第93話

 食事を終え、食後のデザートを食べていると、流しっぱなしのテレビから緊急速報が流れてきた。



「速報です。現在、神奈川県全域に大雨暴風警報が出ました。不要不急の外出は控え、安全の確保を——」

「え」



 お、大雨暴風、だって!?

 そう言えば、今朝のニュースで今日の夜は雨が降るとは言ってたけど……え、警報レベル!?


 お母さんが雨戸を僅かに開けて外を確認する。



「うわ。これは酷いね。傘さしたら、迦楼羅なら飛んでっちゃいそう」

「メリー!? 私メリーになれるん!?」

「死ぬからやめときな」

「あーい」



 とか言いつつ、ウイスキーのロックをがぶ飲みする迦楼羅さん。この人、酒強いんだな。

 ……って、そんなのんきに構えてる場合じゃない!



「ど、どうやって帰ろう……」

「車を出そうにも、酒飲んじゃってるからねぇ」



 確かに。ご両親と迦楼羅さんで、もうビール、日本酒、ウイスキー、ワイン、カクテルと、かなりの量を空けている。

 飲酒運転はさせられない。


 こりゃ、頑張って歩いて帰るか。



「では、そろそろお暇させていただきます。これ以上雨が強くなると、本当に帰れなくなりますから……」

「帰らなくてもいいんじゃないか?」



 ……え?

 お父さんが日本酒をちびちび飲み、腕を組んだ。



「もう20時も過ぎるし、私達も車を出せない。それにこんな大雨だ。帰宅中、もしものことがあったら、アキト君の親御さんに申し訳が立たない。今日は泊っていきなさい」

「そうね。アキト君、今日はゆっくりしていくといいよ」

「いえーい! お泊りお泊り~!」



 お父さんの一言で、お母さんも迦楼羅さんも乗り気だ。

 それは助かるんだが……そんな、いいんだろうか。



「いいじゃない、暁斗。泊っていきなさいよ」

「……いいのか?」

「まあ、こんな雨の中帰らせるわけにもいかないしね。パパとママがいいって言うなら、気を使う必要はないわよ」



 いや、まあ……そうなんだけど。

 これって、図らずも好きな人の家に泊まるってことだよな? それって、その……うううっ。考えるな俺! そんな邪な考えは捨て去れ! 煩悩退散!



「そ、それでしたら……今日は、お世話になります」

「「「(計画通り)」」」

「え?」

「「「なんでもないよ」」」



 なんか不吉なことを言われた気がしたんだが……気のせいだったか?

 首を傾げると、お母さんが「さてと」と席を立った。



「それじゃ、私は布団の準備でもしてこようかね。客室があるんだ。あ、もし梨蘭と寝たいなら、梨蘭の部屋でいいけど」

「客室でお願いします」

「照れなくてもいいのに」

「照れますよ!」



 ただでさえ突発的お泊り会に加え、梨蘭の部屋で梨蘭と2人きりとか、緊張が青天井すぎる!

 さすがのお母さんも冗談だったのか、カラカラと笑ってリビングを出て行った。

 からかわれるの、本当に疲れる……。



「パジャマは私のを貸してあげよう。少し小さいかもしれないが、我慢してくれ」

「あ、ありがとうございます」



 今度はお父さんがリビングを出た。

 迦楼羅さんは気にせず、今度ウォッカを飲んでいる。無尽蔵かこの人。



「なんだか、うまく嵌められた気がする」

「奇遇ね。私も同じこと考えてたわ」



 土曜日が大雨だと言うのは、前から天気予報でわかっていた。

 もしご両親がそれを見越してこの日に予定を設定して、全員が酒を飲んで車を運転できなくさせる。そして大雨+暴風がやって来て、強制的に泊まらせる……って、いくらなんでも考えすぎか。



「こういう時は。ねえ、カルお姉ちゃん。もしかしてこうなること見越してた?」

「知らなーい」

「冷凍庫のアイス、あげるわよ」

「まさにその通りでございます! アイスー!」



 あの人、一瞬で手の平返したぞ。



「……ごめん、暁斗」

「気にすんな。それに……いきなりとは言え、明日まで梨蘭と一緒にいれるんだ。むしろ感謝してるよ」

「ぁぅ……い、いきなりそんなこと言うな、ばか」



 梨蘭は頬を染め、コップに残っていたジュースを一気に飲み干す。

 よく見ると緊張してるのか、僅かに体が震えていた。


 まあ、そりゃそうだよな。別部屋とは言え、いきなり運命の人と泊ることになったんだ。ぶっちゃけ、俺も緊張してるし。


 とにかく、家族に連絡いれないと。



 暁斗:雨風のせいで帰れなくなった。今日は泊っていく。

 父さん:り

 母さん:り

 琴乃:おほーーーーーーーーー! お泊りだーーーーーーーーー!!

 琴乃:あとで詳細よろ!!!!



 相変わらず淡泊な両親だ。

 琴乃は通常運転みたいで安心したよ。



「家族には連絡した。いいってさ」

「わ、わかったわ。……えっと……ね、ねえ、暁斗——」

「布団の準備終わったよ。アキト君、先にお風呂入ってきていいわよ」

「えっ? あ。は、はい。それじゃあ、お言葉に甘えまして……」



 梨蘭、何か言いかけてたな。なんだろう。

 お母さんの案内で風呂場に向かい、脱衣所で服を脱いでいると。

 突然、スマホが鳴動した。


 誰だ……ん? 梨蘭? さっきのことか……?


 何気なく、スマホを開く。



 梨蘭:みんなが寝た後、部屋に行くわね



 …………。


 ふぁっ!?!?!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る