第67話
◆
翌日、学校に登校すると、既に梨蘭が来ていた。
何やら竜宮院と楽しそうに話していたが……俺を見るなり、顔を真っ赤にして目を逸らされた。
いやまあ、気持ちはわかる。学校でもあんなにいがみ合ってた2人が付き合うって……恥ずかしいことではないけど、心情的に恥ずかしいと言うか。
「あ、真田君。おはよう」
「ああ、竜宮院。おはよう」
……ここで梨蘭にも挨拶しないと、後で拗ねられるだろうな。
「……おはよう」
「ぉっ……おはよぅ……」
……そんな乙女みたいな顔すんなよ。余計恥ずかしくなるだろ。
俺も顔が赤くなってるのを自覚してると、竜宮院が微笑ましいものを見るような目をして来た。
「ふふ。本当、2人とも可愛いわね」
「からかうなよ」
「からかってないわ。本当に思ってるもの」
竜宮院は流れるように俺に近寄ると、耳元で小鳥のようにさえずった。
「梨蘭ちゃんから聞いたわ。おめでとう」
「聞いたのか。ありがとう。……でも悪いけど、このことは誰にも言わないでもらえると助かる」
「わかってるわよ。じゃあ、私からも一言だけ」
竜宮院は俺の肩に手を置くと──。
「梨蘭ちゃんを泣かせたら……私が本気で泣かせちゃうから」
底冷えする、暗い感情の篭った声でささやいた。
竜宮院が秘めてるこの感情、どういった意味なのかはわからない。
同性としてか。
それとも親友としてか。
はたまた、
俺には、わからない。
わからないけど、俺の答えはただひとつ。
「安心しろ。梨蘭は俺が幸せにする」
「……ん、任せたわ」
ぽすっ。軽く胸を殴り、竜宮院は自分の席に戻って行った。
「???? なんの話ししてたの?」
「気にすんな。決意表明みたいなもんだ」
「それ余計に気になるんだけど」
アメリカ人のように肩をすかして、そのまま自分の席に着く。
その直後にメッセージが飛んで来た。
梨蘭:お昼、例の場所に来て
暁斗:ん、了解
例の場所。つまり階段上だ。
今週末のことで話があるのかな。
今週末。俺は梨蘭の家に食事に誘われている。
しかも家族全員、俺と梨蘭の関係を知ってるらしい。
俺らが赤い糸で繋がってること。そして、俺らが付き合ってること。
そんな状態で食事のお誘い……不安しかない。
心の中で嘆息すると、教室の前の扉が開いて龍也と寧夏が揃って入って来た。
「へーい、みんなおはよーさん!」
「おはおはー」
すれ違う奴全員に挨拶する2人。クラスメイトも、そんな2人に挨拶を返す。
いつも通り。あんなことがあったとは微塵も感じさせない、いつも通りっぷりだ。
「へい暁斗、おっはー」
「アッキー、リラ、おっはー」
「お、おう。おはよう……」
「う、うん。おはよ、2人とも……」
逆に俺達がキョドってしまった。
「どーした2人とも。月曜だぜ? テンション上げてこう!」
「って、アッキーは雨も月曜日も大嫌いたから、テンション上げるのが難しいでしょ」
「あー、それもそっか」
「「へーい!」」
あ、違う。いつも通りじゃない。何となく2人とも空回ってる。
普段から近くにいる俺じゃないと気付かないレベルだけど、間違いない。
「2人とも、あんま無理しなくていいぞ」
「えー、なんのことー? りゅーや、わかんなーい☆」
「にゃんのことかにゃー。にゃー」
こいつら引っぱたいてやろうか。
2人は危機を察知したのか、口笛を吹いて離れていった。
ただまあ、あれからどうなったのか心配はしてたけど、杞憂だったみたいだな。
梨蘭も同じことを思ったのか、こっちを振り向いて微笑んだ。
まあ、2人の危機は脱したとして。
問題は俺……なんだよなぁ。
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