第20話

   ◆



「…………」

「…………」



 無言のまま飯を食い終え、喫茶店を出た俺達は近くの寂れた公園に流れ着いた。


 時刻は18時半。

 公園の電灯も点き、誰もいない公園を薄暗く照らしている。


 そんな中、ベンチの隣の席に座る久遠寺を見る。

 俯き、髪が垂れ下がって表情は見えない。

 お互いに無言の時間が続く。

 数分か。それとももっと経ったか。

 公園にある時計を見ると……まだ3分くらいしか経ってない。


 ……気まずい。

 当然か。俺と久遠寺は『運命の赤い糸』で繋がれている。

 それなのにいきなりあんなこと言ってくるなんてな……俺も予想外だ。


 こんな時、なんて声を掛けるのが正解なんだ……。

 気軽に? フレンドリーに? 仰々しく? 重々しく? それともおちゃらけて?


 ……どれも失敗する予感しかしない。



「ねえ」

「ひゃいっ!?」

「な、何よ変な声出して」

「あ……あーごめん。考えごとしてて」

「……土御門さんのことよね」

「……まあな」



 本当はアレきっかけで久遠寺のことばかり考えてたんだけど。



「どうするつもりなの?」

「どうって?」

「受けるの? 告白……」

「アホか」

「んなっ!? なによっ! 人が色々悩んで、迷ってるのに……!」



 ガルルルルルッ! いや犬かお前は。



「お前、ここ最近みんなの様子を見てどう思うよ」

「……みんな? 高校の?」

「ああ。それに家族でもいい。みんな、運命の人がいるのに誰かになびいたり、マイナスの言葉言ったりしてるか?」

「……言ってない……」

「だろ? 当然、俺もそうだ」

「ぇ……それって……」

「……言わせんな、ばか」



 あーくそっ、顔熱い……!

 久遠寺も俺が言いたいことを何となく察したのか、顔を赤くして俯いた。



「こほん。あー……とにかく、俺はそんなことしない。絶対だ」

「……ん。信じる」



 まだ不安げだが、薄らと微笑む久遠寺。

 寂れた薄暗い公園だからか、より一層その儚げな姿が愛らしくて、可愛くて。


 やっぱり俺、この子が好きなんだな……。



「さて、そろそろ帰りましょうか」

「もういいのか?」

「うん。今日はもう満足よ」



 ベンチから立ち上がり、鼻歌交じりに軽やかな足取りで公園を出る。

 俺も荷物を持って、急いでその後を追ったのだった。



   ◆梨蘭◆



「じゃ、久遠寺。また学校でな」

「ええ。今日はありがとう」

「……楽しかったぞ」



 真田に家の前まで送ってもらうと、最後に少しデレて走っていってしまった。



「……可愛すぎ。何なのよ、もう」



 外だと言うのを忘れて思わず独り言。


 だってしょうがないじゃない。

 今日は楽しかったし、土御門さんのこともあるし、アイツがあんな風に自分の気持ちを話したのも初めてだし……。


 とにかく色んなことがありすぎて、頭がついて行かない。


 小さくなっていく真田の背中を見つめる。

 その間を繋ぐ濃緋色の糸は、夜でもはっきりとわかるほど輝いていた。


 この糸がある限り、私と真田は運命の人……しかも、世界でも数例しかない濃緋色の糸。

 そんな人、絶対に離さない。絶対に渡さない。

 土御門さんが真田のことを好き?

 なにさ。私の方がずっとずっと前から好きで、アンタの何倍、何十倍も大好きなんだから。


 いいわよ土御門さん……その宣戦布告、受けてあげる。

 アンタがどれだけ真田のことを好きでも……私の方が上だってわからせてやるわ……!


 空を見上げ、ふんすっと息巻く。


 と……ザッ。背後に人の気配……!



「ッ! ……ああ、アンタは……」



 私の背後に立っていた黒い影。

 その影が、まるで勝ちを確信したかのようにニヤリと口角を上げた──。

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