第38話

 ちゃちゃっと済ませると言っても、あっちのチームは運動部で固まっている。

 しかもそのうちの2人は現役バスケ部だ。


 対してこっちは俺と龍也。それに龍也のオタ友3人。

 戦力差は誰が見ても明らか。

 それにこっちの3人。



「く、倉敷君、どうしよう……」

「僕らじゃ足出まといに……」

「…………」



 試合前から心折れてるし。

 だけどそんなことも織り込み済みの龍也。悪人さながら、にやりと口角を上げた。



「まあまあ、安心したまえ皆の衆。ここは俺と暁斗に作戦がある」

「おい、またあれやんのか」



 中学の時もそうだが、いい加減あれはやめてほしいんだが。



「じゃあ“負ける”か?」

「冗談」

「それでこそ暁斗だ。よし、これよりみんなに作戦を伝える!」

「「「作戦……!」」」



 さすが龍也のオタ友。作戦という響きで一気にやる気に。

 龍也が簡潔に、わかりやすく説明をすると、オタ友達の顔が変わった。



「な、なるほど」

「確かにそれなら僕達も……」

「う、うん。わかったよ、倉敷君!」

「ああ。それと1つ、みんなに言っておくことがある。これこそ、この作戦の最大の肝だ」



 円陣を組み、こそこそと作戦を伝えると、俺達はコートに散らばった。

 ジャンプボールは勿論、龍也が行うことに。

 流石に学年一デカいだけあり、相手のバスケ部すら見下ろしている。


 男子体育の担当の先生が真ん中に立ち、ジャンプボール。

 当然ながら龍也がボールを弾いて、ボールはこっち側でスタート。


 同時に俺がダッシュ。


 オタ友A君がボールを持ち、直ぐに龍也にパス。

 誰にも触られないように高めに投げたボールは、龍也以外触ることができず。



「龍也!」

「暁斗!」



 更に龍也がゴールへ向かいシュート──ではなく、パス。

 俺はタイミングを見極めて、半ば強引にジャンプ。

 空中でボールをキャッチし、強引にダンクを決めた。


 シーーーーン……。


 体育館に静寂が訪れる。

 揺れるゴールと、ボールが床に落ちる音と共に。


 ワッ──! 体育館が割れんばかりに湧いた。



「ダンクだ……!」

「ダンク初めて見た!」

「真田君かっこいー!」

「すげえ! 真田すげえな!」

「あーあ。あいつらやってんな」

「中学から変わんないな、あの脳筋コンビ」



 そう、これは俺の筋肉+強引ジャンプ力と、龍也の身長を活かした作戦。


 名付けて、【力こそパワー】大作戦だ。



「何だよあれ、聞いてないぞ……!」

「お、落ち着け。いくらダンクができるとは言え、あいつらは素人だっ」

「とりあえず、バスケ部を中心に集めるぞ。そんで2人を徹底マーク」



 なんて声が相手チームから聞こえてくる。


 相手がボールをスローイン。

 バスケ部が持ち、人間とは思えない動きで2人、3人と抜かされレイアップシュートを決められた。


 うーん、流石バスケ部。動きが早い。


 オタ友の1人がボールを持つ。

 すると、俺に2人、龍也に2人。そしてもう1人はスローインする1人に付いた。

 つまり、2人ががら空き状態。


 龍也がボールを持ち、誰にも触られないように高く掲げると。



「ほれっ」



 ゴール前で陣取っていたオタ友の1人にパス。

 ゴール前には誰もいない。

 完全なフリー状態だ。



「え、えいっ!」



 不格好だが、ゴールへ向けてシュート。

 微妙にリングに当たって弾かれたが、運良くゴールへと吸い込まれた。



「や、やった……やった、入った! 人生初ゴール!」

「す、すごいすごい!」

「本当、上手くいったね!」



 オタ友3人が、我がことのように喜んだ。

 そう、これこそがこの作戦の肝。

 俺と龍也が派手なプレーで注目と人を集め、手薄になった他の3人がなんとかゴールを決める。


 相手にバスケ部が2人いるからと言って、残りは運動部でも素人。

 コートの全面をカバーすることは不可能だ。


 これぞもう1つの作戦。

 試合に勝とうが負けようが関係ない。


【みんなで楽しんだもん勝ち】大作戦だ。



「へいへいへーい! ナーイスシュー!」

「あっ、倉敷君! へへ、ありがとう!」



 龍也とオタ友がハイタッチ。

 俺も無言でみんなとハイタッチする。

 さっきまで暗い雰囲気だったが、今ではみんな楽しそうだ。


 そうそう。やっぱ運動は、楽しんでやらなきゃな。



「さあ者共、楽しんでくぜー! へいへいへーい!」



   ◆



 結果を言うと、点差を10点付けられて負けた。

 俺と龍也のテンションに引っ張られてか、オタ友3人もめちゃめちゃ頑張ってくれたけど、やっぱり運動部の体力には勝てず。


 それでも、みんなが楽しそうに試合を終えた。



「僕、ゴール決めたの初めてだったよ!」

「僕も2回決めた!」

「体育がこんなに楽しいと思えたの、真田君と倉敷君のおかげだよ、ありがとう!」

「そいつは何よりだ! やっぱり高校生活は楽しんでかなきゃな!」



 オタ友に囲まれる龍也。

 対して俺は。



「真田、バスケ部入れ!」

「いや入ってくれ!」

「お前が入ってくれたら絶対強くなる! だから頼む!」



 バスケ部に囲まれていた。

 やめろ、むさい、暑苦しい。



「部活に入るつもりはないんだ」

「そんなこと言わずに!」

「悪いな」

「「「「そんなぁ……!」」」」



 つか暑い。顔洗いたい。



「お? 暁斗、どこ行くんだ?」

「顔洗いに行ってくる。先生に言っといてくれ」

「りょー」



 龍也に見送られ、ひっそりと体育館横に設置されている水道へ向かった。

 久々に体育でこんな動いたな……頭から水被っちまうか。


 頭を下げ、水を被る。

 あー気持ちいい……あっ、タオル忘れた。

 ……どーしよ。


 ま、しばらくしたら龍也が来るだろ。

 水で濡れた髪をかき揚げ、しとしとと雨の降る空を見上げる。


 クソ雨め。さっさと止みやがれ。

 そんな自分でもわかるほど理不尽に季節を恨んでいると。



「なーに変な顔してんのよ」

「え……久遠寺?」



 いつの間にか横にいた久遠寺に声をかけられた。

 ……え、何でここに?

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