第17話
食事を終えた俺と久遠寺は、店を出てウィンドウショッピングをすることにした。
久遠寺曰く、4月も後半になれば初夏から夏に掛けての服が売られ、今は春物の服が半額以下で投げ売りされているらしい。
「このショッピングモールってかなり高いけど、買える分の金って持ってんの?」
「お父さんにお願いしたら諭吉さんを5人くれたわ」
世の中のパパさん、娘に甘すぎじゃね?
琴乃も父さんから服代貰ってるし。何それずるい。俺も金欲しい。
少しお高めのブランドショップに入り、ノースリーブのツナギみたいな服を物色していた。
「何この服。作業着?」
「違うわよ。オールインワンのガウチョノースリーブよ。真ん中のベルトで腰を締めることで、女性らしいラインを出すの。脚はゆったりとしてるから動きやすくて……」
ペラペラペラペラ。何言ってんのか全くわからん。
ただ楽しそうに話してるのを見ると、こっちまで楽しくなる不思議。
そんな久遠寺が、2つのオールインワンの服を手に取った。
「ねぇ、どっちの方が似合うかしら?」
で、出た、面倒くさい質問!
琴乃の買い物に付き合わされる時も、似たようなこと言われるんだよな……。
ただ、楽しそうな久遠寺を見ると無下にすることもできない。
2つの服を見比べる。
1つは黒。腰周りのリボンにはワンポイントで金の刺繍があしらわれている。かなりシンプルなデザインだ。
もう1つは黄色。黒とは違い肩周りにフリルが付いていて、胸元もがっつりと開いている。可愛いとセクシーの中間みたいなデザインだな。
ふむ……。
「黒だな」
「理由を聞いてもいい?」
「純粋に黒の方が似合ってると思った。あと、どうも久遠寺がフリルを着る印象が湧かない。最後にむな──ぁ」
「? 何よ」
あ、あー……これは……えっと……。
「な、何でもないっ」
「むっ。言いなさい。何言っても怒んないから」
「それ怒る人の言葉だろっ」
「いいから!」
ぅ……ぐぅ……!
「…………から……」
「え?」
「む……むな……っ! 胸元がっ、開きすぎてるから……!」
くそっ、何言ってんだ俺は! こんなのほとんどセクハラみたいなもんじゃないか……!
流石にこんなこと聞いたら、久遠寺も怒るか……?
と思っていたが。
「ぁ……ぅ……そ、そ、そうっ、ね……!」
怒りなのか羞恥なのか、顔を真っ赤にして体を震えさせていた。
何だ、怒らないのか……? まあ怒られなくて済むなら、それでいいが……。
久遠寺はその服を一旦戻すと、また色々と俺の意見を聞きながら服を物色する。
「ふむ、なるほどね。じゃあ別のお店に行きましょ」
「了解」
「……なんか、手馴れてるわね」
「まあ、女性との買い物も初めてじゃないしな」
主に琴乃だったり、寧夏だったり、土御門だったり。
あいつら、服を褒めないと怒るわ、ちゃんとエスコートしなかったら怒るわ、適当なことを言ったら怒るんだよ……まあ、おかげで色々と鍛えられたが。
それにクソ面倒な後輩。
あいつが1番こういうのにうるさかった。
あいつ馬鹿だから、銀杏高校に受からないとは思うし、もう2度と会うことはないだろうな。
なんて考えていると。
「ふーーーーーーーーん……」
めっちゃジト目で睨まれた。
「……何だよ」
「そう言えば、中学の時からアンタの周りって不思議と女の子がいたわよね」
「ぐっ」
「琴乃ちゃんに、璃音に、十文寺さんに、最近では土御門さん。それに後輩の女の子が1人。あとは──」
「待て待て待て。あいつらと俺はそんな関係じゃないからな。あと琴乃は妹だ」
「でも一緒に出掛けてたのは事実でしょ?」
「うぐぅ……!」
いや、マジで違うんですよ。あの子達は普通に友達なんです。本当なんです、信じてください。
……何で俺、浮気してるクズ男みたいな言い訳してるんや。
「女たらし。ふんっ」
「だ、だから違うって……俺鍛えてて力はあるから、荷物持ちとかやらされてただけだって。ちょっと、聞いてます?」
◆梨蘭◆
ムカムカムカムカッ!
ムカチーーーーーーーーーーン!
何さ! 何さ何さ何さ!
そりゃ真田にだって人付き合いはあるしっ、中学の頃から大人びてて他の女の子にも密かに人気があったさ!
それに優しいし、頼まれたら断れない性格してるし、よく見たらカッコイイし!
でもやっぱり他の子と一緒にいたことのある事実に、私の気持ちは複雑なのよ!
はぁ……あぁ、どうして私、中学の頃素直になれなかったんだろ……いや、今でも素直とは言い
……待てよ? 昔は私と真田を結び付ける関係なんて、ただ言い合うだけの関係でしかなかった。
でも今は……赤い糸がある!
そう、そうよ! 他の誰でもない、『運命の赤い糸』が私と真田を結び付けているわ!
「お、おい久遠寺? さっきからイラついた顔したり落ち込んだり目を輝かせたり、どうしたんだよ」
「うっさい、黙ってなさい」
「しどい……」
ふっふっふ……真田、そうして余裕ぶっこいてるのも今のうちよ。
久遠寺、動きます!
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