第33話
◆梨蘭◆
はぁ……やっちゃったわ……。
いくら真田がモテる(?)からと言って、不安すぎて万全じゃないのに登校し。
その結果色んな人に迷惑を掛けちゃった……。
しかも、また真田にまで迷惑を……うぅ。
「久遠寺さん、大丈夫ですか?」
「ぁ、はい。大丈夫です……すみません、先生にも迷惑を掛けてしまって」
「気にしないで下さい。自分の休んでる間に、運命の人が気になるのは当然でしょうから」
…………。
「へ?」
「真田君ですよね、久遠寺さんの運命の人」
何故それを!?
「これでも私、今まで数百人の子供達を見て来たんですよ。生徒達の反応や行動、仕草、言動で察しはつきます」
「そ、そうですか……因みにですけど、その……私と真田のどっちの行動で察しました?」
「久遠寺さんですね。とてもわかりやすかったですよ」
ですよね。私も、何となくそうかなとは思いました。
そうかぁ……そうかぁ……私、そんなにわかりやすいのかぁ。
改めて、私って真田のこと好きなんだな。
「……じゃあ、クラスメイトにもバレて……?」
「安心してください。クラスの人にはほとんどバレてないので」
「そ、そうですか?」
「竜宮院さんは知ってるようですが。あとは倉敷君と十文寺さんは怪しんでますね」
璃音は仕方ない。あの時、私の不注意でバレちゃったし。
……あれ? 基本私のせいでバレてない? ぐぬぬ。
と、急にスマホが鳴動した。
……え、真田?
暁斗:大丈夫か?
「!」
えぇ〜、何よもう急に〜。
って、ニヤニヤしてる場合じゃないわ、私。
まずは謝らなきゃ。
梨蘭:大丈夫。迷惑かけてごめん
暁斗:気にすんな
そっけない! けど優しい!
突き放される覚悟だったのに、どんだけ優しいのよアイツ。
普段からこんな風にところ構わず優しくするから、他の子が真田を好きになるんじゃない。全く。
梨蘭:今度お礼するから
暁斗:いらねーよ。今は治すことだけ考えろ
梨蘭:ごめん
あーーー好き。
こんなに好きなのに、真田の前じゃ素直になれないこの性格が憎いわ。
「久遠寺さん。真田君ですか?」
「あっ」
ま、まずいっ。今は授業中……!
「隠さなくても大丈夫です。あなたの百面相でわかっていましたから」
私、ポーカーフェイス習おうかしら。どこで学べるの、あれ?
「全く……真田君も久遠寺さんのことが心配なのはわかりますが、節度を持ってほしいものです」
「す、すみません。私が返信しちゃったから……」
「気にしなくてもいいですよ。全身から幸せオーラが溢れてましたから……今回は見逃しましょう」
三千院先生マジ女神。ありがとうございます。
……って、その優しさに甘えてるわけにはいかないわ。
梨蘭:というか、今授業中よ?
梨蘭:ちゃんと授業は受けなさい
……ちょっとお母さんっぽかったかしら?
……あ、返事きた。
暁斗:今自習中
自習中だからスマホをいじっていいわけないじゃない。
……それくらい、私のことを心配してくれたのかしら。どうしよう嬉しい。ニヤニヤ。
ってちがーーーーーう! ちゃんと注意しなきゃ、私!
梨蘭:三千院先生、隣にいるんだけどなぁ
暁斗:おのれ、チクる気か
ごめん、もうバレてる。
……ちょっと意地悪してやろ。
梨蘭:チクられたくなかったら真面目に勉強しなさい
暁斗:わかったよ
暁斗:(犬しょんぼりスタンプ)
は? 何そのしょんぼりスタンプ。あざとさアピールですか?
本当、唐突なあざとさアピールやめてほしい。私の心臓がもたない。
しょんぼりしているわんこが、まるで真田みたいで……思わず次のスタンプを送ってしまった。
梨蘭:(犬を撫でるスタンプ)
はぁ……私は今、幸せを実感してるわ。
「久遠寺さん。砂糖を煮詰めたような甘々オーラを醸し出してるところすみませんが、家に着きましたよ」
「え? ……あっ。す、すみません」
「いえ。それでは、次はちゃんと風邪を治してから学校に来てくださいね。お大事に」
「ありがとうございます」
車を降りると、先生は小さくお辞儀をして去っていった。
……カッコイイ大人の女性だなぁ。憧れる。
先生の車が見えなくなるまで見送り、私も家の中に入った。
「ただいま」
と言っても、カルお姉ちゃんも大学だから家にはいないけど……。
と思っていると、奥からひょっこりと誰かが顔を出した。
「おー。おかえり」
「……あれ。え、ママ?」
な、何でママが……?
長いブロンドヘアーを緩い三つ編みにし、肩から前に流した見慣れた髪型。
私やお姉ちゃんと同じ緋色の瞳。
だけどハーフではなく、歴としたイギリス人。
ママがお玉を手に、ニカッと快活に笑った。
「大切な娘が風邪で倒れたって連絡を受けてね。仕事なんてしてる場合じゃないってんで早退してきた。今お粥作ってるから、待っててね」
「う、うん」
うぅ。ママにまで迷惑を……今日の私、ダメダメじゃん。
「気にすんじゃないわよ」
「……ぇ……?」
「人間なんだもの。迷惑をかけることも、失敗することもあるわ。問題は、同じ失敗をしないこと。今回のことは、犬にでも噛まれたと思って忘れなさい」
……やっぱり、ママには敵わないなぁ。
超能力者かってくらいこっちのこと何でもお見通しなんだから。
「さあ、手洗いうがいして、着替えて来ちゃいなさい」
「……うん。ありがとう」
私もいつか、ママみたいなお母さんになるのかな。
子供は3人で、相手は勿論……って! なっ、何考えてんのよ私、はしたない……!
ニヤニヤしているママの視線から逃げるように、私は洗面所の中に入っていった。
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