第45話

「疲れた……」



 さすがに10回連続で歌うのは体力を消耗するな……。


 喉に優しい麦茶を飲みながら、龍也と寧夏のデュエットを聞く。

 相変わらず適当な……でもマッチしていて、聞いてて心地いい。何でもかんでもハイスペックだな。


 前で歌って踊って組体操(なぜ?)している2人を見てると、竜宮院が近付いてきた。



「お疲れ様、真田君。カッコよかったわよ」

「あー……ありがとう?」

「何で疑問形なのよ」

「いや、歌ってカッコイイなんて言われたの、初めてだし」



 龍也と寧夏はご覧の通り。

 琴乃には言われるけど、あれは兄妹独特のノリと言うのがある。

 あとは……あ。あいつ、、、がいたな。後輩の。

 まあ、あいつは琴乃みたいなもんだし。



「そうなの? カッコよかったわよね、梨蘭ちゃん」

「え!? あ、えと……」



 急に振られた梨蘭が、慌てたように目を泳がせ……こくり。小さく頷いた。



「……さんきゅ」

「ん……」

「(にやにやにやにや)」



 おいコラ竜宮院、にやにやすんな。



「と、ところで、2人は歌わないのかよ」

「そうね。そろそろ歌おうと思うわ」

「私も少し楽になったし、歌おうかなー」



 梨蘭と竜宮院が、同じ端末で選曲する。

 梨蘭はどんな歌を歌うんだろう……やっぱりカッコイイ系? いや、カワイイ系もいけそうだな。……予想の外をついてアニソンとかも良さそう。


 龍也と寧夏が歌い終わると、直ぐ竜宮院の番になった。

 曲は和風曲。しっとりとしたバラード調で、竜宮院璃音と言ったらこの曲、という雰囲気の曲だった。


 綺麗で透き通るような歌声。

 見た目の大和撫子然とした雰囲気とも合わさって、聞いてて安らぐな……。



「────。……お粗末さまでした」

「おおー! リオ、すっげぇー!」

「さすが竜宮院だな! よーし、俺も次バラードにしよ!」

「いやいや、リューヤが歌うとロックになるから」

「それもそっか」



 やいのやいのと盛り上がる3人。

 そんな中、次の曲が流れ始めた。

 これは……ラブソングだ。しかも最新の。女性ボーカルで、あまりにも高音過ぎて俺でも歌えない。


 順番的にこれは……。



「あ、梨蘭ちゃん。始まったよ」

「う、うん」



 やっぱり梨蘭か。梨蘭もラブソング歌うんだな。

 マイクを持って前に立ち、何度か深呼吸をすると、歌い出した。



「わぁ……!」

「すっげ……」



 あの悪ノリの化け物みたいな龍也と寧夏も、梨蘭の歌声に聞き入っていた。

 勿論俺も。

 そんな俺に、竜宮院が近付いてきた。



「ふふ。どう、真田君。梨蘭ちゃんとっても上手よね」

「ああ……あ、いや。竜宮院も上手かったぞ」

「あら、ありがとう。でもあの子には負けるわ。真っ直ぐな気持ちがこめられた、あの子の歌声には」



 真っ直ぐな気持ち?



『よそ見してんじゃないわよ!』

「っ!?」



 え、なに!? なんか怒られた!?

 慌てて梨蘭を見ると……あ、何だ。休符の歌詞か。

 た、確かに気持ちがこもってるな。一瞬俺が怒られたのかと思った。



『他のに目移りするアンタが嫌い! でも他の娘に優しくするアンタが好き! 嫌い! 好き! 嫌い! 好き! 大っ嫌い! それでもアンタが私以外を見るなんて許せない! だから──』



 あ……目が、合った。






『アンタは一生ッ、私だけを見てればいいのよ!』






 ──ドクンッ──


 ぅ……ぇ、あれ……?

 な、何だ、これ……。

 鼓動が早まり、高鳴る。こんなこと……初めてだ。

 そう言えば、ファミレスでも似たような言葉を聞いた。

 あの時は爆弾発言だったけど……今は、なぜだか明確に俺の心に響いた。


 休符が終わり、曲は続く。

 だが、さっきの歌詞が頭に残り、集中して聞くことができなかった。



   ◆



「はーっ! 歌った歌ったー!」

「やっぱカラオケは楽しいな!」



 夜も20時を回って、カラオケを出た俺達。

 いい具合に疲労感が出ている。気持ちいい疲労感だ。



「それにしてもビックリしたわねぇ。まさか梨蘭ちゃんが、あんな所でプロポーズするなんて」

「だ、だからあれは歌詞で、私の意思じゃないわよ!」

「ホントか〜? 本気っぽかったよ、リラ〜」



 さっきから梨蘭は、そのことで竜宮院や寧夏から遊ばれていた。

 いや、あれは正直俺もドキドキしたぞ。

 2人に遊ばれていた梨蘭は、「それより!」と話題を変えた。



「も、もう帰りましょう。明日も学校なのよ」

「それもそうだなぁ。じゃ、今日はここで──」






「あーー! センパイじゃないですかーーーー!」






 龍也の声を遮った大声。

 聞き馴染みのあるこの声は……まさか!



「の、乃亜のあ!?」



 声のした方を振り返る。


 そこにいたのは、琴乃と同じ中学の制服を着た女の子。


 栗色に染められたポニーテール。

 年相応の発育をした体。

 如何にもギャルですと言った雰囲気の化粧。

 だが化粧をしていても、その素材は一級品。

 元気活発で中学の頃から何故か俺に絡んできた、俺の後輩。




 安楽寺乃亜あんらくじのあが、そこにいた。

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