第143話
「ふぅ。語ったわ!」
「語られたわ……」
顔ツヤツヤさせやがって……。
結局あれから2時間もぶっ通しで語られた上に、止めようとすれば母さんに叩かれ、声を出して妨害しようとすれば父さんに関節を極められ。
結果、俺の精神はゴリゴリに削られた。
夕飯はウチで食っていくから、それまで俺の部屋でゆっくりすることになったのだが……ぶっちゃけあれだけ語られたせいで、一緒にいるだけで恥ずかしいんですけど!
あんなに語るなよ! 俺の! 親に!!
しかも俺まで知らないこととか、中学の頃のこととかも語られたし!
あんなにニヤニヤしてる両親初めて見たわ!
うごおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!
「そ、そんなに悶えなくてもいいじゃない。全部本当のことなんだから」
「全部本当のことだからこそ悶えてるんだよ……!」
まあ、もう過ぎたことだから仕方ないけど。
梨蘭を俺のベッドに座らせ、俺は椅子に腰掛けた。
もう何度も見た光景だけど、自分のベッドに好きな人がいるってシチュエーション……いいな。
梨蘭は緊張がほぐれたのか、腕を伸ばしてストレッチを始めた。
うーん、胸が強調される服だからか、いつもよりでかく見えるな。
「それにしても、お父様本当に若々しいわね。最初見た時、暁斗のお兄さんかと思ったわ」
「ああ、それいろんな人に言われる」
父さんがおっとりした外見だからか、たまに俺の方が年上に見られるときもあるし。
「お母様もクールでかっこいいし……なんだか、暁斗と琴乃ちゃんのご両親なんだなって感じの人達だったわ」
「……そうか?」
「ええ、そっくりよ」
俺も琴乃も、父さんみたいにおっとりしていない。
かと言って、母さんみたいにクールでかっこいいわけでもない。
どこをどう見て判断したのかイマイチわからないが。
そんなことをボーっと考えていると、ベッドに座っていた梨蘭が俺の方に近付いて来た。
そっと、俺の頭を包み込むように抱き締める。
顔に感じる梨蘭の柔らかさと、肺に広がる柑橘系のような香りで、理性という名の壁がぐらりと揺らいだ。
おおお、落ち着け俺。今下には父さんと母さんがいるし、琴乃も隣の部屋にいるっ。
こんな所で理性が吹き飛んでみろ。一生いじられるに決まってる……!
俺は意識を別の所に逸らし、なんとか平静を保って梨蘭を見上げた。
「ど、どうした?」
「暁斗のことを思いっきり話したら、好きが止められなくなったわ」
「わ、訳がわからん。それに、夏休みの宿題が終わるまでイチャイチャは禁止って……!」
「これはイチャイチャじゃないわ。抱き締めてるだけだもん」
何そのガバガバ設定のクソルール。
まあ、でも……梨蘭が幸せそうなら、それでいいか。
なんだかんだ俺も、梨蘭にあれだけ言われたら、想いが止められなくなってたし。
俺も、梨蘭の腰に手を回してより強く密着した。
「んっ」
「あ、悪い。痛かったか?」
「んーん。大丈夫」
……なんだかんだ、こんなに密着したのって久々な気がする。
もしかしたら、梨蘭もずっと我慢してたのかもな。
そりゃそうだ。俺らは『運命の赤い糸』で繋がっていて、かつ梨蘭は赤い糸が出る前から俺を好きだったんだ。
たかだか夏休みの数週間とはいえ、ずっと密着できないことでストレスを感じてたんだろう。
「……暁斗の頭、ふわふわでワンコみたい」
「それ、俺褒められてるんだよな?」
「この上なく」
とてもそうは聞こえないが。
梨蘭は俺の頭に手を乗せて、もふもふして来た。
もふもふ、もふもふ。
その度に俺の顔面に当たるおむねのなんとやわらかいこと(脳死)。
「くんかくんか」
「嗅ぐな、恥ずかしい」
「なんで? 暁斗の匂い、好きよ?」
「自分の髪の毛嗅がれたら、お前だって恥ずかしいだろ」
「……暁斗になら、いいわよ」
と、梨蘭が背中を向けて俺の膝の上に座り、体を預けてきた。
脚から伝わる梨蘭の柔らかさとか、思ったよりも軽い体とか、首筋から香る濃厚なフェロモンみたいな匂いとか。
そんなものが、俺の脳にダイレクトに突き刺さる。
「ほら、嗅いでいいわよ」
「か、嗅いでいい、って……」
「それとも、イヤ?」
肩越しに振り返って来た梨蘭。
恥ずかしそうに朱色に染まった頬だが、まるでいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
こいつ、俺が恥ずかしがってできないと思ってやがるな?
上等じゃないか。思い切り恥ずかしがらせてやる。
俺は梨蘭の胴に腕を回し、がっちりとホールドした。
「あ、暁斗……?」
「もうイチャイチャ禁止とか、親がいるとか知ったことか。──バレたくなかったら、声出すなよ」
「ま、待っ……!?」
◆
「お兄ー? ごはんできたってさー……って、梨蘭たんどうしたの? なんか布団にくるまってるけど」
「さあ? 俺が宿題してる間に寝ちまったみたいだ」
「ふーん。じゃ、梨蘭たん起こして来てねー」
ばたん。とてとてとて……。
「おーい、行ったぞー」
「…………」
「梨蘭、起きてるだろ?」
「……暁斗、きらい」
「俺を挑発してきた梨蘭が悪い。ほれ、行くぞ」
「ううぅぅ~……!」
顔を真っ赤にして、とろけたような顔で睨んできた。
たかだか1時間、犬吸いならぬリラ吸いしただけでこんなになるなんて……先が思いやられるな。
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