第14話

 放課後の日課であるトレーニングを終え、夜の自室。

 俺は今、ベッドの上で正座になっていた。

 目の前にはいつも使っているスマホが1台。開いてる画面は、【梨蘭】のトーク画面。もちろん履歴は真っ白。


 ……何を送ればいいんだ……。



「『こんばんは』……は違うな。『はじめまして』? いやはじめてじゃないし。『お嬢ちゃん今どんなパンツはいてんの?』……いや変態か」



 はぁ、珍しくテンパってるな、俺も。

 参った……寧夏や琴乃はともかく、久遠寺とやり取りするとなると何を話せばいいのかわからん。

 それに、別の女の子ならこんな緊張することもないんだが……やっぱり運命の人だからかな。


 時刻は既に20時を回っている。

 これ以上遅くなると、流石に迷惑になりそうだし……ええいっ、ままよ!



 暁斗:こんばんは

 暁斗:(犬が挨拶してるスタンプ)



 ふぅ。まずはジャブで様子見。

 と、直ぐにピコンと音が鳴って返信が返ってきた。



 梨蘭:やっぽー☆

 梨蘭:もーアキト君かたいぞ☆気楽に行こうよ☆



「誰だこいつ」



 暁斗:すみません、間違えました

 梨蘭:ごめゆさなた!今よお姉ちゃん!お姉ちゃんでかや!



 なんだ姉か。久遠寺って次女だったんだな。

 てかこいつ慌てすぎ。誤字しまくってるじゃん。かわい──。



「うぐぅ……!」



 何ナチュラルに可愛いとか言いそうになってんだ俺はぁ……って言っちゃってるし! ちくしょうっ、調子狂う!



 暁斗:そっか。陽気そうなお姉さんだな

 梨蘭:まあ、いつも助けてもらってるわ。今だって……

 暁斗:何かやってたのか?



 ……あれ? 既読付いたまま止まった?

 ピコン。あ、来た。



 梨蘭:勉強!勉強見てもらってたの!

 梨蘭:お姉ちゃん、帝都大学行ってるから

 暁斗:帝都か。日本でも最高峰の大学じゃん

 暁斗:凄いな



 俺も勉強はちゃんとしてるけど、帝都大学に行こうだなんて思えない。

 やっぱり久遠寺の身内だけあって、律儀でキッチリした人なんだろうか。



 梨蘭:と、ところで土曜日のことなんだけど

 暁斗:ああ、出掛けるんだよな。どこがいい?

 梨蘭:真田は行きたい場所はないの?



 俺の行きたい場所か……。



 暁斗:特にないな

 暁斗:久遠寺はどうだ?



 ここでまた止まった。

 どこに行きたいか悩んでるみたいだ。

 待つこと5分。ようやく返事が返ってきた。



 梨蘭:多すぎて決められない



「かわいすぎか……」



 ダメだ、最近久遠寺の可愛さが際立って極まってる。

 ……いや、久遠寺自身は変わってないだろう。変わったのは、彼女を見る俺の目だ。


『運命の赤い糸』で結ばれてると知り、久遠寺の動きや言葉に苛立ちではなく愛らしさを覚えている。


 我ながら単純で浅ましいな……。

 ピコン。お、返事が返ってきたな。



 梨蘭:私的にはラブホとかいいかも

 梨蘭:お互いを知るにもいいでしょ?



 ────。


 らぶほ……らぶほ? ラブホ……。



「ふぁっ!?」



 えっ……えっ!? まさかのお誘い!?

 流石にそれは早すぎると言うか、意外と大胆と言うか! そりゃ思春期の俺としてもやぶさかではないし、据え膳は食うタイプの男なのでむしろ嬉しいと言いますか!


 ピコン。あれ、また来た。



 梨蘭:今のもおねちゃんだかりゃあ!

 梨蘭:わすれへ!忘れなさち!

 梨蘭:ふつーにショッピング!ふつーに、ふつーに!



「ぁ……そ、そうだよな。うん、何だそうか」



 久遠寺のお姉さん、心臓に悪いからやめてください。

 ……ちょっと残念なのは内緒だ。



 暁斗:心臓に悪いからやめてくださいって、お姉さんに伝えといて

 梨蘭:わ、わかったわ



 ……久遠寺とラブホか……。

 い、いかんいかん。考えるな、俺。下手するとセクハラになる。



 梨蘭:それで土曜日なんだけど、せっかくならショッピング行かない?

 梨蘭:そろそろ夏物の服も売られるだろうし



 なるほど、服か。

 正直、あんまり服にこだわりはないんだが……久遠寺も楽しみにしてるみたいだし。



 暁斗:服か。俺も欲しいと思ってたから、いいぞ

 梨蘭:ほんと?

 梨蘭:ありがとう



 どうやら正解の返信だったらしい。

 ここで久遠寺の機嫌を損ねるのはアウトだもんな。



 暁斗:つっても、服は欲しいがどんな服を買えばいいのかわからないんだよな

 梨蘭:それなら私が見繕ってあげるわ

 暁斗:助かる

 梨蘭:(犬が「任せとけ」と言っているスタンプ)



 なんと、梨蘭も犬派だったか。ちょっと親近感。



 暁斗:それじゃ、そんな感じでよろしく

 梨蘭:ん、よろしく

 梨蘭:明日の授業の予習があるから

 梨蘭:今日はもう終わりっ

 梨蘭:おやすみ

 暁斗:おう、お疲れ



 授業の予習か……そういや、久しくやってねーな。

 中学の時は頑張ってたけど、高校入ってからはメッキリやってないし。


 …………。



「俺もたまには予習するか」



 っと……その前にコンビニ行こ。



   ◆梨蘭◆



「カルお姉ちゃん!」

「ごめんよぉ〜」



 謝ってないなこの姉は!

 迦楼羅お姉ちゃんはニヤニヤした顔でゴリゴリ君アイスを食べる。



「でもよかったの? お互いを知るにはエッチした方が早いよ」

「それが早すぎるって言ってるの!」



 全くもうっ、お姉ちゃんは!



「我が妹ながらヘタレだなぁ」

「ヘタレで結構よ、ふんっ」

「でも、何送ればいいかわからないって泣きついて来たのはリラだよ?」

「むぐっ……」

「私のおかげで話ができたんじゃにゃいのかにゃ〜?」

「うぐぅ……! ……れ、冷蔵庫のゴリゴリ、私の分あげます」

「へへ。まいど〜」



 お姉ちゃんには一生勝てない。

 改めてそう思いました。

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