第97話

 梅雨が明けた。

 梅雨が、明けた。

 梅雨が……明けた……!


 大事なことなので3回言いました!


 素晴らしい。晴れやかな気持ちだ。

 清々しく抜けるような青空に、肌をチリつかせる太陽。

 今日の気温は、30度近くまで上がるらしい。

 それでも爽やかな風が頬を撫でる。気持ちいい。超気持ちいい。


 それに、あと2週間も経てば夏休み!

 待ちに待った、高校生最初の夏休みだ!


 いやぁ、何しようかなぁ。

 また龍也や寧夏と旅行に行くのもいいし、梨蘭とも行きたい。遊びにも行きたいし、勉強会とかもしたい。

 リーザさんのところに入り浸るのもいいなあ。


 ふっふっふ。胸が高鳴るぜ!






「暁斗君。梨蘭ちゃんの誕生日、7月7日って知ってるわよね」






 いつものラーメン屋にて、璃音がそんなことを口走った。



「……マジ?」

「大マジよ。と言うか、恋人なのにそんなことも知らなかったの?」



 やめて。そんな「馬鹿なの? 死ぬの?」みたいな目で見ないで。


 今日の日付は7月5日。しかも夜22時。



「あと1日しかないじゃないか」

「本当に知らなかったのね……」

「ああ。いつか聞かなきゃとは思ってたけど、いろいろばたばたしててな」



 龍也達の件とか、璃音達の件とか、ご両親に挨拶とか。


 でも……そうか、7月7日ね……。



「教えてくれてサンキューな。ここは奢ってやるよ」

「本当? ゴチになります」



 璃音は嬉しそうに、ニコニコとラーメンをすする。


 さて、プレゼントか……彼女にプレゼントなんて、何を渡せばいいんだ?

 梨蘭の好きなもの、とか? 犬? いちご? うーむ……。



「なあ璃音。梨蘭へのプレゼントってもう買ったか?」

「もちろんよ」

「じゃ、参考までに──」

「いやよ」

「──教えて……って、拒否するの早くない?」



 ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃん。ケチめ。


 璃音はチャーシューを噛みちぎり、じどーっとした目で睨んできた。



「あなたね。女の子っていうのは、彼氏が自分のために一生懸命選んだものにときめくのよ。人からアドバイスなんてもらっちゃダメ」

「チッ」



 だけど、璃音の言うことにも一理ある。

 俺が一生懸命選んだものか……つっても、あと1日しかないんだよなぁ。

 しかも明日は平日。学校サボって、買いに行くしかないか。


 ……あ、そうだ。



「食事中にスマホいじるなんて、マナーがなってないわね」

「許せ」

「謝ってないわよねそれ」



「全く……」と呟きながらも、見逃してくれる璃音。

 それを横目に、龍也にメッセージを送った。



 暁斗:龍也、起きてるか?

 龍也:起きてるぜー! へいへいへーい!



 相変わらず既読からの返信が早い。しかもテンションも高いし。



 暁斗:聞きたいんだが、寧夏への誕プレってどうするつもりだ?

 龍也:課金カード1万円と菓子詰め合わせ。

 暁斗:そりゃいつも通りだろ。

 寧夏:私はいつもどーりでいいぜー。むしろいつも通りの方が嬉しいし。



 おわっ、いきなり寧夏から連絡来たっ。



 寧夏:ふっふっふ。なんで私から連絡来たのか、焦ってるアッキーが目に浮かぶぜ。

 龍也:そう、何を隠そう!

 龍也・寧夏:一緒に遊んでるからだぜぃ!



 こんな時間までテンション高いの、ちょっとうぜぇな。



 暁斗:いいのかよ。こんな時間まで遊んでて。特に寧夏の両親は厳しいだろ。

 寧夏:大丈夫大丈夫。遊んでるの、うちだし。



 ……は?



 龍也:あれから、なんやかんやあって寧夏の親に気に入られてな。結構な頻度で泊まりに来てんだよ。

 暁斗:なんやかんやありすぎじゃね?



 俺が璃音達の件や、梨蘭の両親との件があった間に一体何が……。



 暁斗:まあ、それはわかった。誕プレの件もありがとよ。じゃあな。

 寧夏:うーい。

 龍也:久遠寺にちゃんとしたの選んでやれよー。



 やっぱ気付いてやがったか。

 スマホをしまい、伸びてしまったラーメンをすする。


 いつも通りか……一生懸命選んだ、いつも通りのもの。

 うーん……悩む。

 高校生の小遣いじゃ、買えるものはたかが知れてるし。


 ……ま、とにかく明日ショッピングモールに行くか。



   ◆



 で、翌日。学校をサボってショッピングモールであれやこれやと悩み、あるものを買ってカフェでくつろいでいると。


 スマホに無数のメッセージが来ていることに気づいた。

 やべ、選ぶのに夢中で全然気付かなかった。

 えっと……梨蘭?



 梨蘭:暁斗、まだ学校来ないの?

 梨蘭:おーい? 暁斗ー?

 梨蘭:授業始まるわよー。

 梨蘭:無視すんなー!

 梨蘭:……あの、暁斗?

 梨蘭:わ、私、何か怒らせちゃった……?

 梨蘭:ごめん、ごめんね。

 梨蘭:ごめんなさい。

 梨蘭:許して……。

 梨蘭:暁斗……。

 以下20件の謝罪文。



 いや怖っ。怖い。梨蘭、メンヘラの才能あるよ。



 暁斗:悪い。体調悪くて病院来てるんだ。また後で連絡する。

 梨蘭:えっ、大丈夫なの!? お見舞い行く!

 暁斗:大丈夫。病院行った結果、仮病って名前の病気というのが判明した。明日には学校行くよ。

 梨蘭:ほんと? よかったぁ。

 暁斗:という訳で、また明日な。

 梨蘭:うん、お大事に!



 相当慌ててたのか、あいつ普通に騙されたぞ。

 ボケにツッコんでくれないと、俺としても恥ずかしいんだが。



「……ま、梨蘭らしいか」



 紙袋を撫でると、梨蘭の顔が脳裏によぎった。

 ……喜んでくれるといいな。


 梨蘭の喜ぶ顔を想像し、ゆっくりとコーヒーをすする。


 それにしても……はて、何か忘れてるような。……なんだろ?

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