第46話

「あれ、安楽寺じゃん」

「ノア、やっほー」

「あ! リューヤ先輩にネイちゃん先輩! こんちゃす!」



 乃亜と面識のある2人が挨拶をする。

 まあ、中学の時に俺と一緒に行動してたのは龍也と寧夏だからな。2人とはそれなりに絡んでたし。



「わっはー! ホントお久しぶりですぅ! ネイちゃん先輩、相変わらずミニマムカワイー!」

「ミニマム言うな」



 とか言いつつ、抵抗せず抱っこされてる寧夏。

 こう見ると、本当に寧夏の方が妹っぽい。

 乃亜は寧夏を下ろすと、むすーっとした顔でツインテールをもふもふする。



「皆さんが卒業して、ちょーちょー寂しかったんですよー。特にセンパイなんて、連絡すらしてくれないしー」

「お前、琴乃と同じで受験生だろ。連絡しちゃ迷惑だと思ってな」

「迷惑なわけないですー。そういう優しさが逆に迷惑なんですー。優しいセンパイちょー迷惑です」



 なんだそりゃ。意味わからん。



「まあ……なんだ。元気してたか?」

「塾帰りだったんですけど、センパイの顔見てめっちゃ元気出ました! やっぱセンパイは歩くエナドリですね! 私専用の!」



 いや本当に訳わかんない。何が言いたいのこいつ。

 乃亜の相変わらずの訳分からん言動に呆れてると、制服の裾を引っ張られた。

 誰だ……って、梨蘭? あれ、なんか不機嫌?



「ちょっと、あき……真田。誰よこの子。どんな関係?」



 そんな不倫現場を見たような顔をされても。

 俺何もしてないんだけど。……してないよね?


 梨蘭も同じ中学だが、幸か不幸か乃亜との面識はない。

 こいつは梨蘭とは正反対みたいな性格だからなぁ。梨蘭がいる時に、あんまり出会いたくなかったんだけど。



「あいつは安楽寺乃亜あんらくじのあ。俺らの後輩だ」

「制服見ればそれくらいわかるわよ。じゃなくて、アンタとの関係」

「大したもんじゃないぞ。単なる後輩で、琴乃の親友だ」

「本当に? あの子がアンタを見つけたときの顔、どう見ても後輩って感じじゃないんだけど」

「どんな顔だよ」

「……知らない」



 えぇ……ここまで来てそりゃないだろ。


 梨蘭が警戒するような目で乃亜を見る。

 何を疑ってるんだ、こいつは。

 まあ、梨蘭が生理的嫌悪を覚えるのも無理はない。


 梨蘭を表す言葉が【律儀】だとするなら、乃亜を表す言葉は【適当】だ。


 梨蘭より、俺や龍也や寧夏側の人間と言える。


 そんな乃亜が梨蘭に気付き、目の色を変えた。

 まるで親の仇を見るような敵意を帯びた目に、梨蘭も一瞬たじろぎ俺の服を強く掴んだ。



「何でこの人がいるんですか、センパイ」

「この人って……久遠寺のことか?」

「そうです。何で、センパイが、この人と、一緒に、いるんですか????」



 怖い。怖い怖い怖い。漫画的表現で言ったら、ハイライト消えてるから。やめろその顔。



「お、おい乃亜、落ち着けよ」

「ウチは落ち着いてます。ウチは、どうしてこの人がここにいるのかを聞いてるんです」



 ギンッ! 元々猫目っぽい乃亜の目が、一層吊り上がった。



「ウチ知ってます。この人センパイのことを嫌ってる人です。久遠寺梨蘭……中学でも有名でした。そんな人が──」

「乃亜」



 少し、語気を強める。

 それだけで、乃亜は目を見開いてシュンとした。



「落ち着け」

「……はい、ごめんなさいです」



 全く……こいつは何でいつも、俺のことになるとこうなるんだ。



「当時はそうだったかもしれないが、今は違う。一緒に遊ぶくらいには交流もある」

「でも……」

「それに、いくらそうだったとしても先輩に対してその態度はなんだ」

「うぐっ……うぅ……センパイの体育会系……!」



 そりゃあ、ずっとキックボクシングやらジムやら通ってたら、体育会系にもなる。


 乃亜が恨めしそうに梨蘭を睨み付け。

 梨蘭も何を思ったのか、俺の服を離して前に歩み出た。



「初めまして、久遠寺梨蘭よ」

「……初めまして。安楽寺乃亜です」



 え……え? なんでこんなにバチバチしてるの?


 俺、困惑中。

 因みに龍也と寧夏、竜宮院はニヤニヤして傍観中。お前ら何か知ってやがるな?



「ウチ、認めませんから。あんなにセンパイを嫌ってて、手の平くるくるなんて……!」

「認めてくれなくて結構よ」

「「むむむむむむっ……!」」



 ……帰りたい。



   ◆



「ねえ、倉敷君。寧夏ちゃん。もしかしてあの子……」

「「お察しの通り」」

「……面白いことになって来たわね」

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