第37話

 時は過ぎ、体育の時間になった。


 体育の時間は合同で行われる。

 1組と2組の合同で、見慣れない奴らと一緒に体育館に集まっていた。


 それと、男女一緒と言っても体育館の中央をネットで区切っている。

 なので厳密には一緒ではない。

 だが男子は、ここぞとばかりにいい所を見せようと躍起になっていた。

 運命の人がいることと、女子にいい所を見せたいという男心は別らしい。


 正直、俺にはわからん心理だ。


 壁に背をつけ、2つのチームが半面コートで試合をしているのを見る。



「うおおお! レイアップシューーート!」

「レイアップでそんなイキんなや」

「クソだせぇ」

「うっせぇわ!」



 陽キャ集団、うるせぇ。



「へいへいへいっ。暁斗、しみったれたツラしてんなよ」

「こんな蒸し暑いのに体育館にこんな集まったら、そりゃこんな顔にもなるわ」

「それよりほら、あれ」



 あれ?

 龍也の指さした先を見る。

 と、丁度試合が始まるのか久遠寺と寧夏、竜宮院が同じ色のゼッケンを着ていた。

 土御門も、敵チームでゼッケンを付けている。


 寧夏はいつも通り気だるげ。

 久遠寺は……顔面真っ青だ。え、何あの顔色。大丈夫か?

 竜宮院は、そんな久遠寺を必死に慰めてる。



「久遠寺ってバスケうまいのかな?」

「知らね」

「お前の嫁ちゃんだろ。嫁ちゃんのことくらい把握しとけ」

「嫁じゃねーっての」



 そういや、中学から一緒でも久遠寺が運動が得意って噂は聞いたことがない。

 どんなもんなんだろうか。


 男子の試合を見ていた奴らも、みんな女子の試合に目を向けた。

 久遠寺も竜宮院も土御門も、クラスでトップレベルの美少女だ。

 寧夏だって、色々と成長はしてないが、かなりの美少女。

 みんなの注目を集めるのは十分だ。


 ぼけーっと突っ立ってる寧夏。そんな寧夏に、土御門が声を掛けた。



「くふふふ。ネイたん、遂にしょーぶをつける日が来たね!」

「だるい、ぱす」

「そんなこと言わないでよー!」



 勝負?



「龍也。あの2人って仲悪かったか?」

「お前なんも知らないんだな……土御門、ネイ並に運動神経いいんだぞ」

「マジかよ」



 ネイの運動神経のよさは、同じ中学の奴なら誰もが知っている。

 それとタメ張れるって、見た目のギャルギャルしさからは想像もできないな。



「はぁ……そんなに私と張り合っても、得られるものなんて疲労しかないよ?」

「いいえ、他にもあります」

「なに?」

「サナたんにスーパーいいとこ見せられる! いえーい、サナたーん!」



 いっ!?

 土御門が俺の名前を呼び手を振る。

 それだけで俺も注目の的だ。

 え、俺あいつのことフッたよね? なんでそんなテンション高いの?



「ふーん……」



 と、今度は寧夏が龍也に目を向けた。

 龍也もいい笑顔でサムズアップ。

 軽く肩を竦め、こくりと頷いた。



「いいよ。私もちょっとだけいいとこ見せたいしねぃ」

「おーっ! ネイたん好きー!」

「抱っこしないで……」



 へぇ……ホント珍しいな。あの寧夏がやる気を見せるなんて。


 ただ、それよりも……。



「あわっ、あわわわ……! み、みんな、たのしく、なかよく……!」



 あの久遠寺がめっちゃ涙目だ。

 2人より久遠寺の方が心配だわ。


 あの中では身長の高い土御門と竜宮院が真ん中に立ち、先生がボールを持つ。



「ふっふっふ。リオたん、取らせてもらうよ」

「悪いけど、私負けず嫌いなの」



 おぉ……あの2人もバチバチだ。


 見合って見合って。

 先生が、ジャンプボールと共にホイッスルを鳴らした。



「せいっ!」

「っ!」



 同時に2人がジャンプ。

 僅かに身長の高い竜宮院がボールに触れ、久遠寺の方に向かっていった。



「あっ、梨蘭ちゃん……!」

「あわっ、わっ、わっ、わっ!?」



 久遠寺の元へボールがやってくる。

 それをキャッチし、あとはパスやドリブルをするだけだ。



「えっ、えいっ!」



 久遠寺は目をギュッと閉じ、ボールをキャッチしようと手を伸ばし。






 スカッ──。






 思いっきりスカッた。

 ……え、スカッた?

 キャッチされなかったボールは、無情にも久遠寺を通り過ぎて背後へと転がる。


 …………え?


 静まり返る体育館。

 男子の方で試合をしていた奴らも、今の出来事を信じられないような目で見ていた。


 そりゃそうだよな。

 まさか飛んできたボールをキャッチできないなんて、誰も思わないだろう。


 久遠寺は自分の手の中にボールがないことに気付いたのか、目を開けて首を傾げた。



「……? あれ? ぼ、ボールが消えたんだけど!?」



 いや消えとらんが!?



「梨蘭ちゃん、後ろ!」

「え? あっ、あった! あったわ!」



 と、振り返ってボールを取ろうとし。


 コケッ、ごすっ!


 自分の足に足を引っ掛けて盛大にコケた。

 器用に不器用か、あいつは。



「うぅ、いひゃい……」

「た、タイムタイム! 梨蘭ちゃん、大丈夫!?」

「だいじょばない……」



 額を抑えてよたよたと壁際に移動した。

 ホント、大丈夫かあいつ?


 だけど、久遠寺のおかげなのか女子バスケの方は何故かほんわかした雰囲気に。

 多分、普段からああなんだろうなぁ。



「リラたん、いつもながら素晴らしい運動神経だね。悪い意味で」

「あれでこそリラ」

「勝負はまた別の機会ってことで」

「気が向いたらね〜」



 さっきまで真剣勝負の雰囲気だった土御門と寧夏も、今ではすっかり毒抜けた様子。

 そうそう、平和が1番だ。



「嫁ちゃん、運動苦手なんだな」

「みたいだな。てか嫁じゃねーって」



 いい加減しつこいぞお前。



「悪い悪い。お、次は俺達の試合だ。行こうぜ」

「……おう」



 さて、俺らの番か。

 こっちはこっちで、ちゃちゃっと済ませよ。

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