第92話
◆
「んっ……ふあぁ〜。よく寝たわ。すっきりぃ〜」
3時間後。ようやく起きた梨蘭が、大きなあくびをして伸びをした。
「……よかったね」
「な、何よ暁斗。そんな疲れた顔しちゃって。そりゃ、ずっと寝ちゃったのは悪かったけど……もしかして脚痺れちゃった? ご、ごめんっ。それだったら、起こしてくれてよかったのに……!」
いや、違う。違うんだ。
別に脚は痺れてないし、梨蘭が気持ちよさそうに寝てたからそこは問題ない。
「……見られた」
「え?」
「……迦楼羅さんに、見られた」
「……ぇ」
何を言われたのか理解できていないようだったが。
次の瞬間、色白の肌が一瞬で真っ赤になった。
「み、み、見っ!? み、見ら……!?」
「ついでに言えば写真も撮られた」
「!?!?!!!?!???!!?!?」
バッ!(起き上がる音)
ドカンッ!(扉を蹴破る音)
ドタドタドタ!(階段を駆け降りる音)
ギャーギャーワンワン!(姉妹喧嘩)
この間僅か3秒。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「お姉ちゃん!!」
「おっはー。さっきはお楽しみでしたね♪」
「何!? 孫か!? 遂に孫が見れるのか!?」
「あらぁ。こりゃお赤飯も作らなきゃダメかね」
「パパ、ママ! 違うから! 暁斗に膝枕してもらっただけで……ってああああああああああああああああああ!!!!」
「自爆したねリラ。因みにこれが証拠写真です」
「家宝じゃあぁああああああああ!!!!」
「家の壁紙、これに変えようかしら」
「もうやめてぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!?!!!!??!?!?!!」
…………。
「あ。雨降ってきたな」
◆
「いやはや、お騒がせしてごめんなさいね、アキト君」
「い、いえ。それより……」
リビングに降りると、梨蘭がソファーの上で丸くなっていた。まるでおまんじゅうだ。
「あぁ、あの子は気にしないでいいよ。からかうと、基本こんな感じで丸くなるんだ、梨蘭は」
「そ、そうですか……?」
梨蘭って、家ではいじられ役なんだな。
また知らない梨蘭の一面を知れた気分。
「リラー? ご飯だよー?」
「…………」
「リラの好きな唐揚げもあるよー?」
「(ぴくっ)」
お、反応した。
「食後にアキト君の買ってきてくれた生クリーム苺大福もあるよー」
「(ぴくぴくっ)」
「唐揚げ1個くれたら、後であの写真あげるよー」
「しょ、しょうがないわねっ。許すわ」
「ち ょ っ と 待 て ?」
何を本人を前にして写真のやり取りしてんだ、この姉妹は。
「はっはっは! アキト君、リラだけじゃなくて、カルにも気に入られてるな!」
「ほらほら2人とも、さっさと席に座りな。悪いけど迦楼羅は、折りたたみの椅子ね」
「あーい」
「お腹空いたわ」
あの、ご両親? その前にこの姉妹を注意してくれませんかね。あの、スルーしないで?
……もういいや。諦めた。
席に座り、改めてご馳走を見る。
ハンバーグ。唐揚げ。ポテトサラダ。ナスの揚げ浸し。アボカド。レタスのサラダ。更にちらし寿司まで。
すごい豪勢だ。こんな豪華な食卓、久々に見た。
「おっほぉー! おいしそー!」
「すごい気合い入ってるわね、ママ」
「当然さ。未来の息子に振る舞う初めての手料理だ。下手なものは出せないよ」
「あ、ありがとうございますっ」
でも、食い切れるかな、こんなに。
あまりの量に圧倒されていると、俺と梨蘭にはオレンジジュースが。ご両親と迦楼羅さんにはビールが注がれた。
「こほん。あー。それでは僭越ながら、家長たる私から挨拶を──」
「じゃ、アキト君と梨蘭の幸せを願い。かんぱーい」
「かんぱーい!」
「暁斗、乾杯」
「か、かんぱい……?」
「母さん俺の見せ所奪わないで!」
お父さん、ドンマイっす。
「さ、アキト君。好きな物食べて」
「は、はい。いただきます」
じゃあ、まずハンバーグから。
はむ。ジュワァ。
「ッ! う、ぉ……うまい……!」
「美味しいかい?」
「はいっ。こんな美味しいハンバーグ、初めて食べました……!」
「そ、そこまで褒められると、悪い気はしないね」
羞恥なのか、酔いなのか。頬を染めたお母さん。いやこの人本当に二児の母ですか? 美人すぎません?
将来、梨蘭もこうなるのかなぁ……そう思うと、今から楽しみでもある。
「ぷっっっはぁー! ビールに唐揚げ! サイコーーー! リラぁ、アキトくぅ〜ん。早く大人になりたまえ! 一緒に飲もう!」
いやこの人酔うの早いな!
「アキト君、母さんのナスの揚げ浸しは最高だぞ。じゃんじゃん食べなさい」
「あ、はい」
逆にお父さんは、酒が入ると大人しくなるのか。
料理に舌つづみを打ち、改めて見渡す。
こうして、大人数で食卓を囲むのも久々だけど……やっぱり誰かと飯を食うのって、いいな。
なんとも言えない幸福感を感じ、ナスの揚げ浸しを頬張った。
いやうまっ!
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