第23話

   ◆ひより◆



「あっ、しもしもー? どこいるー? ……おけー、向かうよん!」



 るんたったーるんたったー。

 階段を、いっち、にぃ、さーん! 我らが教室にとーちゃく!



「しっつれーしまーす! おっ、いたねぇ──リラたん」



 教室の隅っこで丸くなってるリラたん。何この子、リスかな?



「リーラーたん♪ どうどう? 聞こえてた? いやー、スピーカー機能って便利だねぇ。ひより達の声をあなたの元にお届けって感じ♪」

「…………」

「……リラたん?」

「…………」



 あら、本当に動かない。

 心配になり、うずくまってるリラたんの前に座り込む。

 と、もぞもぞと少し動いた。起きてはいるみたい。



「どう? サナたんの本心、びっくりした?」

「…………(こくり)」



 うずくまったまま頷くリラたん。

 ……ずっと黙ったきりだな、この子。



「リラたーん? どーしたー?」



 三角座りでうずくまってるリラたんの頭を左右から掴み、無理やりこっちに向けさせると。



「ぁ……」

「────」



 リンゴのように真っ赤になった顔。

 頭から立ち上る湯気。

 眉が下がり、涙で潤んだ瞳。

 口元はあわあわとだらしなく歪んでいる。


 普段キリッと、むすーっとした感じのリラたん。

 だけど今のリラたんは……誰が見ても恋に落ちるほど可愛らしくて愛らしい。

 恋に恋する女の顔をしていた。



「……どうしてくれんのよ……」

「え?」

「もうアイツの顔、まともに見れないじゃない……」



 可愛すぎかこの子。

 そんなリラたんの横に座り、同じく三角座りで天井を見上げる。



「にしても、作戦大成功すぎてビックリしたねぇ」

「作戦を持ち掛けてきたのはひよりからじゃない」

「なはは〜」



 ひよりが、サナたんのことを好きなのは本当だ。

 できることなら結婚したいと考えてた。それくらい、大好き。

 赤い糸が見えても、その想いが消えることはなかった。


 そんな超超超大好きな人をずっと目で追ってて、気づいちゃったんだよね。




 サナたんとリラたんは、赤い糸で結ばれてる。




 2人の今までのやり取りや視線が、前とは比べ物にならないほど繋がっていた。

 サナたん大好きラブラブちゅっちゅなひよりが言うんだから、間違いない。

 そりゃショックだった。何でひよりじゃないんだーって神様を恨んだ。


 でもそれ以上に、2人の反応やリアクションが焦れったくてイラついた。


 ひよりが喉から手が出るほど欲した真田暁斗の隣にいる権利を手に入れて置いて、何も行動しないとは何事だ、許せん!


 だからひよりが行動した。

 焦れったい2人なら、ひよりが背中を押そうと。


 サナたんが幸せになれるなら、隣にいるのはひよりじゃなくてもいい。なんて大人なことは言えない。

 まだ『ひよりだったら……』って気持ちは消えない。


 でもこれが現実で。

 ひよりは2人を応援することを決めたんだ。



「リラたんはサナたんのことが好き。間違いないよね?」

「…………(こくり)」

「それじゃ、ひよりがサナたんを好きなことを知ってるよね?」

「…………(こくり)」



 んーっ。リアクションがいちいち小動物! かわゆいなぁ。ぬへへへへ……おっと、危ない危ない。話がズレるところだったよ。



「そんなひよりの想いも全部、リラたんに託すよ。リラたんが、サナたんを幸せにしてあげて」

「……ん。ごめ……むぐっ」

「おーっと、謝るのはなし寄りのなし! それじゃあ、ひよりが本当に悲劇のヒロインみたいじゃないか。ふふふ……リラたん、これを見るのだ!」



 左手ばばーん!

 ……まあ、自分にしか見えないんだけどね、この糸。

 そんなことはどうでもいい!



「リラたんはサナたんが運命の人のように、ひよりにも運命の人がいる。この世界にいる人は、必ず運命の人と繋がってるの。悲劇のヒロインなんていない。みんな幸せで、みんな主人公なんだよ」

「ひより……」



 たっはー! 今ひより、いいこと言ったなー!

 ……え、言ったよね? うん、言ったということにしておこう!



「だから謝らないで。ひよりは大丈夫。絶対、幸せになるから」

「……私も、幸せになる。ひよりに負けないくらい」

「そうでなきゃ、今度こそひよりがサナたんを奪っちゃうからね♪」

「言ってなさい」

「にしし。さーて、そうとなったらひよりは帰るよん。リラたんレベルの美少女に勝つには、ひよりも精一杯美少女にならなきゃねん」



 立ち上がり、スキップスキップらんらんらーん。



「ひより!」

「およ?」

「……ありがとう」

「────」



 ……ああ……ホントずるいなぁ、この子は……。



「……ふふ、なんのことー? ひよりんわかんなーい☆」



 おちゃらけ、ひよりは教室を後にする。

 ダメだ。こんな顔見せられない。ここから逃げなきゃ、一刻でも早く。


 ひよりは、2人を応援するって決めたの。

 2人より幸せになってやるって決めたの。

 だから……だから……。






 止まって──私の涙。

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