第98話

 翌日、7月7日。


 今日も今日とて底抜けの青空が広がり、太陽は元気に地上を照らしている。清々しい天気だ。


 そんな青空の下、いつものように自転車で登校している。

 鞄には昨日買ったプレゼントがあるけど……さて、どのタイミングで渡そうか。


 朝礼の前に渡すのがベターか?

 いや、朝礼前だと他のやつに見られるな。


 俺と梨蘭の関係を知ってるのは、龍也と寧夏。あとは璃音、ひよりくらいだ。

 クラスメイトは、俺と梨蘭が赤い糸で結ばれていて、付き合ってることは知らない。


 そんな衆人観衆の中、仲悪い(と思われてる)奴にプレゼントを渡すのは無理だ。


 となると、人の目が気にならない時間しかないか。

 ……よし、昼休みの時に渡そう。うん、そうしよう。

 いつもの階段の踊り場なら、誰にも邪魔されないしな。


 自転車を駐輪場に停め、改めて鞄の中のプレゼントを見る。


 ……プレゼント、喜んでくれるかな。

 今になって不安になってきた……いや、大丈夫。大丈夫のはずだ。喜んでくれる……と思う。多分。恐らく。メイビー。


 ……自信なくなってきた……と、とにかく、まずは梨蘭を昼飯に誘わないことには始まらない。

 いつも通り。いつも通りだ、俺。


 教室に着くと、既に梨蘭は席に着いていて、璃音と何か話していた。



「ねえ梨蘭ちゃん、今日のお昼一緒に食べましょう?」

「うん、いいわよ」



 作戦、終了のお知らせ。

 おいマジか。それじゃあ渡すタイミングは放課後しかないじゃん。

 仕方ない。後でそれとなく誘おう。


 今日のプランを練り直していると、梨蘭が俺に気付いて勢いよく立ち上がった。



「あ、アンタ! 昨日のメッセージ、あれよくよく考えたらサボりじゃない!」

「バレたか」

「バレたかじゃないわよ! バレバレよ!」



 いや、騙されてたろ。何ドヤ顔してんだ。


 梨蘭を素通りして席に座る。と、後ろに座ってた龍也と寧夏が肩を組んできた。



「へいへい暁斗、おっすっすー」

「アッキー、おっはー。昨日はサボるなんて、やりますなぁ」

「おはよ。まあ色々あってな」



 あと引っ付くな、暑苦しい。つか暑い。



「そうだ。アッキー、今日遊ばない?」

「おー、そうだな! 暁斗、付き合え!」

「え」



 あー……さすがに、遊ぶ時間はないからなぁ。今日は断らせてもらおう。



「悪いけど──」

「あ、倉敷君たち遊ぶの? それ、私と梨蘭ちゃんも行っていい?」

「え。ちょっと、璃音?」

「お、いいねぇ竜宮院! 今日はみんなで遊ぼうぜ!」

「それじゃあ決まりね」

「あ、あの。私の意見は……?」



 ……なんか、あれよあれよという間に話が進んでるような?

 うーん? なんか怪しいな。



「龍也。何か企んでないか?」

「俺がそんなこと考えられる男だと思うか?」

「悪い」

「わかってくれたらいいんだ」

「りゅーや、今のは怒っていいと思う」



   ◆



 結局この日、一日中梨蘭の隙を伺い、何度か話しかけようとするも。



「梨蘭ちゃん」

「久遠寺ー」

「リラたん!」

「リラ〜」

「久遠寺さん」



 ことごとく失敗。

 なんだ。なんで今日に限って、みんな梨蘭に話し掛けるんだ。


 そのせいで、放課後になった今でもプレゼントを渡せていない。

 ……まあ、遊んだ後に渡してもいいか。



「で、どこに向かってるんだ?」

「まあまあ。アッキー、細かいことは気にしない、気にしない」

「気にするわ」

「細かい男は嫌われちゃうZE☆」



 やかましい☆


 と、さっきからこの調子で何も答えてくれない。



「梨蘭、何か聞いてる?」

「実は私も何も知らないのよね。今朝からあの調子で」



 梨蘭も何も聞かされてないのか。

 これ、こいつら何か考えてるな。


 3人の背を眺め、黙考する。


 この時期、このタイミングで、何か隠し事を……。


 …………あ。

 そうか、そうか。なるほどね。






 つまりこいつら……梨蘭のサプライズ誕生日会を企画してるんだ!






 はっはーん。なるほど、なるほど。

 つまり俺に言っちゃうと、俺経由でバレる可能性があるからか。

 オーケー。そういうことなら、俺も知らないふりをしようじゃないか。


 ふっふっふ。梨蘭、驚くだろうなぁ。


 龍也と寧夏が先導し、駅前を歩くこと数分。

 全国チェーンのカラオケ屋に入った。

 ここなら、サプライズ誕生日会で騒いでも許される……考えられてるな。


 璃音が店員と話して受付をする。と、そこに。



「あ、アレー? ミンナ、ナニシテルノー?」



 ひよりが1人で店に入ってきた。

 多分、偶然を装ってサプライズ誕生日会に合流したんだろうけど……ものすごい棒読みだぞ。そんなんじゃバレるって。



「お、土御門。これからみんなとカラオケすんだけど、土御門も一緒にどうだ?」

「い、イイノ、クラタン? ソレジャーオコトバニアマエヨウカナ」



 予想通り、龍也がそれとなく誘った。

 やっぱりそういうことか。梨蘭の誕生日のために駆け付けてくれたんだな。



「よ、ひより」

「さっ、ささささっ、サナたん……!」



 話し掛けると、目も泳いでるし口もあわあわさせてるしで、まともにこっちを見てくれない。


 おいおい、こいつ役者の才能ゼロか。


 とりあえず釘を刺しとこう。



「あんまソワソワするなよ。バレちゃうぞ」

「ぇっ……!? そっか、サナたんにはバレちゃってるんだ……」

「まあ、これだけ露骨にみんなが動いてるとな」

「ぐぬぬ。完璧な計画が……!」



 いや、完璧ではないが。



「さ、サナたん。このこと、部屋に着くまでは知らんぷりしててよねっ」

「ああ、わかってるよ」



 ここで暴露しちゃ、せっかくのサプライズが台無しだからな。

 その前に、ひよりの大根演技でバレないか不安だけど。

 幸いにも、梨蘭は璃音と話していてこっちには気付いてない。


 ま、せっかくのカラオケなんだ。どうせなら楽しまないと損だよな。

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