第22話
◆
何なんだ、これは……。
久遠寺に話し掛けようとすると逃げられ。
先回りしようとしても逃げられ。
挙句の果てに俺は眼中にありませんよ、というような雰囲気。
まるで『運命の赤い糸症候群』が発症する前に戻ったみたいだ。
……いや、事態はそれより深刻か。
あの時は別に話さなくても困らなかったし、なんとも思わなかった。
けど今は……。
「めっちゃしんどい」
久遠寺と話ができない。それがこんなにもしんどいだなんて。
土曜日のこともあり、少しは近付けたと思ったんだが……。
授業も終わりあとは帰るだけなのに、重い腰は中々上がらない。
……あ、その前に土御門との約束もあるんだっけ。
久遠寺も帰っちまったし……やだなぁ。
椅子に浅く腰を掛けてると、後ろの席の龍也が声を掛けてきた。
「なあ暁斗、今日遊んでこーぜ」
「あー……悪い。今日はちょっと無理そうだ」
「ん? 今日ジムも休みの日だろ?」
「ちょっとな」
土御門のことがないにしろ、ちょっと今日は遊ぶ気になれない。
だが龍也はわかってないみたいで。
そんな龍也を見た寧夏が、やれやれって感じで龍也の背中をバシバシと叩いた。
「全くぅ。リューヤは全然わかってねぇなぁ」
「何がよ」
「今日のアッキー、嫁ちゃんに避けられてたっしょ? 落ち込んでんだよぅ」
「だからこそだろ。遊んで今日のことは忘れようぜ。きっと久遠寺も、今日は女の子日で不機嫌だったんだよ」
「リューヤさいてー!」
「へぶっ!」
寧夏のジャンピングビンタに龍也はぶっ倒れた。
相変わらず、寧夏の身体能力はどうなっとんだ。
寧夏は俺の膝に飛び乗ると、慰めるように俺の体に寄りかかって来た。
「大丈夫だぜアッキー。直ぐに仲直りできるって。私が保証しよう!」
「……お前は昔から変わらないな」
「にししっ。人間そうそう変わらんぜ?」
変わらない……変わらない、か。
俺と久遠寺の関係も、変わってるようで変わってない……のかもな。
…………。
……いや、そんなことはない。
俺達はしっかり前を向いている。変わっている。
土御門はああ言ったが。
やっぱり俺は……。
「……っし。サンキューな、寧夏」
「こんどデンジャラスパフェなー」
「ちんちくりんな体のどこにあんな化け物パフェが入るのやら……ま、わかったよ」
寧夏の脇に手を入れ、子供を抱っこするように持ち上げた。
相変わらず軽すぎるなこいつ。
「おっぱい触ってるぅ。へーんたぁーい」
「言ってろお子様」
「ぶちのめすぞ」
◆
2人と別れ、土御門の待つ校舎裏へと向かう。
この学校の校舎裏は、外からも見えなければ学校側からも見えない完全な死角になっている。
だからこそ立ち入り禁止になっていて、俺達以外の誰もここには来ない。
完全に、俺と土御門だけだ。
「待ってたよ、サナたん」
「土御門……」
薄暗く太陽の光もロクに差し込まない校舎裏で、土御門は嬉しそうに微笑んだ。
まるで陽だまりのような笑顔。
クラスでもそうだが、この子が笑顔になるだけでクラスが明るいものになる。
そんな笑顔が、今俺だけに向けられていた。
「来てくれてありがと。すっごく嬉しいな」
「まあ約束したしな。一方的だが」
「それでもだよ」
スッ──。距離感皆無なのか、簡単に俺のテリトリーに入って来た。
腕を回せばハグができ、少しかがめばキスができるほどの距離だ。
「ドキドキしてる?」
「え、いや……」
「私はしてる。だって、好きな人と2人っきり……こんな距離なんだし」
っ……くそ、土御門ってやっぱ最上級の美少女なんだよな……!
それがこんな距離で、こんなセリフを言うなんて……。
「ねぇ……聞かせて。この間の返事」
「こ、ここでか?」
「うん。今じゃないといけない。今がいい。大きな声で、はっきりと」
俺の胸板に触れ、真っ直ぐ俺を見つめてきた。
なら……俺も伝えなきゃな。
俺の本当の気持ちを。
「土御門。俺は、お前の気持ちに応えることはできない。……ごめん」
「……続けて」
「……俺、好きな人がいる」
「運命の人?」
「……ああ」
「それって、リラたん?」
「…………あぁ」
もうここまで来たんだ。今更隠し立てする必要もないか。
「俺と久遠寺は、『運命の赤い糸』で結ばれてる。あいつは俺のことをどう思ってるかわからないけど……俺は、あいつのことが好きだ」
あぁ……言った。言ってしまった。
他の誰にも言ってない、俺の本心。
久遠寺本人にも言ってない俺の本当の心。
それを聞いた土御門は、それでも微笑みを崩さない。
「でも、2人って仲悪かったんじゃなかったっけ?」
「まあな。今でもたまにそう思うこともあるけど……そんな所も全部ひっくるめて、好きなんだ」
「……そっか」
まだ、微笑みを絶やさない。
むしろ、この答えを最初から知ってたみたいな……。
「……あーあっ、残念だなぁ〜。フられたの人生初だよ」
「悪いな」
「んーん。全然気にしてないよ。確かにショックはショックだけど、『運命の赤い糸』が私達を選ばなかった。それが運命だったんだよ」
土御門は振り返って立ち去ろうとし、ほんの少しこっちを振り向いた。
「リラたんのこと、大切にしなよ〜」
「ああ、勿論だ」
「にひー。じゃねー」
ひらひらと萌え袖を振り、校舎裏から走って行った。
……俺も帰ろう。んで、明日ちゃんと久遠寺と話そう。
気を引き締め、俺も校舎裏から立ち去ったのだった。
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