第44話

「ふわー。満足じゃ、満足じゃ」

「食ったなー」



 寧夏と龍也が満足気に腹をさする。

 そりゃあ、お前らは無謀パフェを平らげたらな……寧夏はそれにプラスして、梨蘭の食べ残しも食べたわけだし。


 こいつらを使って動画投稿サイトで大食いさせたら、それなりに再生回数も伸びるんじゃないだろうか。

 顔面偏差値も高いから、バズりそう。


 因みに俺も梨蘭も、もうしばらく何も食わなくていいくらい腹いっぱいだ。

 名前に違わぬ無謀っぷり。感服した。

 この中でいつも通りなのは竜宮院だけ。

 前を歩いていたが、いつもの大和撫子然とした笑顔で振り返った。



「それじゃあ、この後どうしましょうか。遊ぶにしても、体を動かす系はみんなきつそうだし……」

「はいはいはーい! バッティングセンター行こうぜぃ! 腹いっぱいになったら運動しなきゃ!」



 マジでどうなってんだ、寧夏の体は……。



「寧夏ちゃん。さすがにみんなグロッキーだから、それはまた今度ね」

「ぶぅ~。みんな貧弱だなぁ」



 お前がおかしいだけだからな?

 だけど、そうだな……みんなが休めて、適度に遊べる場所……と言ったら。



「なあ、カラオケなんてどうだ? 久遠寺も辛そうだから」

「べ、別に辛くないわよ! バッティングセンターでもなんでもやってやろうじゃない!」

「お前、今すぐ動いてゲロをまき散らすのと、カラオケでゆっくりするの、どっちがいい?」

「やっぱり食べた直後の運動はよくないわね!」



 手の平くるっくるじゃねーか。

 まあ、正直俺も休みたかったし、今から運動はマジでぶっ倒れる未来しか見えない。

 と言うか、こんな美人達に無様な姿は見せたくない。特に梨蘭には。


 俺の案に、3人も元気よく頷いた。



「いいわね、カラオケ。私も行きたいわ」

「ナイスアイデア、アッキー!」

「そうだな! 最近行ってなかったし、ここでパーっと歌おうぜ!」



 ほ……よかった、拒否されなくて。

 ここからならカラオケも近いし、大して歩かなくて済む。

 梨蘭もそれなら辛くはないだろう。


 ……あれ。俺、今日梨蘭のこと中心に考えてない?

 ……いや、深く考えないようにしよう。


 いくら梨蘭のことを好きだと自覚してるとは言え、こいつが俺に対して敵対心を持ってたら元も子もないしな。

 今日のリアクションを見るに、まだ俺に敵対心を持ってるのは明らかだ。

 蹴って来たし、突っかかって来たし。

 ゆっくり、焦らずだ。


 龍也と寧夏が先頭を歩き、その後ろを梨蘭と竜宮院。最後に俺が歩く。

 こうしてこのメンツで歩くと、やっぱり目立つな。

 全員芸能人級の美形だし、梨蘭に至ってはハーフということもありかなり目立つ。


 そのせいで、俺のフツメンっぷりも際立って別の意味で目立つ。……自分で言ってて悲しくなった。


 そのまま歩くこと数分。俺達三人がいつも使っているカラオケ屋にやって来た。

 大手カラオケチェーン店ではないが、値段も安くて最新の機器や楽曲も揃えている。

 そして何より飯が美味い。今日は食べないけど。


 フリータイムで人数分の料金を支払い、空いている部屋へ案内された。



「へえ……駅前にこんなカラオケ屋があったのね。知らなかったわ」



 カラオケ自体は初めてじゃないらしい梨蘭が、物珍しそうに見渡す。

 まあ、外見からしてカラオケ屋っぽくないからな。どっちかって言えば、バーみたいな店構えで、高校生には入りづらいだろう。

 L字型のソファーで、俺と龍也が奥の二人掛け。他三人が手前のソファーに座った。



「よーし! 歌って歌って歌いまくるぜぃ!」



 一番手、寧夏。

 パネルを操作して、今SNSでバズっている曲を入れる。



「あ、これ私知ってる」

「私も……寧夏ちゃん、歌えるのね」

「ほとんど聞いたことないけどね~。ま、アドリブでなんとかなるっしょ」



 伴奏が始まり、寧夏がノリノリで合いの手から曲に入る。

 原曲のキーをなぞっているが、ノリと勢いに任せたアドリブを混ぜてで歌っていく。

 それでも。



「え、寧夏うま!?」

「すごい。原曲とだいぶ違うのに、こういう曲だって言われても信じられるくらい上手ね」



 そう、寧夏は歌は上手いんだが、アドリブを入れすぎてほとんど原曲とは違う曲になることが多い。

 それでも上手いと思わせるんだから、寧夏の実力は相当のものだ。


 曲が終わり、寧夏は謎の決めポーズを取った。



「へいへいへーい! ネイ、サイコー!」

「さすがだな、寧夏」

「寧夏、すっごいわね!」

「こんなに上手だとは思わなかったわ」

「いやー、どーもどーも!」



 俺達の褒め言葉に、寧夏も満更ではない様子。

 次に曲を入れたのは龍也だ。


 曲は、最近社会現象を巻き起こしたアニメの主題歌だ。

 元は女性ボーカルだが、龍也はそれを難なく歌ってのける。寧夏ほどではないが、龍也のテンションと相まってこっちまで楽しくなる歌い方だ。



「そいや! そいや! そいやそいやそいや!」

「サンキューーーーーー!!」



 寧夏の適当な合いの手にも、龍也は応える。

 こいつら、こんなに相性がいいのに『運命の赤い糸』で結ばれてないって、ちょっと信じられないな。


 無事、龍也が最後まで歌い切る。

 うん、さすがの上手さだ。



「ほい、次暁斗だろ」

「あー……久遠寺、竜宮院。いいか?」

「ええ」

「アンタに任せるわ」



 そうだな……それなら。



「……ラブソング?」

「へえ……真田君っぽくないわね」

「アッキーって、意外とラブソング好きなんだよ!」

「似合わねーよな」

「おいコラお前ら、好き勝手言ってんじゃねーよ」



 俺が何を歌おうと勝手でしょうが。


 特筆すべき点がないくらい、可もなく不可もなく歌い切る。

 が……梨蘭と竜宮院が呆けた顔で俺を見てきた。



「すごい……真田って、こんなに甘い声出せるんだ……」

「な、何だかとてもエッチに聞こえたわ……」

「何だそりゃ」



 俺は普通に歌ってるだけだぞ。



「いや、暁斗の歌声はエロい」

「うん、エロい」

「え」



 そんなこと言われたことないんだけど。

 なんだ、エロい歌声って。



「真田君、ちょっとリクエストしていいかしら」

「あ、私も」

「おおっ。なんか楽しそう! アッキー、私も!」

「なら俺も」

「ちょ、待て! そんな一気に入れんな!」



 だがしかし、俺の抵抗虚しく。

 結局、10曲続けて歌うことになり、かなりの体力を消耗したのだった。

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