第137話
「……ここか?」
「ええ、そうよ」
電車を2回ほど乗り継ぎ、到着した遊園地は、日本でも有名な絶叫ランドと呼ばれる場所だった。
日本一のお化け屋敷、日本一のジェットコースター、日本一のフリーホール、日本一の……と、日本一〇〇と言った有名なアトラクションが集まっている遊園地である。
俺も家族で来たことあるが、当時は怖すぎてほとんどアトラクションに乗れなかった記憶があるが……。
「やっぱり梨蘭、あの時のことを根に持って……!」
「ち、違うわよ。単純に、こういうところに来てみたくて」
「……来たことなかったのか?」
「うん。遊園地はあるけど、こんな大きなところは初めてよ」
隣を見ると、アトラクションを見て目を輝かせている梨蘭がいた。
いや、まあ……梨蘭が来たかったから来れたなら、いいんだけどさ。
だけど、これのどこがご褒美なんだ?
料金も、俺が奢るのかと思ってたけど、自分の分は自分で払った。
ここまでの交通費も自分で払った。
じゃあ何がご褒美なのか……わからない。
「さあ行くわよ! まずはジェットコースター!」
「お、おう」
日本最高度の高さを誇るジェットコースター、『天狗の鼻』。
縦横無尽に駆け巡り、回転し、ねじ曲がり、遠心力で外にはじき出されそうになるほどのスピードが出るこれは、ネット曰く「死を覚悟するジェットコースター」と呼ばれている。
まさか、ここに来て最初に乗るものがこれとは……。
『天狗の鼻』の列に並び、待ち時間を確認する。
待ち時間20分か。夏休みだけど、そんなに並ばなくていいな。
「り、梨蘭は絶叫系得意なのか?」
「大好きよ。お姉ちゃんと競うようにいろんなの乗ってたわ」
「あの人、身長制限に引っかからなかったの?」
「……何回か引っかかって泣いてたわね」
やっぱり。身長、寧夏とどっこいどっこいだもんな。
でも、そうか。ジェットコースター得意なのか。
…………。
「あれ? 暁斗、もしかして絶叫系苦手?」
「い、いや。苦手ではないが、得意でもないな……」
実は琴乃がこういうのが得意だったりする。実はというか、見たまんまだ。
俺の方が、意外とこういうのが無理だ。乗れはするけど、乗らなくていいなら乗らない。乗りたくない。
そんな俺を見て何を思ったのか、梨蘭は口角を上げてニヤニヤした顔で見てきた。
「ふーん。暁斗って、意外と子供っぽいのね。梨蘭お姉ちゃんに甘えていいのよ?」
「マジか。じゃあ遠慮なく」
「ちょっ!? 待っ! 待って待って待って! こんな公共の場で……!」
抱き締めようとしたら真っ赤な顔であわあわし始めた。
そんな梨蘭のひたいに指を這わせ、ぺちんと弾く。
「んにゃっ」
「はは。俺をからかうのは、まだまだ早いぞ」
「ぐむぅ……」
口をとがらせて睨まれても怖くないぞ。
ちょっとむくれてしまった梨蘭と共に、『天狗の鼻』の列に並ぶ。
ちょっとむすーっとしていたが、列が進むにつれてワクワクが勝って来たようで、鼻歌なんて歌い出した。
余程楽しみだったんだなぁ。
…………。
やっべ、今更だけど超乗りたくない。
さっきも言ったが、乗らなくていいなら乗りたくない。
なんでわざわざ恐怖を金で買うような真似をするんだ。意味がわからない。
恐怖は生物が生存するには重要な感情で、本能と遺伝子に組み込まれているのはよくわかっている。
が、それを楽しむってなんだ。恐怖を楽しむってどういう感情だ。
ごめん梨蘭。今まで梨蘭のことを理解したいと思って来たけど、こればっかりは理解できない。無理。
だけど、もうあと数分で俺らの番が来る。
ここまで並んで、今更無理ですごめんなさいなんて言えない。
というか、梨蘭にそんな姿を見せたくない。俺だって男の意地があるんだ。
けど、でも……ああああああああああああ(思考停止)。
「それでは次のお客様、どうぞー」
「来たわね。暁斗、行くわよ」
「えっ!? お、おう……!」
思考が止まっている間に、俺らの番が来たらしい。
梨蘭が先に乗り、後に続いて俺が乗り込む。
上から安全バーが下りてきて、俺らの体がジェットコースターに固定される。
まるで処刑場に縛られるジャンヌダルクの気分だ。
「わくわく、わくわくっ」
対して梨蘭は、まさに童女のごとく楽しんでいる。
ああ、始まってしまう。地獄へのランデブーが。
がこんっ。動き出した……!
徐々に高度を上げていき、炎天下の中で上空まで登っていく。
チラッと下を見る。
高い。余りにも高い。どんだけ登るんだこれ。まだ半分くらいじゃないか。
あば、あばばばばばばばばばば。
「あ、暁斗。顔色悪いわよ……?」
「だだだだだだだいじょじょじょじょじょじょじょじょ」
「全然大丈夫じゃないわよねそれ!?」
あが、あが、あががががががっ。
そして遂に、頂上到達。
直後、体にかかる重力が消え。
下りるまでのおよそ4分間、俺の記憶は途絶えた。
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