第79話
◆
……普通だな。
翌日の教室。
何となく竜宮院を目で追っているが、何事もなく楽しげに梨蘭と話していた。
まあ、今まで隠し通して来たんだ。今更取り乱すようなマネはしないんだろうけど……豪胆と言うか、なんと言うか。
窓際で佇み、微笑みを絶やさない2人。
クラスメイトも、その2人の姿に見とれていた。
本当、2人って一緒にいると絵になるな……しかも1人は、俺の運命の人だし。
竜宮院には悪いけど……本当俺、幸せ者なのかもしれない。
ぼーっと2人を見ていることしばし。
登校してきた龍也と寧夏が、こっちにやって来た。
「へいへいへーい! 暁斗、ちすちすー!」
「アッキー、おはおはー」
「おー。2人は今日も一緒に登校か」
「そりゃあ!」
「私達!」
「夫婦ですから!」
「「へーい!」」
ハイタッチをする2人。
例のことがあってから、2人の距離は更に縮まった。
今では教室でもそのことは隠していない。
赤い糸で結ばれてることも公言してるからか、みんな微笑ましいものを見る目で見ていた。
「それより暁斗。嫁ちゃんのこと見つめてどーしたんだよ」
「いや、竜宮院を見てただけだ」
「……浮気はやめとけ、暁斗。な? 嫁ちゃんが悲しむぞ」
「アッキー。嫁ちゃんというものがありながら、サイテー」
「違うわ」
だから寧夏。そんな生ゴミを見るような目で見ないでくれ。ちょっと傷つく。
ただまあ、さすがに竜宮院のことは相談できない。
かと言って、俺らがどうにかできるもんでもないし。どうしたもんか。はぁ……。
「……? 暁斗、本当に大丈夫かよ」
「拾い食いでもしたんじゃないのん?」
「してねーよ。俺をなんだと思ってんだ、寧夏」
「……野生児?」
「今までの人生で野生児要素どこにもないんだけど」
どこをどう見て野生児って思ったのか簡潔に頼む。
ジト目で寧夏をねめつけるが、興味を無くしたのか自分の席に戻っていった。
相変わらず、あいつは自由人だなぁ。
「サナたん!」
「おわっ!?」
ちょ、耳元で叫ぶな! 鼓膜敗れるかと思ったわ!
慌てて振り返ると、満面の笑みの土御門がいた。
梅雨時だと言うのに長袖のワイシャツを着ていて、数回折りたたんでいるが、暑くないのだろうか。
「サナたん、おっはっはー!」
「あ、ああ。おはよう、土御門」
「ひよりんって呼んでくれていいのにぃ」
いつものやり取りをし、土御門は梨蘭の席に座った。
まるで、あの時の告白が無かったかのようにいつも通りの土御門。
俺も最初は戸惑ったが、慣れたもんだ。
今ではよい友人関係を築けている。……と思っている。俺だけかもしれないけど。
「おー。土御門、ちすちすー」
「いえーい、クラたんちすちすー」
最近はこうして、俺達と絡むことが増えた。
当然、黒瀬谷達との交流も忘れず。ギャルのコミュ力高すぎ、怖い。
土御門はカバンにしまっているチョコレートを取り出し、口に含む。
「太るぞ」
「ぶぅ。女の子は砂糖菓子でできてるから、甘いもの食べても太らないんです~。デリカシーのないこと言ってると、リラたんに嫌われちゃうぞ~? ま、ひよりとしてはその方がありがたかったりするけどねー」
土御門は何でもないように言うが、一言一言が心臓に悪い。
なんか、まだ俺のことを諦めきれてないみたいだし。ちょっと罪悪感というか。
「土御門、俺は……」
「わかってるよん。サナたんにも運命の人がいるもんねー。……でも」
土御門は妖艶な流し目を俺に向ける。
普段見せない土御門の表情に、思わずドキッとした。ごめん、梨蘭。何となく心の中で謝罪。
土御門は俺の机に肘を置き、下から見上げるように見つめてくる。
挑発するように。媚びるように。
そして、誰にも聞かれないようにそっと耳打ちしてきた。
「ひよりの想いは、まだサナたんだけのものだから。ふぅー」
「ひぅっ……!?」
ちょっ、耳に息を吹きかけるな……! 耳弱いんだよ俺……!
「あは☆ 耳で感じちゃうサナたん、かーわい♪」
「か、からかうな……!」
「ごめんなさーい」
謝ってねーなこいつ。
……まあ、これが土御門だもんな。何か諦めた。
俺は周りを見渡し、誰にも気づかれないように小声で話し掛けた。
「お前、まさか俺にフラれたこと根に持ってる? だからこんなことを……」
「違うよー。いやさー、ひよりも前を向いて、サナたんから卒業しようと思ったんだけどねぇ……中々想いっていうのは消えてくれないものなんだよぅ。だ、か、ら」
ぴと。鼻先を指で弾かれた。
「もう少しだけ、この想いを大切にさせてくれると嬉しい……かな」
楽しそうに、でも寂しそうに俺を見つめてくる土御門。
土御門がそれでいいって言うなら、俺が止めることはないけど……。
あと龍也。そのニヤニヤ顔やめろ、ひっぱたくぞ。
そっとため息をつき。ふとある考えが浮かんだ。
そうだ。龍也と寧夏に相談しても茶化されるか邪推されるとは思うけど……土御門に相談するのはどうだろうか。
……いいな。多分土御門は、親身になって相談に乗ってくれるだろう。よし、そうしよう。
土御門に話し掛けようとする。
と、そこに。
「おはよう、ひより」
「……あー。リラたん、おはおはー」
さっきまで竜宮院と話していた梨蘭が、土御門の背後に立っていた。
どことなく不機嫌な梨蘭と、強気なのか笑顔を崩さない土御門。
な、なんか居心地が悪いんだけど。
「ひより。あき……真田と何話してたの?」
「えー? ただお友達として話してただけだよー?」
「……そう……もう三千院先生が来るわよ」
「あーい。じゃ、サナたん。またねん」
にぱーと笑い、土御門は自分の席に向かっていった。
相談は、あとでメッセージでも送るか。
なんてことを考えてると、梨蘭がむーっとした顔で俺を見てきた。
「な、なんだ?」
「……ふん」
そっぽを向かれ、俺を無視して席についた。
何をそんなに怒って……ん? メッセージが……。
梨蘭:浮気はダメだからねっ
梨蘭:(犬が唸ってるスタンプ)
あ……なるほど。俺と土御門が仲良く話してるのが気に食わなかったのか。
……可愛い奴だな。
暁斗:安心しろ
暁斗:俺が好きなのは梨蘭だけだ
バッ──!!
いきなり振り向いて来た梨蘭。
その顔には、恥ずかしさとほんの少しの怒りが入り交じり、何とも言えない表情になっていた。
「ん?」
「~~~~っ! 知らないっ」
はは。前にショッピングモールで迫られた時の仕返しだ。
あの時の仕返しができ、ちょっとした愉悦に浸っていたところで、ちょうど三千院先生がやって来たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます