第99話

 思いの外広い部屋に通されると、タブレットを使って各々好きな料理を注文した。



「ここのカラオケ、飲み物だけはドリンクサーバーで飲み放題なんだよねぃ。ごめんアッキー、全員分の飲み物頼める?」

「梨蘭ちゃんもお願いできるかしら。暁斗君だけじゃ大変だろうから」



 なるほど。梨蘭を外に出すための口実だな。

 それなら確かに、俺が一緒の方が都合がいいか。



「ああ、わかった」

「それじゃ、全員飲み物言ってくれるかしら」



 梨蘭が全員分の飲み物をメモし、部屋を出てドリンクサーバーに向かった。

 なんとこのドリンクバー、アイスまで飲み放題のメニューに入っている。好きなだけ食べてもいいし、コーラやメロンソーダに入れてフロートにもできる。


 俺はサイダーにアイスクリームをトッピングしてっと。



「それにしても、バレバレね」

「……何が?」



 梨蘭は緑茶を入れながら、小さく嘆息した。



「あんな露骨じゃあ、バレちゃうに決まってるじゃない」

「な、なんのことだ?」

「暁斗も、実はわかってるんでしょ?」

「う……」

「その反応。やっぱりね」



 あー……まあ、あれだけわかりやすいと、隠してるとは言い難いよな。

 梨蘭もさすがに気付くか。これじゃあ、サプライズが台無しじゃないか。



「よしっと。それじゃ、戻りましょうか。……言っておくけど、気付いたこと言っちゃダメだからね」

「ああ。わかってるって」



 梨蘭のサプライズ誕生日会なのに、「実はこいつ気付いてたぞ」とか言ったら、冷めるだろうし。

 ここは何も気付いてないフリをするのがベターだ。


 トレーに人数分のコップを乗せ、部屋に帰る。



「それじゃ、開けるわよ」

「おう」



 梨蘭が部屋の扉を開け、中に入る。と——。






「「「「暁斗、梨蘭! 誕生日おめでとーーーー!!!!」」」」






 突然クラッカーが鳴らされ、喝采が沸き起こった。


 部屋に備え付けられている画面には、【真田暁斗・久遠寺梨蘭 誕生日会】の文字がでかでかと映し出されている。



「「…………へ??」」



 たんじょうび……誕生日?



「……あっ、今日俺の誕生日だ」

「そう言えば、私も今日誕生日だったわ」

「「……え?」」

「「「「は??」」」」



 梨蘭を見る。

 梨蘭も、俺を見る。

 全員が、信じられないものを見る目でこっちを見る。


 多分、同じ疑問が湧いてるんだろう。



「えっと……今日、梨蘭のサプライズ誕生日会だと思ってたんだけど」

「私は、暁斗のサプライズ誕生日会だと思ってたわ」



 ……おん?



「サナたん。もしかして、自分の誕生日忘れてたのー?」

「まさか、梨蘭ちゃんも忘れてたのかしら」

「いやー、梨蘭の誕生日だと思って、自分のことはつい忘れてた」

「同じく。暁斗のために、精一杯祝おうと思ってたら……」



 と、また顔を見合わせる。



「「……ぷっ。あはははははははは!!」」



 なんだそれ。相手の誕生日のことしか考えてなくて、自分の誕生日を忘れるとか、もはやギャグだろう。



「相手のことを考えるあまり、自分のことが疎かになるって……お前ら、どんだけ相手のこと好きなんだよ」

「リラたん、羨ましい……ひよりもこんなに愛されたいなー」

「ひよりちゃん、この2人は重症だから、憧れてはダメよ」



 酷いな、璃音。

 と、そこに。



『もしもーし。私ら忘れてもらっちゃこまるんですけどー』

『まあまあ乃亜。この2人はこれが通常運転だから』

「ん? お、乃亜。琴乃」



 テーブルに置かれた誰かのタブレットに、乃亜と琴乃が映っていた。

 乃亜は若干面白くなさそうだけど。



『暁斗センパイ、たんじょーびおめでとーございまーす! ついでに久遠寺先輩もおめでとうございます』

「おう、サンキューな」

「ありがとう。ついでは余計よ」



 画面の向こうの乃亜と梨蘭が睨み合っている。

 2人とも俺に好意があるって知ってるから、なんとなく気恥ずかしい……。



「言っておきますけどね、暁斗はもうわ、た、し、と、付き合ってるの。しかも『運命の赤い糸』で繋がってるの。おわかりかしら」

『ふふーん。暁斗センパイも雄ですからね。私が全裸で誘惑したら、イチコロですから!』

「暁斗!?」

「風評被害!!!!」



 突然の流れ弾に俺の精神がダメージを受けた!

 あと、おいコラ璃音、寧夏! こっちを蔑むような目で見るんじゃない!



「待って! それ、もしかしてひよりにもワンチャンある!?」

「ないわよ! 暁斗は私の運命の人なんだから! 誰にもあげないわよ!」



 ギャーギャー、ワーワー。いやー、賑やかだなー(現実逃避)。



『お兄、モテモテだねぇ』

「ありがたいことにな」

『否定しないんだ』

「まあ、実際告白されたわけだし」



 フッたんだから、いい加減諦めてほしいとは思うけど。



「ところで、なんでテレビ電話なんだ? あとでメッセージでもくれたらよかったのに」

『乃亜が、ちゃんとお祝いしたかったんだって。受験勉強もあるし、実際には会えないけど』



 なるほど。乃亜もいいところあるじゃないか。



「改めて。ありがとな、2人とも」

「ふん! ……ありがと」

『……どういたしまして、です。……そ、それじゃあ私達は勉強に戻りますので! ではでは!』

『それじゃあ皆さん、楽しんでね~』



 と、通話が終わった。相変わらず、賑やかな2人だ。


 そこに、店員さんが注文した料理を運んできた。

 惣菜プレート、ピザ、野菜スティック、ロシアンたこ焼き等々。

 まさに誕生日会にふさわしい豪華な飯だ。



「よーし! そんじゃあ今日は盛り上がってくぜーーーー!!」



 一番手の寧夏が叫ぶと、最高に盛り上がるアニソンのイントロが流れ出した。



「あっ、ひよりもこれ知ってるー! 一緒に歌おー!」

「おー! ひよりんいいねぃ! なら、リオとリラも一緒に歌おう!」

「ふふ。ええ、いいわよ」

「私、知らないんだけど……」



 とかなんとか言いつつ、梨蘭と璃音も一緒に混ざる。

 俺と梨蘭の合同誕生日会が、始まった。

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