第13話

   ◆



「じーーー」



 …………。



「じーーーーーー」



 ……………………。



「じーーーーーーーーー」



 …………はぁ。

 廊下側チラリ。



「!」



 体隠してブロンドヘアー隠さず。

 ものすごくわかりやすく警戒されてるな……。

 それに、なんかめっちゃ睨まれてる。やっぱり土曜のことを根に持ってるらしい。


 朝から曇っていて憂鬱な月曜日。降水確率は70パーセント。所により雷。

 そんな最悪の日に、久遠寺はあの様子。当然、龍也と寧夏が見逃すはずもなく。



「アッキー。リラと何かあったのん?」

「いや、何もない。……はずだ」

「へいへいへーい。暁斗、何もなかったらあんな風になるはずないだろ」



 その通り過ぎてぐうの音も出ない。

 だが、正直言うと何で怒ってるのかわからないんだ。

 俺と久遠寺は同じ気持ち……のはず。

 あいつは俺を嫌いで、俺はあいつを天敵と見ている。

 それを素直に伝えただけなのに、ガン切れされて避けられてしまっているのは……納得がいかない。



「ま、あんまし泣かすなよ、暁斗」

「そーそ。女の子は卵のように扱わなきゃねぃ」



 とか適当なことを言い、2人は揃ってどっかに行ってしまった。


 あの時、俺が地雷を踏んだからこうなってるんだよな……だけど何が地雷なのかさっぱりわからん。助けてドラ〇もん。



   ◆



 結局午前中は何事もなく(ずっと睨まれてたけど)授業を終え、昼休みになった。

 いつものように龍也と寧夏と共に飯を食おうとすると。

 コツンッ。頭に何か当たった。


 クシャクシャの紙……開けてみると。



『屋上前の踊り場集合』



 可愛らしい丸文字でこんなことが書いてあった。

 送り主は……まあ、あいつだろう。



「んー? 暁斗、どっか行くのか?」

「ああ、ちょっとな。先食っててくれ」

「あいよー」

「アッキー、いてらー」



 2人に見送られ、人目を忍んで指定の場所へ向かった。

 ここまで来ると、昼休みだと言うのに下からの喧騒は聞こえない。静かなもんだ。


 階段の1番上で、階段に座る久遠寺が1人。頭を膝につけ、顔を隠すようにしている。


 けど……その格好、やめてほしいなぁ。ピンク系のパンツ見えちゃってるから。



「……あー……来たぞ」

「…………」



 少し顔を上げて、こっちをチラ見。

 よく見ると、顔が真っ赤だ。怒りなのか羞恥なのかはわからんけど。



「…………」

「…………」



 互いに沈黙。

 どうすればいいのか困惑してると、久遠寺がゆっくりと息を吐き、顔を上げた。

 覚悟を決めたような、しっかりとした目で俺を見つめる。



「真田、土曜は……ごめん。……ごめんなさい」

「……え? ごめん、何に対して謝ってるんだ?」

「……勢いで、大嫌いって言っちゃった」



 …………ん? え? ……勢い?



「えっと……それは、本当は俺のことが嫌いではない……ってことか?」

「勘違いしないで」

「あ、はい」

「ぁ、違っ……うぅ……!」



 ……わからない。今までもわからなかったけど、ここ最近の久遠寺は余計わからない……。



「と、とにかくっ。本当にごめんっ!」

「……わかった。何に対して謝ってるのかはわかんないけど、とりあえずわかった」

「……正直なのね」

「実際わからんからな。ここで取り繕って後々面倒になるより、素直な方がいいだろ」

「ぷっ。何それ」



 お、笑った。

 土曜日も思ったが、やっぱり笑った方が可愛いな、こいつ。



「まさか、そのために呼んだのか?」

「違うわよ。その……まあ、曲がりなりにも私達って、『運命の赤い糸』で結ばれてるわけでしょ?」



 久遠寺が左手を挙げる。俺も挙げる。

 そこには、間違いなく俺達を結ぶ赤い糸がある。

 もう慣れた、今更だ。



「ああ、まあな」

「それで思ったのよ。どうせなら、敵対するのはやめようって」

「……どういうことだ?」

「えっと……あの、その……仲良く、はまだ無理かもしれないけど、お互いに、お互いのことを知ろうって……」



 ふむ、なるほど?

 つまり久遠寺、俺と仲良くしたいってことか。

 ……なんだよ『も』って。それじゃあ俺がこいつといい感じになりたいみたいじゃないか。


 頭を振ると、久遠寺は指をもじもじさせた。



「お、お互いのこと知ってたら……誤解もなくなりそうだし……」

「……誤解?」

「っ! い、今のは違う! 言葉の綾!」

「お、おう」



 深く考えないようにしよう。考えても、こいつのことを知らない俺じゃあ変に勘ぐることになりそうだし。



「でもさ、学校で急に態度を変えるのはやめようって、前にも話したよな? どうすんだ?」

「だ、だから、その……学校以外、とかは……?」

「なるほど、外か。いいぞ」

「そうよね、いきなりこんなこと言っても迷惑……………………へ?」



 えっ。なんでそんな驚いた顔してんの?



「お互いを知るなら、学校より外の方が自分らしさを出せるかもしれないだろ。いいよ」

「い、いいの……? 本当に……?」

「ああ。じゃ、どこ行くか決めるために、アドレス交換しとこうぜ」



 メッセージアプリ、LIMEを起動させる。

 それを見た久遠寺も、惚けた顔でLIMEを起動した。



「じゃ、ふるふるするぞ。ほれ、ふるふる」「ふ、ふるふる……」

「……お、できた。じゃあ帰ったら連絡するわ。じゃな」

「う、うん……」



 階段を降り、降り、降り。

 LIMEに新しく登録された『新規友達』を見る。


【梨蘭】


 …………。






「イエスッッッッッッッッッ!!!!」



   ◆梨蘭◆



「…………」



 呆然。

 私は今、その言葉を全身で体感していた。


 意味がわからない。

 デート……とまでは行かないが、一緒に遊びに行く約束はできた。

 それだけじゃない。予想外のことが起きた。


 LIMEに追加された、『新規友達』。


【真田暁斗】



「…………」



 …………。






「ニャアアアアアアアアッッッッ!!!!」

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