第117話

   ◆



「……しんど」

「んー……梨蘭ちゃん。暁斗君どうしたの?」

「自業自得よ」



 この3日間、梨蘭の徹底管理のもとずーーーーーーっと宿題をやって来たんだが。

 宿題をまともにやってこなかった身としては、夏休みの宿題というだけで精神を削られる。


 しかも梨蘭のやつ、宣言通りノータッチノーイチャイチャを貫いており。

 マジで3日間も密室にいたのに、ずっと何もできていない。

 もうフラストレーション溜まりまくり。

 いや自業自得なのはわかってるんだけどね。


 けど、そんな地獄の3日間を乗り越えた今日は、海だ。


 青い空、白い雲、見渡す限りの大海。

 そして何より——水着美女。


 この日をどれだけ待っていたことか……!



「ふ、ふふふ……今日はめいっぱい楽しむぞ……!」

「暁斗、目が死んでて楽しむって雰囲気じゃねーぞ」



 うっせーわ。おい龍也。周りを見渡してみろ。


 梨蘭、璃音、寧夏、リーザさん。揃いも揃って美女、美女、美女だ。

 若干一名、美女というより美少女……下手をすれば美幼女にも見えるが、そこは置いておいて。


 こんな人達の水着姿を拝めるなんて、俺の前世はどんだけ徳を積んだんだろう。

 ありがとう、前世。



「少年、顔がいやらしいゾ」

「リーザさん、あんたも人のこと言えないよ」



 俺の隣に立っているリーザさんも、うっとりとした顔で璃音を見つめていた。


 これ、普通にトリプルデートなんだよな。しかも『運命の赤い糸』で結ばれた3組だ。

 多分、この辺の幸せ濃度を計ったら、メーターが振り切れるんじゃないだろうか。計り方知らんけど。



「暁斗、私以外にいやらしいことしたら、抉るわよ」

「暁斗君、梨蘭ちゃん泣かせたら東京湾行きね」

「アッキーは昔から変わらずスケベだなぁ」



 女性陣からの白い目が痛い。

 だってしょうがないだろ! こんだけの美女が揃ってるんだぞ、運命の人とか関係なく色々と高まるだろう!?

 な、龍也、リーザさん!?



「へいへいへーい。俺は寧夏一筋だから」

「私も璃音さんだけダ」



 裏切り者! 男の風上にも置けない奴だ!



「おいコラ少年。今私のことを男と言わなかったカ? ア? 砂浜ダッシュ10本行っとくカ?」

「すみませんでした」



 炎天下、それは死ぬ。普通に死ねる。


 女性陣からの白い視線を散らすべく、咳払いをする。ごめん、ちょっとテンション上がりすぎてたな。



「で、これ何待ちだ?」



 時刻は朝の7時過ぎ。駅前に集まって既に5分。

 俺達は電車に乗らず、ロータリーで何かを待っていた。

 海に行くなら、そろそろ移動したい。そして水着美女を拝みたい。


 そんな俺の疑問に、寧夏が首を傾げた。



「あれ? りゅーや、説明しておくって言ってなかったっけ?」

「忘れてたZE☆」



 星付けんな。



「全くりゅーやは……これから、ウチの車で十文寺家の所有するプライベートビーチに行くんだよ」

「へえ、プライベートビーチ」



 …………。



「は? プライベートビーチ?」

「何驚いてるのよ、暁斗君。別にプライベートビーチくらい珍しくないでしょ?」

「私のおじいちゃんも、イギリスにプライベートビーチ持ってるわよ」

「私モ、亡くなった父の実家が山を2つ所有しているゾ。うち1つは私が貰っているかラ、キャンプも川遊びもできル」



 このメンツのお金持ち度半端なくないですか?

 いや、赤い糸が発現したことで、そういった人が一定数いるのはわかってたつもりだったけど……6人集まった内の4人がビーチや山持ちって、どんな確率だ。



「……まさか、龍也も何か隠してる?」

「いや、うちはそういうのないな」

「ほ、よかった」

「代わりにマンション一部屋買ってもらったけど」

「お前は敵だ」



 なんだよぉ。うちだけ庶民派じゃんかよぉ。

 ま、まあいいけど。別に悔しくないし。

 海とか山とか、持ってても管理が大変なだけだし。一人暮らしだって、色々自分でやらなきゃいけないし。

 ……悔しくないし!!



「暁斗。馬鹿なこと言ってないで、さっさと来なさい。もう車来てるわよ」

「うっす」

「お前、早くも久遠寺の尻に敷かれてるな。その方がお前らっぽいけど」



 だって梨蘭に嫌われたくないし。嫌われるとは思ってないけど。


 寧夏の家の準備してくれた車に乗り込み、一番後ろが俺と梨蘭。真ん中が璃音とリーザさん。前が龍也と寧夏が座った。



「それじゃあ、出発しよっかー。いざ我が家のプライベートビーチ、伊豆へ!」

「へいへいへーい! ほれ、みんなも!」

「へいへーい。リーザさんもやりましょう」

「へ、ヘーイ……? うゥ、恥ずかしいゾ、璃音」

「ふふ、リーザさん可愛い」



 璃音も意外とノリいいな。

 あとそこ、車内でいちゃつくんじゃない。我慢できなくなるだろ。


 …………。



「こら」

「いて」



 梨蘭の手をそっと握ろうとすると、ぺしっと叩かれてしまった。



「イチャつきはなし」

「むぅ」



 今日くらいはいいじゃん……。



「でも——」

「ぇ……?」



 俺の肩にそっと頭を乗せた梨蘭。

 久々の濃厚な梨蘭の匂いと感触に、一瞬で心臓が跳ね上がった。



「朝早くて眠いから、アンタは今だけ私の枕」

「……これ、イチャつきじゃないのか?」

「これは枕にしてるだけだから、ノーカン」

「そ、そすか」

「触ったら怒るから」



 ずるい。ずるいよ梨蘭さん。

 こんな状態でイチャつきなしってあんまりだよ。

 あ、でもみんながいる前でイチャついたら、それはそれで恥ずかしいか。


 仕方ない、我慢しよう。






「ねえりゅーや、あの2人、イチャついてるの気付いてないのかな?」

「あれでイチャつきじゃないって、普段のあいつらこえーな」

「これが濃緋色のイチャつき度……むせ返るような甘さね」

「昔の少年を知ってる身からするト、なんか恥ずかしいゾ」



 そこ、黙らっしゃい。

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