第136話
◆
夏祭りを堪能した翌日。
結局、梨蘭と乃亜は本当に仲良くなったのか、今日はうちで梨蘭指導の下受験勉強をしている。
梨蘭の教え方は、傍から見てるだけでもわかりやすい。
さすが学年上位の成績。琴乃も乃亜も満足そうだ。
……まあ、それはいいんだが。
「なんでうちで勉強してんの、お前ら」
「やだなぁ、お兄。ここが一番集まりやすいんだから、仕方ないじゃん」
「仕方なくないよね。図書館行けばいいよね」
「図書館遠いし、喋れないじゃん」
ぐ……確かに。現役銀杏高校生の梨蘭が教えてくれるのに、図書館じゃ喋れないか。
だからと言って、なんでうちで……。
そんな俺の考えを読み取ったのか、梨蘭が口を開いた。
「図書館じゃ喋れない。喫茶店だとお金が掛かる。私の家や乃亜ちゃんの家だと、どっちかが気を使っちゃう。なら、慣れ親しんでるこの家が一番落ち着いて勉強できるじゃない?」
その気持ちもなんとなくわかる。
でも、一人は身内とはいえ、現役女子高生(超絶美少女)と現役女子中学生(超絶美少女)が家にいるという現実に、心穏やかではない。
そうじゃないにしても、ついこの間まで梨蘭と乃亜は仲が悪かった。
それだけでも、かなり不安だったが……こうして見てる感じ、大丈夫そうか。
「……わかったよ。じゃあ俺、自分の部屋にいるから。何かあったら呼んでくれ」
「わかったわ」
「センパイ、また後ででーす」
「お兄いると集中できないから、さっさと行って」
琴乃ちゃん、辛辣じゃありませんこと?
自分の飲み物とスナック菓子を手に、リビングから自室に移動する。
と、ポケットの中のスマホが震えた。
誰だ……って、梨蘭からメッセージか。
梨蘭:そういえば、この間言ってたご褒美なんだけど。
ご褒美? ……あ、そうか。夏祭りに琴乃と乃亜を連れて行っていいから、代わりにご褒美が欲しいってねだられてたな。
暁斗:ああ、どうする? 俺にできることなら、なんでもいいぞ。
梨蘭:なら、遊園地に行きましょう。行きたい場所があったの。
……遊園地に行くのがご褒美?
つまり、俺と2人きりのデートをやり直したいってこと、か?
なんていじらしい願いだ……。
暁斗:わかった。いつ行く? 明日でもいいけど。
梨蘭:3日後にしましょう。いつもの駅前集合ね。
暁斗:了解。
3日後か。明日でも明後日でもないのは、なんでだろう。
梨蘭の方に予定があるのか? でも、そんなこと聞いてないし……ふむ?
◆
そうして3日後。若干のオシャレと動きやすいスニーカーを履いて、駅前に向かった。
で、いつものように先に着いている梨蘭。
これでも、10分前に着くようにしてるんだが……どんだけ前から待ってるんだ。
「悪い、待たせた」
「んーん、待ってないわ」
見ると、今日の梨蘭は七分丈のパンツにスニーカー、上はノースリーブで動きやすいカジュアルな恰好をしていた。
今日は遊園地だからな。動きやすい恰好ってことなんだろう。
「何よ、そんなにじっと見つめて」
「ん? いや、いつもと雰囲気違うなと思って。……似合ってるぞ」
「あ……ありがとう」
うん、似合ってる。超似合ってるが……。
薄手でぴっちりとしたノースリーブと、体のラインが出るパンツ姿だから、全体的にエロい。
この間、海で水着姿を見たけど……水着姿とはまた違った、着ているエロさというのを感じる。
それに、斜めに掛けられたショルダーバックのせいで『
なるほど、これが着エロか……。
「暁斗、また馬鹿なこと考えてないかしら?」
「き、気のせいだ。それより、移動しようぜ」
「……そうね。じゃあ行きましょう」
駅のホームに入り、電車が来るまで待つ。
あ、そういえば。
「今日行く遊園地、場所も名前も教えてもらってないけど、どこなんだ?」
「着いてからのお楽しみよ」
「お楽しみって……」
「まあまあ。楽しみにしてなさい」
……梨蘭がそう言うなら、あんまり気にすることはないか。
でも、そうなると嫌なことばかり考える。
日本一長いお化け屋敷とか、日本一のジェットコースターとか……そんな場所に一人で行かされたら、心身共に疲労でぶっ倒れそう。
実はまだ琴乃達の件で怒ってて……?
い、いやいや、梨蘭に限ってそんなこと……あるはず……。
ダメだ、不安で緊張してきた。
「な、なあ梨蘭。ヒント、ヒントだけでも教えてくれないか?」
「何よ、そんなに気になるの? もしかして、楽しみで落ち着かない? しょうがないなあ。暁斗って、ちょっとお子様なところあるわよね」
ニヤニヤ、ニマニマ。
ぐっ……そう思われるのは癪だが……。
「ま、まあな」
「ふふん。いつも私がドギマギされてるから、今日は暁斗がドギマギしてなさい。教えないもんねーだ」
べっ。梨蘭は小さく舌を出すと、直後に電車がホームに入って来た。
余計心配になった……どこ連れていかれるの、俺。
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