よ。ご挨拶ね」



 俺の言葉が気に食わなかったのか、むっすーとした梨蘭がいた。

 いや、何かすごいものが現れたのかと思って。



「おはよう、梨蘭」

「ん……おはよ」



 髪をくるくるいじり、恥ずかしそうに返事をした。

 多分、梨蘭もここに来るまでに注目を浴びたんだろうなぁ。恥ずかしがる気持ち、わかるぞ。


 そんな梨蘭を見て思わず微笑んでいると。






「「「キャーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」」」







 突如教室中から、黄色い歓声が上がった。

 登校していたクラスメイトの女子達が、こぞって俺と梨蘭を囲ってくる。


 な、何? なんだこれ!?



「梨蘭さん、真田くんと結婚したの!?」

「バカ。あれは広告でしょっ。でもすっごくお似合いだったわ!」

「2人ってやっぱり赤い糸で繋がってるんでしょ!?」

「私、広告見ただけで泣いちゃった!」

「わかるーっ」

「こんなにお似合いの2人だなんて思わなかった!」

「おめでとう2人とも!」

「おめでとう!」



 クラス中の女子達がおめでとうを連呼してくる。

 嬉しさ半分。恥ずかしさ半分、という感じだ。だってこれでもうみんなにバレちゃったわけだし。


 梨蘭は元々みんなとそれなりに仲がいいから、いつも通りに対応しているが……俺はこんなに女子に囲まれた経験がない。苦笑いを浮かべるだけだ。


 おい、そこでニヤついてるノッポのロリ。ちょっと助けてくれませんかね?


 と、そこに。



「はいはい、みんな~。サナたんが困ってるから、ストップだよ~」



 救世主ひより、現る!



「実はあの会社の広告、ひよりの運命の人のお父さんの会社なの~。もし興味あるなら、ひよりから彼にお願いして便宜を図るよ~」

「ほんとう!?」

「わ、私、一度ウェディングドレス着てみたかったの!」

「私もやりたい!」

「私もっ!」

「あたしもー!」



 今度は俺じゃなく、ひよりに女子達が集まっていった。

 それを見てると、ひよりが俺に向かってウィンクを送って来た。

 まさか、俺を助けてくれたのか……? なんてできた子なんだろう。ありがとう、ひより。


 そっとため息をついていると、今度は璃音がこっちに近付いて来た。



「ふふ。暁斗君、モテモテね」

「あんまりそういうこと言わないでくれ」

「梨蘭ちゃんがやきもち焼くから?」

「ああ」

「……素直になったわね、あなたも」

「ここまで来て、今更取り繕う方がカッコ悪いからな」

「暁斗君らしいわね。でもそういうところ、好きよ」



 だからそういうこと言うのやめろって。

 ジトッとした目を璃音に向けると、肩を竦めて含み笑いをした。いや外国人かお前は。

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