第19話

   ◆



「さあ真田。次行くわよ!」

「お、おう」



 両手いっぱいの紙袋には、久遠寺の買った服の山。

 これだけ買ってまだ買うというのか……恐るべし、女子高生JK


 ……ん? 久遠寺、ちょっと疲れてる……?

 足取りも悪いし、テンションもさっきより下がってる気がするな。

 俺はまだ大丈夫だが……仕方ない。



「あー、悪い久遠寺。ちょっとだけ疲れたから、喫茶店よって行かないか?」

「え? ……ぁ、ごめん。気付かなかった……」

「いや、いいんだ」



 俺が休みたいって言えば、久遠寺も強制的に休まざるを得ないからな。

 このまま疲れさせたら、久遠寺も不機嫌になるかもしれないし……うん、それだけは避けたい。


 久遠寺を伴い、ショッピングモールの1階にあるカフェ・アルセーヌへと入った。


 時間は17時。夕飯には早いが……あとで飯を食うのも面倒だし、ここで済ませちまうか。



「久遠寺。俺ここで飯にするけど、どうする?」

「そうね……私もお腹空いたし、食べるわ」

「俺は……どうせならガッツリいこう。牛ステーキポークチキンハンバーグセット。あとライス大盛りだな。食後にジェラートも」

「さ、流石男子高校生……」

「そうか? これでも抑えてる方だぞ。あっ、あとドリンクバーも頼もう」

「まあ、アンタは運動もしてるからね……」



 呆れたような顔をされた。解せぬ。


 因みに久遠寺はハンバーグセットとライス小にするらしい。

 俺からしたら、久遠寺がそれしか食ってない方が心配なんだが。


 店員の呼び出しボタンを押す。

 そのまま暫く待ってると。



「お待たせしましたー。……あれ?」

「え?」

「ん? ……あ」



 ……土御門?


 この喫茶店の制服を着て、髪をポニーテールにまとめた土御門が、唖然とした顔で俺と久遠寺を交互に見る。


 ……マジか。



「つ、土御門。バイトか?」

「……えっ? あ、うん。そうだけどぉ……2人って仲良かったのー?」



 土御門が困惑したような顔をした。

 あー……そりゃ学校であんだけバチバチに仲悪いのに、2人で出掛けてたら……そりゃそうなるよなぁ。


 これ、どうやって言い訳しよう。

 言い訳するにしても、久遠寺と息を合わせないといけない。

 だけど俺達にそんなことができるのか……?



「安心して、土御門さん」

「え? どういうこと、クオたん?」



 え……久遠寺? 何か作戦があるのか?

 見ると、久遠寺は俺を見て小さく頷いた。

 何か作戦があるなら、今はそれに乗るしかない……頼んだぞ、久遠寺……!



「真田は今日は荷物持ちよ」

「荷物持ち? ……ああ、確かにこの量はすごいねぇ。いっぱい買ったんだー」



 足元に置かれている7つの紙袋を見て納得したような顔をした。

 まあ、確かにいっぱい買ったな……。



「ちょっとした賭けに私が勝って、荷物持ちに付き合わせてるのよ。言わば下僕ね」

「誰が下僕だ」

「あ〜〜〜、なるほど〜」

「お前も納得すんな」



 いやまあ、俺達の普段のやり取りを見ると納得すんのはわかるけど。



「あーよかったー。なら大丈夫かなー」

「……大丈夫? 何がだ?」

「んー? 私がサナたんといい関係になっても、だよー」

「「…………………………へ?」」



 ん? え? は? ……いい関係……?



「2人が何もないなら、私が立候補してもいい?」

「り、立候補……?」

「土御門さん、何が言いたいの?」

「んー? だ、か、らぁ。──お嫁さん?」



 ……………………………………。


 んっ!?!?!?!?



「ちょ、ちょっと待ちなさい……! アンタ、自分の運命の人いるでしょ!?」

「いるよー。でも私の運命の人って、普通じゃないんだよねー」

「……普通じゃ、ない?」

「そうそっ。私と運命の人って、朱色の糸で結ばれてるんだぁ」



 え……朱色……!?

 朱色は確か、全体の4.5%しかいないレアな色。

 経済的相性抜群で、一緒に何かをすれば一生経済的に不安になることのないものだったはず。

 土御門がその色だったなんて……。



「こんな色だからかわかんないけどさー、その人のことが好きって感情は薄いんだよね。だから元から好きな人と結婚したいなーって」

「ま、待てよ。元からって……」

「うん? そうだよサナたん。あの時、私を助けてくれた時から……ずっとだよ」



 土御門ひよりは、にひっと笑うと。



「真田暁斗君。あなたのことが……すーき♪」



 俺の人生、最大級の爆弾を落とし──。



「…………何よ、それ……」



 久遠寺梨蘭は、呆然と呟いた。


 俺が聞きたい。

 何だよこれは、と。


 思考が鈍化している俺達を放置し、土御門は上機嫌に話を進める。



「まあでも、サナたんにも『運命の赤い糸』で結ばれてる相手もいるだろうし、直ぐに返事はいらないからねぃ」



 土御門は思い出したかのようにタブレットを操作すると、いつもの笑みから営業スマイルに変わり。



「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」



 何事もなかったかのように、仕事に戻った。

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