第31話

 全く、あいつらの野次馬根性はどうにかならないもんかね……。


 まだ顔が赤く、足取りもおぼつかない久遠寺の傍に寄り添い、保健室へ向かう。

 これ、どっちの顔の赤さなんだ? やっぱりまだ風邪が治ってないんじゃ……?



「久遠寺、大丈夫か?」

「……えっ? 何が?」

「まだ顔赤いぞ。辛かったら、家の人に連絡して迎えに来てもらった方がいいんじゃないか?」

「だ、大丈夫。大丈夫だから。これは璃音のせいで……」



 さっきのことを思い出したのか、俺から僅かに距離を置いて俯いた。

 こんなに顔を赤くされると、俺も気まずいんだけど。

 一体、竜宮院から何を聞かされたんだか。


 付かず離れず寄り添い、階段を降りていき保健室へ着いた。



「失礼します。先生……はいないのか」



 保健委員もいない。仕方ないな……。



「久遠寺、ベッドに寝てろ」

「……ん……」



 うわっ、さっきより顔が赤いぞ。

 とりあえず、さっさとひんやりシートを貼らないと。


 久遠寺をベッドに寝かせると、肩まで布団を被せて体温計を枕元に置いた。



「じゃ、カーテン閉めてるから熱測れよ。終わったら呼んでくれ」

「わかったゎ……」



 熱のせいか言葉に覇気がない。

 見舞いに行った時もこんな感じだったし、やっぱり風邪がぶり返してるんじゃ……?


 ひんやりシートと、ガラス棚に入っていた市販の解熱薬を取り出す。

 が。






【座薬】






 何てものを置いてやがる!?



「さなだぁ……」

「んぇっ!? お、おうっ」



 とりあえず座薬は机に置いて。


 カーテンを開けて中に入る。

 体温計を受け取ると、『37.4度』となっていた。

 見た目の割に熱は高くないな。ギリギリ微熱程度だ。



「これくらいなら、少し休んで様子見だな。ほれ、ひんやりシート」

「にゃっ。ちべたい……」

「我慢しなさい」

「むぅ」



 不満げな眼差しで俺を睨む。

 けど、ひんやりシートを触るとほんの少しだけ嬉しそうに口元が綻んだ。



「……さなだ」

「何だ?」

「……よんだだけ」



 何だそりゃ。

 くすくすと笑いながら布団を口元まで上げ、熱の篭った視線で俺を見つめる。

 何となくだけど、さっきより顔が赤らんで来てるな。

 やっぱり熱が上がってるみたいだ。



「ま、待ってろ。今解熱薬を探して来るからな」

「…………」

「……久遠寺?」

「……すぅ……すぴぃー……」



 ね……寝てやがる。

 やっぱ辛かったんじゃん。

 全く、こいつは……どんだけ俺の前で弱ってる姿を見せたくないんだよ。



「少しは信用しやがれ。ばーか」



 まだ時間もあるし、もう少しここで……。



「何をしているんですか?」

「ッ!?」



 突然の声。

 慌てて振り返ると、三千院先生が俺と久遠寺を交互に見て。



「……保健室での不純異性交友は感心しませんね」



 とんでもねぇ爆弾を投げつけて来た。



「ち、違いますっ。久遠寺がまだ熱があるみたいだったので、その付き添いです」

「あら、そうだったのですか。てっきり誰もいないのをいいことにお楽しんだのかと」

「それ、教師が言っちゃダメですよ」

「では私達の間の秘密ということで」



 唇に人差し指を当ててウィンクして来た。

 思わず頬が熱くなる。この人も美人だからなぁ。



「……先生は何でここに? 怪我ですか?」

「いえ。私は竜宮院さんから、久遠寺さんが保健室に行ったと聞いたので様子を見に来ました」

「え、じゃあさっきのやり取りの意味は?」

「ちょっとしたお茶目です」



 おのれ確信犯か。



「久遠寺さん、熱はどうですか?」

「37.4度です。多分病院には行ってると思うので、解熱薬は飲ませてません」

「わかりました。1時間様子を見て、ダメそうでしたら私が家まで送ります。今はゆっくり眠らせてあげましょう」

「ですね」



 カーテンを閉め、三千院先生は置き手紙をしようとペンを取り出し……止まった。



「先生、どうしました?」

「……真田君。流石に年頃の女性にこれを強要するのはどうかと」



 と、ドン引きした顔で机の上を指さした。

 そこにあったのは……座薬だ。



「ち、違います! それはたまたま! 偶然見つけただけで、俺は何にもやってませんから!」

「冗談です。これ未開封ですから」

「……いい性格してますね」

「そうでしょ?」



 褒めてませんから。



「……それじゃ、あとお願いします」

「ええ。もうホームルームのチャイムも鳴りますから、もう戻りなさい」



 先生に挨拶し、保健室を出る。

 ……何か、何にもしてないのに異様に疲れたな……。

 俺が帰りたいわ、本当。


 色々思うことはあるが……それらを吐き出すように小さくため息をつき、教室へと戻って行った。

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