第122話

   ◆



 それから3時間かけてみんなで海を探すも見つからず。

 寧夏が集めてくれた水着メイドさん達も手伝ってくれたが、それでも見つからず。

 さすがにぶっ通しで探し続けたから、疲労でみんなパラソルの下で休んでいた。


 が……梨蘭だけは、まだ探していた。



「梨蘭、ちょっとは休んだ方がいいぞ。熱中症で倒れたら、元も子もないだろ?」

「やだ」



 あれから梨蘭は、俺の顔をまともに見ずにイヤリングを探している。

 まるで、怒られるのを怖がる子供のように。



「失くしたからって怒らないぞ。それにあれだけ小さいものだったんだ。しょうがないさ」

「しょうがなくないもん」

「でもよ……」

「だって……暁斗がくれたプレゼントで……大切で、ひっぐ、ふぇ……」



 ちょ、泣いた!?


 慌てて近付き、崩れ落ちる梨蘭を抱きかかえる。

 ぼろぼろと流れる涙が、俺の腕に落ちる。

 熱く、綺麗な涙だ。


 嗚咽を漏らしながら腕にしがみつき、梨蘭はゆっくりと俺を見上げてきた。



「ご、ごめっ、なざぃ……あぎど、ごべ……!」

「わかった。わかったから、落ち着け。な?」

「う、うぅぅぅぅぅ……!」



 梨蘭の背をゆっくり叩き、頭を撫でる。

 こんなに大切にしてくれてたんだな……もっと外れにくい、ネックレスとかにすればよかった……俺も、配慮が足りなかったか。


 泣きじゃくる子供をあやすように背中をさする。

 すると、腕の中にいる梨蘭が力が抜けていった。



「梨蘭?」

「……すぅ……すぅ……」



 あぁ、寝たのか。

 そりゃそうだ。朝早かったし、海に来てからはずっと遊び通し。飯も腹いっぱい食べて、それから失くしたイヤリングを探してたんだ。疲れて当然だ。


 そんな梨蘭を起こさないようにお姫様抱っこで持ち上げ、浜辺に上がった。



「暁斗君、梨蘭ちゃん大丈夫?」

「ああ。疲れて眠ったけど、息はしてる。寧夏、悪いけど、別荘で寝かせてやってくれないか?」

「もちろん! こっち来てっ」



 珍しく寧夏も慌てているようで、先行して別荘に案内してくれた。

 2階にある一室に案内してもらい、ベッドに寝かせる。

 呼吸は安定してるし、大丈夫そう……か?



「悪いな、寧夏。ベッド汚しちゃって」

「気にしないで。こんな寝るだけで無駄に高いベッド、こういうときでないと使う意味もないしねぃ」



 寧夏は近くにいた水着メイドさんにあれやこれや指示を出し、梨蘭の面倒を見るように手配してくれた。



「で、アッキー。どうするん?」

「決まってるだろ。探す」

「だよねー。あんな姿見せられたら、探すしかないよねー」



 目尻に涙を溜め、永遠の眠りにつくかのように眠る梨蘭の頭を撫でる。

 待ってろよ、梨蘭。今探してきてやるからな。


 この場を水着メイドさんに任せ、俺と寧夏がビーチに戻る。

 と。



「うおおおおお! 探すぜ探すぜ探すぜぇ!」

「こらっ、倉敷君! 波を立てないで!」

「うーム。これだけここを探してもないってことハ、流されて沖に行ってしまったのかもナ」



 龍也、璃音、リーザさんが、疲労感を滲ませながらも必死に探してくれていた。



「にしし。愛されてるねぃ、リラは」

「……ああ、そうだな」



 とにかく今は、探すしかない。

 あれだけ小さいものが見つかるかはさておき……梨蘭が泣いてるところは、見たくないからな。



「寧夏」

「ほい、シュノーケル」

「さすが、わかってるな」

「アッキーとも長い付き合いだからねぃ。可愛い嫁ちゃんのために、頑張ってにゃ」



 ばしんっ! 思い切り背中を叩かれた。

 けど、痛くない。気合を入れてもらった。


 よし、行くか。



   ◆梨蘭◆



「……ぅ……ぁ……?」



 ……あれ、ここ……どこ……?


 知らない天井に、知らないベッド。

 窓からはオレンジ色に燃える太陽の光が差し込んでいる。


 なんで私、眠って……あぁ、そうだ。みんなと海に来て、遊んで、ご飯食べて、イヤリングを……ッ!



「い、イヤリング!」



 耳に触れるけど……そこには、あるはずのものがない。

 周りを見ても、布団を捲っても、それらしいものはない。

 近くにいた女の人が落ち着くように言ってくれるけど、そんな余裕はない。


 やっぱり、私……。



「海で、失くしちゃったんだ……」



 暁斗から貰った、大切なプレゼント。

 赤いアネモネ。その花言葉は、『君を愛す』。

 でもアネモネの本来の花言葉は、『見放される』『見捨てられる』。


 もし、今回のことで暁斗に見捨てられたら、私……。


 ……そういえば、暁斗は?

 この部屋にはいない。私と、水着メイド姿の女性の2人だけだ。


 まさか、本当に見捨てられて……?

 でも私達は赤い糸で結ばれてる。そんな、そんなはず……。


 暁斗……暁斗、暁斗。あき、と……。



「う、うぅ……」



 暁斗、どこぉ……?

 謝るから……いっぱい、謝るから……。



「あきとぉ……!」






「おん? 呼んだ?」






 ……ぇ……?


 声がした方を見る。

 と、そこには……全身ずぶ濡れで、疲労困憊の暁斗が息も絶え絶えに佇んでいた。

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