第138話

   ◆



「はい、ジュース」

「……あぁ、ありがとう……」



『天狗の鼻』を降り、近くのベンチで休憩中。

 梨蘭が近くの売店でジュースを買ってきてくれた。


 ああ、甘い。癒される。


 ベンチでジュースの甘さにとろけていると、隣に座った梨蘭が申し訳なさそうにしょぼんとした。



「ごめんなさい。まさかここまで怖がるとは思ってなくて……」

「いや、俺もまさか、ここまで苦手だとは思ってなかった。気にしないでくれ」



 昔はもう少し苦手意識はなかったはず。

 今回のジェットコースターのレベルが違いすぎたのもあるだろうけど、こんなに怖いとは……ん?



まさかここまで、、、、、、、怖がるとは』



 …………。



「梨蘭、1つ聞きたいんだが」

「何?」

「俺がジェットコースター苦手なの、知ってたな?」

「…………」



 ぷい。

 こいつ、露骨に顔逸らしやがった。



「琴乃か? いや、琴乃だろ」

「…………(ぷい)」

「それとも乃亜か? あいつも俺が苦手なこと知ってるからな」

「…………(ぷぷい)」

「おいコラこっち見ろ」

「…………(ぷぷぷいーっ)」



 頑なにこっち見ねーな。

 仕方ない。



「こっち見たらキスしてやるよ」

「!(ばっ)」

「デコピンくらえ」

「あうっ」



 ふははは、引っかかりおった。



「ぐうぅ! 今のはずるい!」

「ずるくありません。俺の情報をリークした相手を話せば、キスしてやるよ」

「ぐぬぬ……! 悪質な拷問ね……!」



 いや、別に拷問じゃないけど。


 梨蘭は唇を尖らせて唸り。

 観念したように、がっくりと肩を落とした。



「……琴乃ちゃんです……」

「やっぱりか。この間のことの仕返しか?」

「それは……ちょっとだけ。本当の目的は別というか……」



 本当の目的?

 首を傾げると、梨蘭はもじもじと恥ずかしそうにし。

 ゆっくりと口を開いた。



「そ、その……暁斗って頼りになるじゃない? そ、それで、ちょっと弱ったところを見てみたかったというか、可愛いところを見たかったというか……」

「……え、それだけ?」

「うん……これがチャンスだと思って……」



 あ、あー……俺って、梨蘭に対して弱みとか見せたことなかったっけ……?


 なるほど、それでか。

 いや、なるほどと言っても納得はできないけど。


 まあ、それでも……。



「そんな事しなくても、いつかはわかるだろ」

「……え?」

「俺ら、この先何年一緒にいると思ってんだ。ばーか」



 梨蘭の頭を強めに撫でる。

 だけど梨蘭は、髪の毛がボサボサになるのもいとわず、借りてきた猫のように大人しく撫でられていた。



「……ごめんなさい……」

「もういいよ。それより、他のも楽しもう。絶叫系アトラクション以外も乗り物は沢山あるし」

「そ、そうねっ。次は暁斗の乗りたいアトラクションに行きましょうか!」



 梨蘭も立ち直ったみたいで、満面の笑みで抱きついてきた。

 うーん、やわっこい。とてもやわっこい。



「と、ところでさ、暁斗。さっきの……」

「さっきの?」

「情報をリークした人を教えたらってやつ……」

「ああ。嘘だ」

「!?」



   ◆



 その後、俺の提案した穏やかなアトラクションや、遊園地内にあるゲーセンを巡り、いくつかの絶叫系を乗り回した。


 時刻は13時。

 精神的に疲れてきた俺らは、園内のレストランで軽く食事を取っていた。



「んーっ。ここのハンバーガー、おいひぃ〜」

「だな。ボリュームもあってジューシーだ」



 絶叫ランド名物、絶叫グレートネスバーガー。

 肉も分厚く、間に挟まったトマトもレタスも目玉焼きも分厚い。


 甘辛いソースが絶妙にマッチしていて、叫びたくなるほどの美味さだ。


 美味そうに頬張る梨蘭を見ながら、俺も頬張る。

 ジャンクフードの美味さはDNAに深く突き刺さるなぁ。



「それで、午後からはどうする? もう少しアトラクションを回るか?」

「あ、そうそう。実は14時に、ちょっと予約してた場所があるの。そこ行きましょう」

「予約?」



 遊園地内で予約する場所なんてあったかな……?

 ホテルは隣接されてるけど、まさか泊まりなわけないし。



「どんな場所だ?」

「それは着いてからのお楽しみよ。強いて言うなら、今回のご褒美のメインって言った方がいいかしら。言っておくけど、逃げないでよ?」

「お、おう。大丈夫だ」



 メイン……メイン?

 はて……どんなことやらされるんだろう……?

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