第119話

 テラスから直接ビーチに下り、クリーム色のビーチへと足を踏み入れる。


 素足で砂浜を踏みしめる時の独特の感覚。

 目の前に広がる大海。

 寄せては返す波の音。

 肌をいたずらに撫でる潮風。


 おお……これだ、これだよ。これが海だよ……!


 密かに感動していると、龍也が「うひょー!」と声を上げていた。



「おい暁斗! ジュースとかアイスとか、諸々揃ってるぜ!」

「は? アイス?」



 テンションが上がっている龍也の所に向かう。

 パラソルの下に数種類のクーラーボックスがあり、様々な清涼飲料水や水、お茶が敷き詰められている。

 それにアイスなんかも用意されていて、熱中症対策も万全だ。



「寧夏の奴、こんなところまで準備してくれたんだな」

「まあ、ネイもこの数日間各所に電話して、ずっと楽しみにしてたからなぁ。ずっと鼻歌歌ってたし」



 寧夏って基本インドアなのに、こういうイベント事は本気になるんだよな。

 見た目の幼女っぽさも相まって、子供みたいで可愛いけど。


 飲み物を飲みつつ、パラソルの下で女子―ズを待つ。

 自然に囲まれてこうしたゆったりとした時間を過ごすのも、いいもんだな。



「暁斗は、もう久遠寺の水着姿は見たのか?」

「いや、まだだ。そういう龍也は、寧夏の水着姿は見たのかよ」

「それが見てないんだよなぁ。見せてって言っても、頑なに見せてくれないし」



 寧夏の水着姿か……寧夏の性格上、なんとなく予想はつくけど。


 海を眺めて待つことしばし。

 別荘の方から、梨蘭達のかしましい声が聞こえてきた。



「りゅーやー! アッキー! おっまたー!」

「おーネイ! やっぱお前はスク水か、似合ってるぜ!」

「ひらがなで『ねいか』がこだわりです」



 へーい! とハイタッチする2人。予想通りの水着だった。

 さて、残る3人は——。



「お……おぉ……!?」



 まず璃音。

 黒のワンショルダービキニで、フリルもふんだんに使われている。

 慎ましやかな胸だが、璃音の美しいまでの体形を、惜しみなくさらけ出していた。


 次にリーザさん。

 鍛えているから全面的に筋肉質な彼女だが、その肉体を覆うのは白のブラジリアンビキニ。

 胸の前でクロスした布や、腰回りのひもが大人の体とハーフ特有の色気を前面に押し出していて、目のやり場に困る。


 そして最後に、なんと言っても梨蘭。

 上が白、下が黒のビキニで、上には金魚のようなフリルがついている。

 ところどころ金属のチェーンがついているのも、いいアクセントだ。

 さらに麦わら帽子と、俺のプレゼントした赤いアネモネのイヤリングもしていた。


 似合っている。似合いすぎている。

 もう言葉も出ない。

 それに、なんだ、その……高校1年生とは思えない体というか、ボンキュッボンでグラマラスというか。

 これ、普通のビーチにいたら声掛けられまくりだ。


 プライベートビーチでよかった……ありがとうございます、寧夏さん。



「待たせたナ、少年、龍也君」

「さすが暁斗君。すごい体ね」



 リーザさんと璃音はいつも通りに接してくる。

 が、梨蘭だけ一歩引いた所で立ち止まっていた。



「ん? ほら、梨蘭ちゃん。そんなところにいないで、こっち来て」

「ちょ、ちょっと璃音……!」



 璃音に手を引かれ、俺の前にやって来た梨蘭。

 恥ずかしそうに手をもじもじさせ、麦わら帽子の奥から、ちらちらと俺を見上げてくる。

 その、腕が寄せられたことで、胸が更に前に押し出てるといいますか、強調し過ぎてるといいますか。


 やばい。とにかく、やばい。



「あ、あ、暁斗……に、似合ってる、かしら……?」

「……え、あっ。お、おう……言葉も出ないくらいだ……」

「そ、そ、そう、ですか……」



 ごめん。こういう時、どんな言葉を掛ければいいのかわからないんだ。

 とにかく、今の梨蘭は目の保養どころか目に毒すぎる。


 可愛い。美しい。好き。



「はいはい2人共。今日は乳繰り合う日じゃなくて、遊ぶ日だぜぃ」

「「っ、乳繰り合ってない!」」



 寧夏の声に意識が戻った。

 危なかった。可愛すぎて意識が遠のくって、こういうことを言うのか。



「それじゃあ、みんな揃ったし、早速遊ぼー!」

「へいへいへーい!」

「待って2人共! まずは準備運動を……って、もう行っちゃったわ」



 梨蘭の静止を聞かず、寧夏と龍也は海にダイブした。



「まあまあリラン君。今日くらいは楽しもうじゃないカ」

「リーザさん……それもそうですね。でも怪我だけはダメよ」

「私もついていル。安心しなさイ」



 あんたが一番、人を怪我させそう……あ、いえなんでもありません。だからそんなに睨まないで。



「ふふ。さあリーザさん。私達も行きましょうか」

「あア。それじゃあ少年、お先ダ」



 と、璃音とリーザさんも行ってしまった。



「俺らも行くか?」

「そうね。でも私達はしっかり準備運動するわよ」



 どこまでも律儀な奴だな。

 梨蘭と一緒に、軽くストレッチを行う。

 その拍子にばるんばるん揺れる胸の素晴らしこと。



「あ、あんま見んなっ」

「悪い。でも許してくれ。俺も男なんだ」



 万乳引力には逆らえないのだよ。



「……ならあの時、触りたいって言ってくれたらよかったのに……」

「ん? なんて?」

「なんでもありませーん。さ、準備も終わったし、行くわよ」

「お、おう?」



 ご機嫌そうだけど、ちょっと不機嫌気味な梨蘭。器用な感情表現だな。


 梨蘭は麦わら帽子をパラソルに置き、海に向かって歩いていく。

 そんな後姿を眺めながら、俺も海に向かっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る