第121話
という訳で。
寧夏がどこかに連絡し、別荘に待機していたらしい水着メイドの美女達が、わらわらと出てきた。
その手には、ごついグリルや椅子、机、肉や魚や野菜などの材料が諸々。
そう、これは。
「お、バーベキューか」
「いっっえーーーーす! Let's BBQ!」
「へいへいへーい! BBQ! フゥー!!」
龍也と寧夏がテキパキと炭の準備をしていく。
中学から夏はバーベキューしてたけど、相変わらず手際いいな。
「ホー、いい赤身じゃないカ。魚も野菜もあるシ、栄養バランスも素晴らしいナ」
「夏の海でのバーベキューって、ニュースを見てるとちょっと抵抗とかあるんだけど……」
「リオ、ここはウチのプライベートビーチだから、気にしなくてだいじょーぶい!」
確かに。一般開放されたビーチでは、浜辺でバーベキューは禁止されているところが多い。璃音が渋る気持ちもわかる。
けど寧夏の言うとおり、ここはプライベートビーチ。
ポイ捨てやモラルを逸脱しない範囲でなら、問題はないだろう。
「……そうね。じゃあ、楽しませてもらおうかしら」
「へいへい! そう来なくちゃな、竜宮院!」
耐熱エプロンを纏い、既に肉と野菜を焼き始めている龍也。
ブーメランパンツにエプロンって、変態度上がってるぞ。余りに近寄りがたい。
炭で焼ける音と、香ばしい匂いが辺りに広がる。こいつはうまそうだ。
「寧夏。俺が変わるから、先に食っていいぞ」
「アッキーさんきゅー! いやぁ、お腹ペコちゃんだぜぃ!」
「ああ。いっぱい食って大きくなれよ」
「おい、それはウチにけんか売ってんのか?」
そんなことはない。……ちょっとからかったけど。
いた、いて。ちょ、ごめ、謝るから無言で蹴るのやめて。
「全くもう。アッキーはデリカシーないんだからっ」
「寧夏、暁斗は昔からそうでしょう?」
「……それもそっか」
おいコラそこ。俺のデリカシーのなさで意気投合すんな。
寧夏とバトンタッチし、龍也と並んで魚介類を焼く。
炭火焼の魚介類っていうのは、どうしてこういい匂いがするのだろうか。バーベキュー、最高。
「よっと。へいへいお嬢さん達! 肉と野菜焼けたぜ!」
「こっちもエビとタコ行けるぞ」
大皿に盛りつけ、みんなが涼んでいるパラソルまで持っていく。
「うっひょーーーーーーーーー! 肉肉肉ぅ!」
「寧夏ちゃん、野菜も食べなさい」
「ありがとう少年、龍也君」
「すっごくおいしそうね!」
女子ーズにバーベキューは大好評のようだ。
どれ、俺も一口。
「もぐ。うん、うめーなっ」
「やっぱBBQは最高だぜ! 暁斗、もっと焼くぞ!」
「おう!」
これだけ喜んでもらえてるし、俺らも食い盛りでまだまだ食べたい。
これはじゃんじゃん焼いていかなきゃな!
グリルに戻り、俺らの分は俺らの分で確保しつつ、龍也と並んで大量に食材を焼いていく。
向こうには無限胃袋の寧夏とスポーツウーマンのリーザさんもいるから、焼いても焼いても減っていく。
そうじゃないにしても、梨蘭と璃音も腹が減ってるらしく、いつも以上に食べ進めている。
息つく暇もないとはこのことだが……。
「みんなに喜んでもらえるって、嬉しいな」
「ああ。特に愛する嫁が相手だとな」
「龍也、もうそのいじりはブーメランだぞ」
「自覚してる。ネイは俺の嫁」
にやりと、人が悪い笑みを浮かべる龍也。
嫁……嫁、か。
「そうだな。梨蘭は俺の嫁だ」
「うひぃ~。体がかゆくなるぅ~」
「テメェ……」
自分で振っておいてその反応はないだろう。
龍也はにししと笑い、今度はウインナーを焼いていく。
そんな龍也を横目に網に貝を乗せ、ふと梨蘭の方を見る。
美味しそうにエビを食べ、大輪の花のように笑う梨蘭。
本当、ここまで喜んでくれるなんてなぁ。焼いてるだけだけど。
……ん?
…………んん????
「なあ、梨蘭」
「ん? どうしたの? あ、もちろん美味しいわよ!」
「ああ、うん。それはいいんだけど……イヤリング、外したのか?」
俺の問いに、梨蘭はきょとんとした顔を見せた。
今まで楽しそうに話していたみんなも、俺と梨蘭を交互に見る。
梨蘭はそっと耳に手を当て、今度は慌てたように荷物の置いてある場所に向かってダッシュした。
荷物をひっくり返すように確認し、確認し、確認し……ゆっくりと振り返る。
その顔は、絶望に染まっていた。
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