第18話

   ◆



「ね、ねえ真田。この服とかどうかしら?」

「……これを、久遠寺が着るのか?」

「え、ええ。そうよ」



 いや、これは……。


 次に見ていたのは、片方の肩だけ露出しているワンショルダートップスと呼ばれるものだ。

 白を基調にしたものだが、形状的にどうしても露出が多い。

 肩だけでなく、胸元も扇情的だ。


 正直、着ると凄く似合うと思う。思うが……やっぱり露出が多すぎて気になる。



「ちょっと試着してみるわね。こっち来なさい」

「えっ。お、おいっ!」



 急に移動したので思わず着いてきちまったが……これまずいんじゃないか。


 目の前の試着室のカーテンは閉じられ、中では久遠寺が着替えているのか衣擦れの音が聞こえてくる。

 他の個室にもお客さんが入ってるのか、靴がカーテンの外側に並べられていた。


 しかもここ、レディース専門店。

 やばい。絶対やばい。

 ────っ、視線……!


 思わず振り返る。

 と、店員のお姉さんが不審者を見るような目で見てる……!?

 いやまあそうですよねっ! 普通レディース専門店の試着室って男性はダメですもんね!



「真田ー、そこいるー?」

「え!? お、おうっ、いるぞ! でも外に出ていいかな!?」

「もうちょい待ってなさいよ。せっかちね」



 せっかちにもなるわ!

 だけど、俺が試着室に入ってる奴の連れだとわかったのか、お姉さんはニコリと笑ってどこかへ行った。

 これは……助かった、のか?

 はぁ……心臓に悪い……。



「よしっと。じゃ、開けるわよ」

「おー」

「じゃっじゃーん!」



 ────可愛い……。


 ワンショルダーならではの、制服姿や今日の服装からは想像できないほどの肌の露出。

 胸元もかなり開いていて谷間もしっかりと見えている。

 だが、思ったよりエロスもセクシーさも感じない。

 これが久遠寺が着ているからかわからないが、まとまった『美』という感じがする。


 久遠寺は見せつけるように、くるっと一回転して笑みを浮かべた。



「えへへ……どう? 似合うかしら?」

「…………」

「……真田?」

「……ぇ、ぁ……ああっ、似合ってるぞ、本当に……」



 思わず顔を背けてしまった。

 だって直視できない。ずるい。



「むっ。……や、やっぱり、露出が多いのは嫌い……? 品のない女みたいに見える……?」

「そ、そんなことはないっ。本当に似合ってるし、可愛い。けど……」

「けど?」

「……直視できない」



 今は顔を逸らすだけで精一杯だ。

 直視できないくらい可愛いし、本気で似合ってはいる。

 けど、目の保養と同時に目の毒であることには変わりない。


 そんな意味で言ったんだが。



「……んへっ。……そ、そう。……ふひっ……」



 久遠寺、嬉しそうだな。

 まあ、事実可愛いって言われて喜ばない女性はいないしな。

 あのやる気絶無みたいな寧夏だって、褒めれば普通に喜ぶし。


 だけど……やっぱり今まで見てきた女性の中で1番だよなぁ……これが赤い糸効果か。

 ……半分呪いみたいなもんだな。



「じゃ、じゃあこれは買うわね」

「お、おう……って待て! お、おい久遠寺……!」

「何よ?」

「お前っ、アレはどうしたんだよ……!」

「アレ?」



 不思議そうに首を傾げる久遠寺。

 いや、その……これは言っていいのだろうか……。



「その……し、下着……」

「下着? …………あぁ、ブラ? 当然脱いでるわよ」

「んなっ!?!?!?」

「だって、付けてたらストラップが見えちゃうじゃない」



 そんな当たり前みたいに言うなよ!?

 てことは何かっ、今目の前にいるこいつはノーブラだと!?



「! ……ふふん。どうしたのよ真田。顔が真っ赤よ?」

「お、おおおおおいっ。あんま近付くなって……!」

「どうして? 何がいけないの?」



 こ、こいつっ、わざと胸を強調するようにして近付いてきやがる……!

 俺が1歩下がる。久遠寺は1歩前に出る。

 と……トスッ。しまった、後ろは壁か……!


 久遠寺はチャンスと見たのか更に近付き──俺と触れる寸前まで近付いた。



「ちょ、他のお客さんもいるんだから……!」

「なら、声は出さないようにしなきゃね……」



 こいつこんなキャラじゃないだろ!?

 あぁっ、もう……ダメ……!






「…………ぷっ。ふふっ……ふふふっ。やーね、冗談よ」

「──へ?」






 冗談……冗談? え、冗談って?



「ノーブラで試着なんてするはずないじゃない。こんな服も着るって考えて、ストラップレスのブラを着けてんのよ」

「…………」



 何だよそれ……残念なような、よかったような……。

 何だかどっと疲れが……。

 久遠寺は試着室に戻り、カーテンに手をかけつつ振り返り。



「ふふ。ばーか」



 可愛らしく、悪態をついた。

 ……心臓が持たん……。

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