第4話
◆
日直の仕事が終わり、朝のホームルーム間近。ようやく自分の席に戻ってこれた。
何だか今日は、異様に荷物が多かったな。いつもの倍疲れた。
因みに席順は久遠寺、
が、寧夏が小さすぎる。並びに龍也がデカすぎるため席順が変わり。
特例として
勿論俺達がこんなことを言ったわけではない。我らが担任のご厚意である。
ありがとう、先生♡(殺意)
「はぁ……」
「ちょっと、後ろでため息つかないでよ。アンタの陰気な空気が神聖な私に当たるじゃない」
「……ああ、いたのお前」
「いたわよ!」
朝から突っかかってくんな。疲れるから。
久遠寺は文句言いたそうな顔で振り返る。おん? やんのかてめー。
だが俺達を繋ぐ『運命の赤い糸』を見ると、憎々しげに唸って前を向いた。
それを見ていた後ろの龍也が、驚いたように呟いた。
「へぇ……久遠寺が引き下がったぞ。珍しいこともあるんだな」
「そ、そうだな」
「暁斗、お前さん何かやらかしたか? ついに愛想でも尽かされたか」
どうせなら愛想尽かされた方が何倍もいいんだが。
それを龍也に言うと、勘繰られそうだから言わないけどな。
「あーあ。この夫婦喧嘩を見るのが毎日の楽しみなんだけどなぁ」
「「夫婦じゃない! ……ふんっ」」
「お、ナイス夫婦」
だから夫婦じゃないって……もういいや。
はぁ……昨日までは単に気に食わない、気の合わない女って立ち位置だったのに……1日でこんなに変わるもんなのか。
恐るべし、『運命の赤い糸』……。
改めて左手の薬指を見る。
赤を超えた緋色の糸。触ろうとしても触れず、物質も突き抜けている謎めいた糸。
本人同士にしか糸は見えず、他の誰が誰と繋がってるかもわからない。
本当、なんなんだ、これ……。
「なあなあ、アキえも〜ん。暇だよぉ、構ってよぉ」
「やめろ服を引っ張んな。つってもあと5分くらいで先生来るぞ」
「やれることはあるさ」
「なに」
「運命の人について」
チッ、忘れてなかったか。
てか久遠寺。ピクっと反応すんな、バレるだろ。
「昼メシん時でいいだろ。今は寧夏もいないし」
「お、乗り気だな。よし決まりだ」
全く。そんなに人の運命の人が気になるかね……。
その後、龍也と他愛もない会話をしていると、教室の前から先生が入って来た。
眼鏡をかけた若い女性の先生。
背がスラッと高く、歩く度に揺れるポニーテールと巨乳が特徴的で、キリッとした雰囲気から男女問わず人気がある。
三千院先生は教壇に立つと、鋭い菫色の目でクラスを見渡す。
「……では諏訪部委員長、号令を」
「はい。起立、気を付け、礼。おはようございます」
「「「おはようございます」」」
クラス委員長である諏訪部さんの号令で、全員が挨拶をする。
このクラス、意外とギャルやヤンチャそうな生徒はいるが、こういう所はしっかりとしているのだ。
「おはようございます。さて本日ですが、皆さんご存知の通り運命の日です。なので今日の1時間目の現国の授業は、運命の日と『運命の赤い糸』について勉強します」
ザワッ──。
……今更、また勉強するのか?
運命の日と『運命の赤い糸』は、小さい頃から勉強して来ている。
今更感はあるが……ま、先生がやるっていうならやるしかないか。
◆
ホームルームが終わり、1時間目。
三千院先生が何枚かのプリントを配布し、黒板に板書した。
題は、【運命の日について】。
「皆さんもご存知の通り、本日は運命の日。そして皆さんの左手の薬指には、『運命の赤い糸』が見えるはずです」
クラス中が、自分の左手の薬指を見る。
確かに、繋がってるな……久遠寺と。
「実はその赤い糸は、色で意味が分かれています。手元のプリントを見てください」
へぇ……それは知らなかったな。どれどれ。
◆◆◆
赤色(全体の90%):一般的な糸の色。
桃色(全体の4.5%):肉体的相性抜群。脳裏に浮かんだ人を一瞬で好きになる。
朱色(全体の4.5%):経済的相性抜群。運命の人と一緒になれば経済的に不安になることはない。
緋色(全体の1%):桃色、朱色のいいところを備えた最強の色。奇跡としか言いようがないほど相性がいい。
◆◆◆
ははーん、なるほど。
別紙の識別表で糸の色の濃さを確認する。
当然桃色ではない。
赤色……ではない。赤より全然濃い。
朱色でもないや。この糸の方が濃い。
緋色……ん? 緋色より濃くないか?
……あれ、プリントの下に小さくなんか書いてある。
◆◆◆
なお、緋色より更に上に【濃緋色】というものがある。
今まで、全世界で数例しか確認されていない奇跡中の奇跡の色。
肉体的相性:桃色の数十倍いい。互いに触れ合うだけで相手を想う気持ちが止められなくなる。
経済的相性:朱色の数十倍いい。事業を始めれば世界有数の大企業になること間違いなし。
以下濃緋色識別用↓↓↓
◆◆◆
ほうほう、へー。俺達の糸、濃緋色にまんま近い色してるな!
……おいマジか……。
前に座る久遠寺は……体がプルプル震えている。
顔は見えないが耳やうなじまで赤くなってるから、相当お怒りのようだ。
「皆さん、ご自身がどの色か判別しましたか? それでは次に、糸が伸びている方向を見てみましょう。その先に、あなたの運命の人がいます」
うっ……伸びてる、方向……。
久遠寺が体をビクつかせ、おずおずと、ゆっくり振り返る。
潤んだ緋色の瞳。
口元はあわあわと動き。
顔どころか首まで真っ赤になっている。
その顔はどう見ても怒りではなく、羞恥と困惑……そしてちょっとの嬉しさを含んだ、何とも言えない表情だった。
そして多分……俺も、同じような顔をしてるだろう。
なぜわかるかって?
俺も、似た気持ちだからだ。
「それでは、伸びている方向へ向けて祈りましょう。手を組み、いつか会えるその日を夢見て」
ごめんなさい、もう会ってます。
だが周りを見ると、男女問わず同じように手を組んでいた。
これは……俺達が、しないわけにはいかない……な。
生唾ごくり。
覚悟を決めて手を組むと、久遠寺も慌てて手を組み目をギュッと閉じた。
俺と久遠寺が互いに向かい合い、目を閉じて祈る。
そして同時にこう思った。
──どうしてこうなった。
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