第82話
◆
翌日の昼休み。場所は学校の中庭。
そこにレジャーシートを広げ、俺、梨蘭、そして竜宮院が向かい合って飯を食っていた。
何やら飯を食いつつ、相談があるらしい。
相談があるのはいいんだが……なんで中庭なんだよ。
目を動かして周囲を見渡す。
俺達……と言うより、俺を睨み付ける男達の視線、視線、視線。
それもそうだ。
梨蘭と竜宮院。1年生の二大美女2人が中庭にいるだけでも目立つのに、そこに俺みたいな男がいるんだ。嫉妬の視線がすごい。
君達、自分にも運命の人がいるだろう。だから、怖いからやめて。
肩身の狭い思いをしながらも、ちびちび弁当を食べつつお茶を一口。うむ、うまい。
「ふぅ~……それで竜宮院。相談ってなんだよ?」
「うーん。なんて言ったらいいのか……」
言いづらそうに苦笑いを浮かべる竜宮院。
多分というか、十中八九例のことだよな。相談っていうくらいだし。
梨蘭をチラ見する。が、首を竦めて首を傾げた。梨蘭も、何も聞かされてないらしい。
ふーむ。何やら嫌な予感。
竜宮院はどう言い出そうか悩み、そして。
「実は、勘当されまして」
とんでもない爆弾を投げ入れた。
「「………………………………は????」」
かんどう……感動、間道、カンドウ……勘当!?
何ともない顔であっけらかんと言う竜宮院。
それを聞かされた俺と梨蘭、唖然。
今こいつ、勘当って言ったか? え、マジで?
「ちょ、ちょっと璃音、それ本当なの……!?」
小声で詰め寄る梨蘭。だけどその気持ちもわかる。いきなり勘当とか言われても、余りにも現実味がない。
「あ、ごめんなさい。正確には勘当されたと言うより、されそうなのよ」
「……決まりじゃないってこと?」
「ええ。でも多分、今日あたりに通達されるかも」
えぇ……唐突過ぎないか、それ。
いったい何があったんだよ。
「実はあの後、リーザさんとメッセージで相談したの。今後どうしていくのかって」
竜宮院の言葉に、梨蘭は黙って頷く。
まあ、2人の人生だしな。それは当たり前だろう。
「相談した結果、やっぱりちゃんと伝えて、理解してもらおうってことになったのよ。私達だって、家族には祝福されたいもの」
うん、賢明な判断だ。いつまでも隠し通しておけることでもないし。
「で、昨日リーザさんと一緒に伝えたの」
「いやはっや」
リーザさんの行動力の速さと強引さは知ってたけど、竜宮院も随分とアクティブだな。
あの人の運命の人だから、何となく納得できるけど。
「そ、それで、どうなったの……?」
「気絶されたわ。まだ目を覚ましてないみたい」
いや、当たり前だわ! 親からしたら、超突然のことだもん!
しかも竜宮院のお母さんは、世継ぎのことをかなり心配していた。
そんな実の娘から、「実は運命の人は女性でして……」なんて暴露されてみろ。気絶の1つや2つくらいするわ!
「あのお母様が、気絶するほどのショックを受けたんです。目を覚ましたら、恐らく私は竜宮院家から勘当されるでしょう」
「「…………」」
急展開に、押し黙る俺と梨蘭。
こんな時、どう言葉にしていいかわからない。勘当される展開とか、まさか過ぎる。
「……もし勘当されたら、璃音はどうするの……?」
「リーザさんの所にお世話になるわ。リーザさんも、リーザさんのお母様も認めてくださってるし」
……平然としてるな。全然動揺していない。
こっちは急展開で混乱しっぱなしだって言うのに。
「でも……もしかしたら、私は学校を辞めるかもしれないわね」
……え?
「辞める……? ど、どうしてだ?」
「だって勘当されたら、実家からお金を出してもらうこともできないでしょ。リーザさんのご家庭の事情も聞いているわ。さすがに、高校卒業までのお金を出してもらおうなんて、そんな面の皮が厚いことはできない」
そ、それはそうだが……だからって、学校を辞めるなんて。
梨蘭なんてびっくりしすぎて白目剥いてるんだけど。
「……それ、どうにかできないのか?」
「うーん……正直、お母様を説得するのは難しいと思うわ。16年一緒に住んできた私が言うんだから、間違いない」
「ネガティブなことを自信満々に言うやつ初めて見た」
だとしたら、どうすればいいんだろうな。
ぶっちゃけもう詰んでる。ここから現状をひっくり返す手立てなんてないだろう。
恐らく今後の人生に関しては、運命の人であるリーザさんと一緒になるなら問題はない。
どんな逆境でも、どんな苦難でも、運命の人がいれば乗り越えられる。
それが、『運命の赤い糸』だ。
だけどそれは自分達のことであり、他人の思想まで変える力はない。
つまり、万事休すってわけだ。
「……それで、相談ってのは? 勘当を食い止めてくれとか、退学したくないとかは、俺達じゃどうにもできないが……」
「もうそっちは諦めたわ。変えられないことは、いくら考えても仕方ないもの。私の相談っていうのは……その……」
竜宮院は頬を染め、指をもじもじ、体をそわそわさせる。
「えっと……もし私が学校を辞めることになっても……お友達でいてくれる?」
「あっっっっっっっったりまえじゃない!」
あ、復活した。
梨蘭は竜宮院の手を握り、ぐいっと寄った。
「璃音。私はずっとずっと、あなたの友達……いえ、親友だからね!」
「俺も、友達としてなら側にいれる。リーザさんは俺の師匠だしな。できる限り、協力させてくれ」
「梨蘭ちゃん、真田君……うん、ありがとう」
目に涙を浮かべ、華やかに笑う竜宮院。
そんな様子を見ていた梨蘭も、目にうっすらと涙を浮かべ――直後、誰かのスマホが鳴った。
「あ、ごめんなさい。私よ」
急いでスマホを取り出し……固まった。どうしたんだ?
「り、璃音……?」
「え、えーっと……とりあえず、これ見てちょうだい」
「俺も見ていいのか?」
「ええ。むしろ2人に見てほしいというか……」
俺ら2人に?
梨蘭と顔を見合わせ、竜宮院からスマホを受け取る。
そこに映し出されていたのは。
母:お話があります。
母:本日の夕方、リーザさん、梨蘭さん、暁斗さんを連れてきなさい
事実上の、死刑宣告だった。
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