第100話

   ◆



 ひとしきりみんなが歌い、そろそろいい時間になった頃。

 龍也がテンションアゲアゲでマイクを持ち、前に立った。



「さあさあ! 盛り上がって来たところで、そろそろプレゼント渡していくぜぇ! へいへいへーい!」

「「へいへいへーい!」」



 寧夏とひよりもテンションアゲアゲでハイタッチ。

 璃音はニコニコと拍手した。



「はいっ、リラたん! ひより達女子ーズが選んだ香水だよ!」

「梨蘭ちゃんは柑橘系の香りが好きだものね。気に入ってくれると嬉しいわ」

「これでアッキーを誘惑するんだぜ?」

「ゆゆゆっ、誘惑なんてしないわよ! ……でも、ありがと……」



 梨蘭は恥ずかしそうに、紙袋を受け取った。

 ひよりから受け取った紙袋のロゴ、俺でも知ってるレベルのものだ。

 こう言っちゃなんだけど、否が応でも期待が高まるな。


 ……まあ──。



「じゃ、暁斗には俺からな。男子代表でプレゼントだぜ!」



 ──龍也が相手じゃなければな!



「……まともなものか?」

「ひっ、酷い! 今まで俺が変なものをあげたことあった!?」

「お前、去年のプレゼントでゴリラの着ぐるみ送り付けて来たの忘れてねーからな。あれ、ウチの物置圧迫してんだけど」

「律儀に取っといてくれてる暁斗……す、て、き♡」



 う、ぜ、え(怒)


 てかこいつ、やっぱり嫌がらせってわかった上で送ってきてんじゃねーか。



「まあまあ。今回はホント、マジで選んだんだ。この間はネイとのことで、世話になったからな」

「……まあ、それなら……」



 龍也が隠し持ってた小ぶりの箱を差し出してきた。

 手の平サイズ。ロゴも何もない、正方形の白い箱だ。

 軽くもないが、重くもない。

 中身が全く予想できないな。



「開けてみていいか?」

「もちろんだ。気に入ってくれると思うぜ」



 ……それじゃあ。


 オープン。


 ぱかっ(箱を開けた音)

 びよんっ!(何かが飛び出た音)

 ボコッ!(顔面に直撃した音)



「げぼっ!?」

「くけけけけけ! びっくり箱どぅえーーーーーーーーーーーーーーす!!」

「龍也テメェ!!」

「ほげっ!」



 脳天チョップをくらわせると、ひっくり返った。

 ったくこいつは……。



「あーあ。りゅーや、だから言ったのに。余計なことすると痛い目見るよって」

「にししっ。まあ、これが俺らの関係だからな」

「男ってわかんねー」



 呆れたように寧夏が龍也にデコピンする。

 安心しろ、寧夏。俺もたまに龍也がわからん。



「じゃ、気を取り直して。ほらよ暁斗。今年はお前にも香水だ」

「お、おう。ありがとう」



 龍也から受け取った紙袋は、梨蘭とは違うがかなり有名なブランドのものだった。


 俺もいざって時には香水を付けたりするけど、こんなハイブランドのものは初めてだ……な、なんか緊張するな。


 大切に紙袋をカバンにしまうと、ひよりが龍也に声をかけた。



「ねーねークラたん。サナたんの香水は、なんの香りなの?」

「おう。イランイランだ」

「「「え」」」



 ん? 女子達が固まったけど……どうしたんだ?



「なあ、イランイランってなんだ? イランの香水なのか?」

「いやいや、そうじゃない。ま、花の香りだよ」



 へぇ、そんな名前の花があるんだ。

 でもなんでみんな、顔赤くしてんだろ。



「ま、待って倉敷! なななっ、なんでそんなものを……!」

「なんでって。お前らのためを思ってだな」

「お願いしてないわよ!?」



 ……よくわからん。なんなんだ、いったい。



「あ、暁斗っ。アンタも香水付ける時は、TPOを弁えなさいよ! いいわね!?」

「お、おう」



 香水ひとつで、なんでここまで釘を刺されなきゃならないんだ。……わからん。

 ま、せっかくの頂き物だ。大切に使わせてもらうとするか。



「それじゃあプレゼントも渡したし、そろそろお開きに……」

「あ、待ってくれ龍也」



 お開きの流れになりそうな所を止めて、カバンから綺麗に包装された箱を取り出した。



「梨蘭。俺もプレゼント用意してたんだ。受け取ってくれるか?」

「え? ……あ、それ」



 梨蘭は自分の鞄の中を漁ると。

 全く同じ大きさの、全く同じ包装の箱を取り出した。



「実は私も用意してたんだけど……」

「……全く同じ、だな」

「そうね」



 互いにキョトンとした顔をし、どちらともなく包装を開ける。


 同じメーカーのロゴの入った箱。

 それを開けると中から出てきたのは。



「「あ、マグカップ。……え?」」



 俺が取り出したマグカップは青色。

 赤い首輪に赤いリードを付けた、黒い柴犬が、真っ直ぐこっちを見ている。


 梨蘭が取り出したマグカップはピンク色。

 赤い首輪に赤いリードを付けた、黄色いチワワが真っ直ぐこっちを見ている。


 犬種は違うが、全く同じ構図のマグカップだ。



「……それ、梨蘭っぽいなって」

「私もそれ、暁斗っぽいと思って」

「「……ぷっ……ふ、ふふ……あはははは!」」



 なんだこれ。

 なんだよこれ。


 いやー。こんな偶然、本当にあるんだな!



「……なんか、一気にあの2人に持ってかれた気がするわ」

「しかもあれ、赤いリードが『運命の赤い糸』を表してるって有名なヤツだぞ。並べると繋がるらしい。雑誌で見た」

「あの2人、知らないで買ったんだろうねぃ。アッキー達らしいや」

「やっぱ、リラたんには勝てないかぁ……ひよりも前向かなきゃなぁ」



 みんなが白い目でこっちを見てくる。

 なんか、ごめん。


 それにしても……みんなには悪いけど、こんなに満ち足りたプレゼントは初めてだ。


 ふと、梨蘭と目が合い、どちらともなく微笑んだ。


 人生で忘れられない、いい誕生日になったな──。

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