遠い宇宙へ

リュウ

第1話 遠い宇宙へ

 私の足元から三万六千キロメートル下に地球がある。

 ここは、宇宙エレベーターの静止軌道ステーションだ。

 上空の高軌道ステーションは、宇宙空間に旅たつ多数の宇宙船が停泊していた。

 私は、雲の隙間から僅かに見える地上を見つめていた。

 青く綺麗であった地球……。

 今は、その姿は無かった。

「そろそろ時間だぞ」

 と、声をかけてきたのは、天才科学者『ティト』だ。

 髪は長めのくせ毛で、細身の身体が神経の細かそうな印象を与える青年だ。

 私の外見は、この『ティト』とそっくりだ。

 多くの人が、兄弟と間違うほどだろう。

 そうなったのには、訳がある。

 私たち二人は、祝賀会が開催される『未来の間』に向かっていた。

 地球を起点として八方向に宇宙船を飛ばし続けると言う企画の祝賀会だ。

 地球の気が遠くなるほどの遥か向こうには、第二の地球があるかもしれない。

 未知の文明があるかもしれない。

 人類の夢があるかもしれないのだ。

 『未来の間』には、私とティトのような二人が八組集まっていた。

 同じように双子のような組み合わせだ。


「席に着いてください。」と、アナウンスが流れる。

 私たちは、自分の名前プレートが置いてある席についた。

 全員、席についた時に正装の主催者が話始めた。

「この企画は、この地球から八方向に宇宙船を飛ばし、

 得られた情報を発信していただきます。

 既に多くの方のチャンネル登録され、多くの読者があなた方に期待されています。

 チャンネル登録者は、読者であり、また、あなた達の応援者であります。

 あなた達、八名はこれから宇宙に旅立つことになります。

 多分、もう会えないでしょう。

 ネット上でお会いしていると思いますが、直にお話してください。

 一番近い仲間ですから、では、ご自由にどうぞ。」

 会食が始まった。


 誰かにフィルターをかけられた限定的な情報や有名人のスキャンダルや、

 面白くもない芸を見せられることに飽き飽きしていた人たちが、

 まだまだ、未知の多い宇宙に興味を抱いていた人から支持されていた。

 闇が限りなく続く宇宙空間で、輝く星を撮影し、羅列された数字のデーターだけでなく、感情や感覚に訴える情報を読者や仲間に届ける。

 

 約百年あまりの寿命しかない人間では、そんなに遠くに行くことが出来ない。

 機能も加齢により衰える為、長期の宇宙旅行には耐えられない。

 また、宇宙空間での作業も大げさな宇宙服が必要だったりする。

 そこで、私たち、アンドロイドの出番となった。

 部品の交換も出来るし、耐久性は人間より上だ。


 更に、感情や感覚の表現力の向上のため、『最新スーパーAI』を搭載した。

 この『最新スーパーAI』ってのは何かというと、人間に近いAIということだ。

 人間に近いAIが必要かというと、この旅は長い時間を必要とするからだ。

 結果が視覚的に捉える結果という報酬が無くてもその行為を続けられるのは、人間だけだ。

 他の動物は、続けることができない。

 人間は努力して何かを達成することに、快楽を感じて頑張ることが出来る。

 つまり、快楽という報酬があれば、長く同じことを続けることができるということだ。

 人間と同じ、『報酬型』の神経回路を元に構築されたAIが必要になったのである。


 この『報酬型』の神経回路の先端の研究者として、八人の天才科学者が選ばれた。

 この天才科学者たちの完コピしたアンドロイドの研究を始めた。

 それが、八体のアンドロイド、私たちだ。

 八人の天才研究者たちは、自分のライフログや感情をデータとしてAIを学習させた。

 感情、感覚、快感の記憶をも研究者に限りなく近い情報を提供させた。

 そのため、同じ外見にし、話し方、仕草、考え方が他の人から二人が区別出来なくなるまで、改良を重ねた。

 更に、人間の思考的暴走を防ぐため、『プロスペクト理論』までも回路に組み入れた。

 この総指揮者が、私の元である天才科学者『ティト』だ。


 八体のアンドロイドが顔あわせ、握手し、抱き合い、出会いを喜び、別れを悲しんだ。

 そして、決して一人ではないことを確認した。


 人類と私たち自身の希望のために、今、旅立つことを誇りに思う。

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遠い宇宙へ リュウ @ryu_labo

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