第3話

「にしても、暁斗と久遠寺って本当に仲悪いよなぁ」

「だなぁ。ウチらとつるむようになる前から仲悪かった気がするぅ」



 後ろから着いてくる2人が、不思議そうに俺と久遠寺の話をしていた。


 まあそりゃそうだろう。

 俺と久遠寺が仲が悪いのは中1のとき。2人とつるみ始めたのは中2のときだ。


 理由は……正直わからん。


 中学の1番最初の中間試験。それから2週間くらいたったときだ。今でも覚えてる。


 7月も半ばに入り、もうそろそろで中学初の夏休みという頃だった。

 他クラスから、突如俺のいた1組に乱入してきた久遠寺。

 俺を見つけるなり第1声が。



『アンタみたいなちゃらんぽらんな奴っ、絶対認めないんだからぁ!』



 だ。

 意味わからんだろ? うん、俺もわからん。

 俺も、当時友達だった奴もぽかーんだ。

 確かに当時の俺は、お世辞にもしっかりはしてなかった。

 それでも、それが許されるべく勉強だけは頑張った。今でもそれなりにいい成績ではいる。


 なのに、いきなりやって来た初対面の女にちゃらんぽらんと言われる筋合いはない。なんなのだアイツは。


 当時のことを思い出したら腹立ってきた。

 ……よしよし、大丈夫。俺の脳は、まだ奴を天敵として認識してるらしい。


 1年5組の教室にやって来ると、ちらほらだがクラスメイトの女子達がいた。

 クラスでもイケイケのギャルグループ。まだ高校生活が始まって半月だというのに、見事にカーストトップの座に居座っている。



「あー、サナたんおはー」



 と、そん中の1人のギャルが俺を見るなり話しかけて来た。

 淡い桃色に染めた髪に、第3ボタンまで開けたシャツ、スカートもかなり短い。

 いわゆる典型的なギャルだ。

 しかしメイクはナチュラルで全くケバくない。

 童顔かつ甘い声だから、実年齢より幼くも見える。


 土御門つちみかどひより。

 ちょっと縁があってできた友達だ。



「おはよう、土御門」

「むー、ひよりんって呼んでよー。この苗字硬くて嫌いなんだからさぁ」

「何で。かっこいいだろ土御門」

「ひ、よ、り、んー」



 ガキかこいつは。


 と、そんなやり取りを見ていた黒ギャルが、俺と土御門を交互に見て興味津々と言った感じで聞いてきた。



「えー、なになに? ひよりんとサナダ、知り合いなん?」

「うん。運命の人だよー」


「「「「……はっ!?」」」」



 ちょ、こいつっ、何言って……!?



「アッキー、まじ?」

「こいつはおでれーたな」

「待て寧夏、龍也。違うから、違うからな? 土御門も、変な誤解を産むことを言うんじゃない」



 デコピンくらえ。

 土御門の綺麗なおでこを弾くと、「あいたー」と嬉しそうに摩った。全くこいつは……。


 小さくため息をつくと、黒ギャルが口を開いた。



「で? で? ひよりん、何でサナダが運命の人なん?」

「んー。ひよりね、入試の時にエグい痴漢にあったんだぁ。怖くて怖くて、声も出せなかったのー。その時助けてくれたのが、サナたんなんだー」



 と、俺に熱っぽい視線を向けてくる。

 何となく居心地が悪くなり、目を廊下の方に逸らすと──ヒッ!?



「…………」



 久遠寺が鬼のような形相で睨んでらっしゃる……!?



「梨蘭ちゃん、いつにも増して怖いわよ」

「怖くないもん!」



 いや怖いぞ。

 だけど、そんな久遠寺に気付かない土御門は、まだ話を続ける。



「あの時、入試の緊張と相まってギャン泣きしちゃってさー。メイクもボロボロだし、頭も心もぐちゃぐちゃだし、あーもーいーや。やーめたって感じだったの」



 確かにな……あん時の土御門は、もう手が付けられないくらい泣いてた。

 本当、見てられないくらい。



「でもね、それもサナたんが助けてくれたんだぁ。コンビニであったか〜いココアと、あま〜いチョコを買ってくれてね。受付の締切5分前まで、全力でひよりを励ましてくれた……だから今のひよりがここにいるのは、サナたんのおかげなんだよぉ」



 にこりと微笑む土御門。

 それを見たこの場にいるみんなは、おぉ〜と感嘆の声を上げた。



「暁斗、お前やるじゃん」

「さすがアッキー。よっ、色男」

「やめろ恥ずかしい」



 俺だって、好きで人助けをした訳じゃない。

 土御門を助けたのは、同じ銀杏高校を受験するって知ったからだ。

 別の高校を受験する子だったら、多分駅員さんに任せてさっさと試験会場に向かっただろう。


 同じ高校を受験するために頑張った努力を考えたら、どうしても放っておけなかった。それだけだ。



「だからこそ残念だなぁ。ひより、サナたんが運命の人だと思ったのに」

「まあまあ、ひよりん。そんな奇跡あるはずないって」

「ぶーっ」



 他のギャルに慰められながら、パックジュースを飲む土御門。

 確かに、土御門が運命の人だったら……なんか一生甘やかされてダメ人間になりそうだ。



「じゃあ、土御門の運命の人ってどんな奴だったんだ?」

「普通かなー。頭に浮かんだ瞬間に、あーなるほどねーとは思ったけど」



 ……? なんか、あんまりリアクションが薄いな。



「サナたんは? 相手、どんな人だったの?」

「さーて席に座るかー」



 ガシガシガシッ。

 両肩を龍也、右手を寧夏、左手を土御門に掴まれた。



「おいおい、逃げるなよ少年」

「ゲロっちまった方が楽だぜぇ」

「サナたん、聞きたいなー」



 うっ……。

 目をそらすように久遠寺をチラ見。

 久遠寺は竜宮院と話してはいるが、バッチリ聞き耳を立てていた。


 アイツだって言いたい。

 嫌いで、大嫌いで。

 天敵みたいな奴で、お互いいがみ合ってるって声を大にして言いたい。


 でも……心の隅では、アイツに傷付いて欲しくないって思ってて……。



「……普通……かな……?」

「じゃあさ、ひよりとどっちが可愛い?」

「うむ。甲乙つけがたいがどっちも可愛いな。だけど運命の人補正でアイツの方が個人的には好み……はっ!?」



 つ、つい可愛いかと聞かれたから可愛いと答えてしまった……! 久遠寺は……!? ……よかった、竜宮院との話に夢中になってて聞いてないみたいだ。



「なにー? ウチらのひよりんより可愛いってのかー?」

「ひよりんの方が絶対可愛いのにー」

「うぎゅっ。えへへぇ」



 左右からギャルに挟まれご満悦の土御門。

 こ、これ以上この話を掘り下げるのはやめておこう。



「じゃ、じゃあ俺、日直の仕事があるから」

「暁斗、また後で聞くからなー」

「逃げんなよアッキー」



 うるせぇ。






「梨蘭ちゃん、手で顔を覆ってどうしたの?」

「にゃんでもにゃい」

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