第116話

   ◆



 梨蘭と仲直りをしてから、更に3日が過ぎた。

 その間の会えなかった時間を取り戻すように、梨蘭は毎日家に来ていたんだが……。



「で、宿題は進んでないと?」

「おっしゃる通りでございます」



 宿題してないことがバレた。


 俺の自室にて。

 ベッドに足を組んで座る梨蘭と、目の前で正座をしている俺がいた。


 なんで俺の部屋で俺が正座せにゃならんのだ。


 いや、確かに宿題の経過観察をするとは言われたけど、まさか本当にされるとは思わないじゃん?

 だって俺、高校生よ? 高校生で宿題の進捗管理されるって、それ高校生としてどうなのよ。



「でも確認しなかったら、アンタこのままやらなかったわよね?」

「おっしゃる通りでございます」

「そこは否定しなさいよ!」



 だって、宿題なんて最後の1週間で龍也と寧夏に写させてもらえばいいし……飯を奢るという代償は払うけど。


 梨蘭は深々とため息をつき、手に持っていた宿題の紙束をペラペラ捲った。



「この時期まで、一度も手を付けてない宿題って初めて見たわよ……」

「見聞が広がったな」

「広めたくない見聞があるってことを知ったのはよかったわ」



 ごめん。謝るからそんな白い目で見ないで。



「全く……3日後には海に行くのよ? それまでに少しは進めようって気はなかったわけ?」

「全く」

「即答すんじゃないわよ」



 と言ってもな。いつもこんな感じだから、焦ってもないというか。


 なんて考えてると、梨蘭はゆらりと立ち上がった。



「これは、私が徹底管理しないとダメね」

「……管理?」

「そう。今からでも遅くないわ。計画を立てて、夏休み中に焦ることなく宿題を終わらせるのよ」



 お、おう……? 今日の梨蘭、いつになく燃えてるな。



「宿題をキチッとやるまで、イチャイチャもキスもなし」

「え」

「あとボディータッチもスキンシップもダメです。真面目に取り組まないと、夏休みいっぱいはノーイチャイチャです」



 んなっ!?

 ま、真面目にしないとノーイチャイチャ、だと……!? しかも夏休みいっぱい……!?



「ぐぬぬ、悪魔め……!」

「アンタがしっかりすれば済むことよ」



 それはそうだけど……そうだけど!

 やる気が出ないもんは出ないんだよぉ……!



「ほら、さっさと始めるわよ」

「うえぇ……やぁだぁ……」



 膝を抱えてうずくまる。

 こんなにやれやれ言われたら逆にやる気なくすわ。

 確固たる意思のもと、絶対やらないぞ。



「……アンタがその気なら、こっちにも考えがあるわ」



 ……考え?



「な、夏休み中に宿題終わったら……」

「お、終わったら……?」



 梨蘭は俺の前に膝をつき、胸を強調するかのように突き出すと。



「む、む、胸っ……揉ませてあげる、わ」



 とんでもねーことを言い出した!?

 え、ちょ……えっ!? も……揉!?

 それ……胸、揉……え!?


 突然のこと過ぎて思考がついて行かない。

 あの梨蘭が……律儀の中の律儀の梨蘭が、ご褒美で胸を揉ませる、だと……?


 信じられず、梨蘭を凝視する。

 が……恥ずかしそうに震えてる。


 なんだよ……俺、全然成長してないじゃん。

 ダメだ。ダメダメすぎる。

 あんなことがあったのに、また梨蘭に恥をかかせるなんて……。


 ぷるぷる震える梨蘭の頭を撫でる。

 すると、気持ちよさそうに目を細めた。



「……ありがとな、梨蘭。でも、ご褒美で胸を揉ませるなんてしなくていいぞ」

「……揉まなくていいの?」

「ああ。そんなことしなくても、宿題くらいぱぱっと終わらせてやるさ」



 それに、胸を揉むなんてご褒美で宿題をやるなんて、それこそ情けないゲス野郎になってしまう。

 ……うん、無理だ。それはなけなしのプライドが許さない。



「暁斗……」

「ふふふ、惚れ直したか?」

「カッコつけてるところ悪いけど、それ普通のことだからね?」



 いやまあ、その通りなんだけどね?

 今まで自発的に宿題をやって来なかった俺が、自ら進んで宿題をするんだよ? もう少し褒めても……。



「いいから、さっさと席に座りなさい。今日から全て、私が管理するからね」

「うぃっす」

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