第47話
「あっ、ところでセンパ〜イ」
「その甘ったるい声やめろ」
「あっはー! いいじゃないですかぁ、ウチとセンパイの仲なんですし!」
と、急に俺の腕に抱き着いてきた。
相変わらず、こいつの距離感はどうなってやがるんだ。
こいつとは俺が中学2年生の頃からの付き合いだ。
テンションの高さや波長が琴乃と合ったのか、琴乃が家に呼んだのが始まり。
最初はただのギャルみたいな感じで、俺に対して何も感じない、良くも悪くも興味が無いというスタンスだったはずだ。
それが、
こいつも梨蘭とは別の意味で、何を考えてるのかわからん。
と、梨蘭が口元をピクつかせて近付いてきた。
「ちょっと安楽寺さん、距離近くない?」
「えー? 久遠寺先輩にはかんけーなくないですか?」
「むぐっ」
関係はある。
ただ、俺との関係は他の人に漏らさないようにしているから、無闇に話すことはできない。
竜宮院は仕方ないにしても、龍也と寧夏のいる今は絶対ダメだ。
「乃亜、離れろ」
「え……いつもはそんなこと言わないのに、何で今日はそういうこと言うんですか?」
「いつも抱き着いてるみたいなこと言うな」
「抱き着いてますよね? センパイのお家とかで」
あ、おいバカ。
「い、い、家……!? 家って……!?」
梨蘭が顔を真っ赤にして、目を白黒させている。まあこうなるか。
「はぁ……とにかく離れろ。俺にも運命の人がいるんだから」
「むぅー。はーい」
今度はあっさり離れてくれた。
梨蘭以上によくわからん奴だ。
「アンタ、さっきは単なる後輩って言ってたじゃない」
「ああ、後輩だ。琴乃の親友でもあるから、たまに家に来るんだよ」
「単なる後輩がその距離感ってどうなの……?」
うん、それは俺も気になる。
まあ龍也や寧夏に対しても割とこんな感じだし、今はもう慣れたけど。
「ぶーっ、単なる後輩って酷くないですかー? ウチとセンパイの間はそんなもんじゃないですよね?」
「いや、先輩後輩の関係だけど」
「相変わらずドライですね……チッ」
だってそれ以上でもそれ以下でもないし。
って、今舌打ちした?
「そ、れ、よ、りぃ」
乃亜は梨蘭なんて眼中にないとでも言いたそうに、再度近寄ってくる。
真正面から見ると、やっぱこいつって美少女だな……ちょっとドキドキする。
「センパイ、もう運命の人って見えてますよねー? どんな人なんですかー?」
またなんつー答えづらい質問をぶつけてくるんだこいつ。
動揺を悟られないようにしつつ、梨蘭の方には目を向けずに僅かに息を吐く。
目の端に映る梨蘭は、どことなく期待してるような顔をしていた。
それはいいが、おい竜宮院。今にも笑いだしそうじゃねーか。後で説教な。
「……どんな人かなんて、お前に関係ないだろ」
「……ま、そうですね。どーせ私とセンパイは年齢も違いますし」
「? 今年齢の話、関係あるか?」
「センパイなんて馬に蹴られてぴょいぴょいしちゃえばいいんです」
「何その擬音」
てか、何でこいつも唐突に不機嫌に。
「っと、いけない。そろそろ帰らないと。それじゃ、センパイ。また遊びに行きますね!」
「あ、待て乃亜」
「あい?」
今にも走り出しそうな乃亜を引き止め、なるべくみんなに聞こえないよう耳打ちする。
「愛の囁きですか? キャッ」
「ちげーわ。その……大丈夫か?」
と、俺の言葉に目を見開くと、直ぐにほにゃっと柔らかい笑みになった。
「……やっぱり優しいですね、センパイ」
「普通だ、普通」
「えへへ。心配しなくても大丈夫ですよ。琴乃もいますし、何よりセンパイが頼りになりますから」
「……それならいいが、何かあったらまた言えよ」
「あいあいさー!」
ビシッと謎の敬礼をし、龍也達にも挨拶して元気に走り去った。
何だかんだ、元気でよかった。
「おいおい暁斗。最後何話してたんだよ」
「まさかアッキー、中学生に手を出すつもりじゃ」
「そんなんじゃないわ」
あのことは言いづらいから、誰にも言えないけど。
乃亜も、話されたくないだろうから。
って、そろそろ21時回りそうだな。いい加減帰らないと。
「ま、俺らもそろそろ帰ろうぜ。また明日な」
「そうだな。ネイ、帰ろうぜ」
「おー。じゃね、みんなー」
「私も行くわね。真田君、梨蘭ちゃん。また明日」
龍也と寧夏が先に帰り、その後竜宮院も駅の喧騒に消えていった。
後に残されたのは俺と梨蘭だが……何か意図的に2人にされたような気がする。
「暁斗」
う……唐突な名前呼び、やっぱ慣れない。
「な、何だ?」
「さっきの子、本当に何もないのよね」
「え? ……ああ、何もない。本当だ」
「ふーん。……ま、別にあの子と何があろうとなかろうと、私には関係ないけど。ふんっ」
む、今のはちょっとムカッとしたぞ。
「何をそんなに怒ってんだ」
「知らない」
「いや、知らないって……」
「知らないもん」
何だそりゃ。
結局、この後は梨蘭が不機嫌になったまま解散となった。
本当は家まで送るつもりではいたんだが……何故かその背中からは「付いてくんな」オーラが出ていて、駅前で見送るしかできなかった。
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