第19話 ケジメ
ある日の事――――
「藍花ちゃん…」
「おばさん…」
「…ごめんなさい…」
スッと私に封筒を差し出した。
私は受け取ると中身を確認した。
「…これ…」
そこには小切手が入っていた。
「全く使っていないわ…本当にごめんなさい…」
「…おばさん…返してくれてありがとう…」
おばさんは首を左右に振る。
「警察沙汰になってもおかしくない事をしてしまって…本当…ごめんなさい…」
「いいえ…。…確かに…警察沙汰にしても良かった…だけど…そんな事をすると…もっと大変な事になるかもしれません…」
「…藍花…ちゃん…」
「今、こうして返してくれた事で私はそれで十分です」
「…それを…あなたの部屋から持ち出した時、一人の男の子とぶつかったの」
《優矢の事だ》
「あなたの事も、その小切手も知っている様子だったし…。その時は、私も急いでいたから深く考えてなかったけど…大事な何かなのだろうって…後々、考えて…」
「…はい…。凄く大事なものです。たった一枚の紙切れだけど…値段以上のものなんです…。ううん…値段で買えないくらい本当に大切なものです」
「…藍花ちゃん…」
「この一枚で…私と…あなたがぶつかった男の子との関係や人生が大きく左右されている所でした」
「………………」
「…そうだったのね…そんな大事なものを…本当にごめんなさい…それは凄く悪い事をしたわね…」
私は首を左右に振る。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「それじゃ」
おばさんは帰って行った。
私は、すぐに行動を起こした。
私に必要なものは小切手なんかじゃない!
優矢が好きだから、愛しているからこそお金で左右されたくなくて本音でぶつかって優矢の母親に話をしに向かった。
追い返されても何度も何度も小切手を返しに本人が受け取るまでは絶対に諦めないと……
「申し訳ございません。只今、お取り込み中でして…」
「…そうですか…」
尾田桐家のメイドと交渉中。
「…こちらに、お渡ししたいものがあったんですけど…」
「それでは。私(わたくし)がお預かりして、お渡ししておきます」
「いいえ。改めて伺います。失礼します」
私は帰り始め、メイドも屋敷の方に戻って行き始める。
ガシャガシャン……
鉄柵をのぼり始める私。
「困りますっ!」
「離してっ!退いてっ!」
私は振り放すと押し退け屋敷の中に入って行く。
「お待ち下さいっ!」
「困りますっ!」
「離してっ!私は話があるのっ!」
「お帰り下さいっ!」
「私は話が済むまでは帰らないっ!」
「やけに廊下が騒々しいですわね」
「……………」
「…藍花…?」
俺は、母親と話をしている中、聞き覚えのある声にまさかと思い廊下に出た。
「…藍花…」
間違いなく、愛する女、藍花の姿だった。
「離してっ!」
「不法侵入です!今すぐに屋敷から…」
藍花は、男の執事やボーイに両手を掴まれていた。
「おいっ!彼女を離せっ!」
「しかし、優矢様…彼女は許可なく無断でメイドを押し退け…」
「黙れ!あー、確かに彼女は不法侵入したかもしれねーけど…ここの屋敷に用事があって来たって事は、一般人でも大事なお客様じゃねーのかよ!」
ドキン…
「それは…」
「第一、彼女は俺の大事な女だ!俺の許可なしに気安く触んな!」
ドキッ
「もう一度言う!彼女を離せ!」
そう言うと優矢は私の傍に来るなりボーイや執事から引き離すような勢いな中、彼等はパッと命令に従うように両手を離した。
「下がれっ!」
「はい…かしこまりました…」
「…はい…申し訳ございません…」
「…失礼致します」
「………………」
オデコにキスをする優矢。
ドキン
「大丈夫か?」
「うん…ごめん…勝手な事して…迷惑かけて…」
「いや…勝手な事とか、そんな心配はするな。お前は俺の女なんだから勝手な事しているのは、むしろアイツ等だろ?」
「…優矢…」
「お前がここに自ら足を運んだという事は…」
「…ケジメ…つけに来た…」
優矢は優しく、何処か淋しさを思わせる表情を見せるとキスをした。
「…分かった…」
優矢は私を部屋に入れた。
「まあっ!声の主はあなただったんですね。一般の方が何の御用です?」
そこには母親の姿。
バンッ
小切手をテーブルの上に投げ付けるようにおいた。
「…まあ…小切手?貧困な方が何を?息子と引き換え…」
「違いますっ!」
母親が言い終える前に話をする。
「これは、あなた達が私に渡した小切手ですっ!」
「……………」
「一切、手はつけていませんっ!」
「手をつけていようと、つけていなくても、あなたに差し上げたものです。あなたのものなのですから、どうぞこれを持って、お引取りなさい。ちょっとっ!誰か、この一般の方である部外者を…」
「待てよっ!」
「…優矢!何ですか?」
「…優…矢…?」
スッと小切手を取る。
「彼女がいらないっていうなら俺が貰って良いですか?」
「まあ…!優矢っ!何を…」
「元々、あなた達が彼女に渡したものなんですよね?俺と引き換えに手を引けと…」
「………………」
「…優矢…」
「じゃあ俺が、この小切手を貰う代わりに彼女…緒賀本 藍花と俺に手出しはしないで頂けませんか?」
「…えっ…?優…」
優矢は手で制した。
「俺もお金と引き換えとかするのは好きじゃねーよ。だけど…俺と引き換えに、この小切手を彼女に渡したのなら…俺がこの小切手をどう使おうが良いですよね」
「…………」
「母親であるあんたと、あのお嬢様が彼女にしたように…この小切手はあんたに一旦返した事になるし、俺達は…愛し合っている中、引き裂かれるようにされた以上…今度は俺達の邪魔しないで貰えませんか?」
「…優矢っ!一般の方となんて、お辞めなさいっ!あなたも、それは痛い程お分かり…」
「だったらっ!様子を見る時間くれても良いんじゃないんですか?彼女は、今までとは違う素晴らしい女性です。俺は、それを知った上で彼女…藍花を一人の女性として見てきた…愛し合い彼女をずっと見てきたんだよっ!」
「………………」
「コイツの幸せを…これ以上奪わないで欲しい…コイツが幸せだって言う…その時間を俺は一緒に傍で感じていきてーんだよ!」
「…優…矢…」
私は優矢の言葉が嬉しかった。
「…優矢は…おもちゃじゃありません!尾田桐 優矢という一人の人間で一人の男です」
「そんな事あなたに言われなくても良く…」
「本当にそうでしょうか?」
私は母親の言葉を遮るように言った。
「あなたは…モノとしか見ていないと思いますっ!彼に自分の人生を押し付け自由を奪い愛する女性(ひと)までも選ぶ権利を全て、あなたの好き勝手にされてるんじゃないんですか?」
「………………」
「もっと…彼の言い分を聞いてあげて下さい!もっと良い人生を送らせてあげて下さい!彼の人生なんです!私は…引っ越し続きで支えになってくれる人は両親だけでした…」
「………………」
「…でも…その両親を事故で亡くしてから私の人生は真っ暗になりました…。だけど…彼が…尾田桐 優矢がいたから、ここまでこれました。私は彼に出逢い毎日が楽しいって思えたんです」
「………………」
「彼は…私の支えでした…。すみません…お騒がせ致しました…失礼します…」
私は深々と頭を下げ部屋を後に飛び出した。
「藍花っ!おいっ!待てよっ!」
グイッと廊下に出てすぐに引き止められた。
「お前…両親…共働きって…」
「…ごめん…嘘…。あの時は…まだ受け入れられなくて…。…でも…それ以前の問題で…優矢と雨の日に街で会った時は…もう…いなかったんだ…」
グイッと抱きしめられた。
ドキン…
「…そうだったのか…何か理由があるような気はしていたけど…」
私は優矢を抱きしめ返す。
「…これが…私が話さなきゃいけない事…。ごめんね…優矢…嘘ついてて…。優矢…私…優矢の事信じて待ってるから…。だから…いつか必ず…私の元へ…戻って来て…」
抱きしめた体を離し壁に押し付けた。
ドキン…
キスをされ深いキスをすると首スジと鎖骨辺りにピリッと痛みがはしる。
オデコ同士をくっつける優矢。
「藍花…分かった…。しばらくは良いけど…消えるかもしれねーけど…印つけといた…約束の印」
「…約束の…印…?」
「帰ってから見てみな」
私達はキスをし、深いキスをすると別れた。
家に帰り私は見てみると赤くなっていた。
「キスマーク…って…言うんだっけ…?」
私は恥ずかしくなった
アイツと出会う前とは
180度回転した気がする
何もかもアイツに
教えられた
人を愛する事
愛される事
アイツといる時が
家族といる時みたいに
凄く幸せな時間
私よりも大人で
初めて会った時
まさか
こんな人生が
待っていたなんて……
女性として良い所を
アイツは…
教えてくれた……
ねえ…優矢…
あなたは…
戻って来てくれますか…?
あなたの人生に
私は…いますか…?
あなたの人生に
一緒に……
隣で……
歩めますか…?
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